第83話
そして翌朝。
「おはよう、ユイトさん!」
「…んっ?もう朝か……。ふあぁぁぁ」
「あははは。ユイトさん、凄い寝ぐせだよ」
「そんなにか?じゃあちょっと直すか…。
ふあぁぁぁ、眠い……」
ユイトは寝ぼけ顔でベッドから降りると、寝ぐせを直すべく頭上で水魔法を発動。
ドバァーーーッ
「………」
「あはははははっ、何やってるのユイトさん!あははははは!」
寝ぼけて加減を間違えたユイト。
上から下までずぶ濡れだ。
「……なんか、すげぇ汗かいたかも」
「………」
一体どんな汗だ。
すぐに服を着替えて慎重に魔法で髪を乾かす。
「よし、完成!」
「ふふっ。朝からおもしろかった!」
ティナから思わず笑みがこぼれる。
「それにしても昨日は楽しかったね!」
「あぁ。たまにはあぁいうのも良いもんだな。
ユキも楽しかったか?」
「ワオォン!」
「はは。そりゃ良かった!」
その後、ユイトたちはパパっと朝食を済ませ、出かける準備に取り掛かる。
今日の主な予定は、ティナの冒険者プレートの交換と防具のメンテナンス。
出かける準備も整い、簡易宿の外に出る。
さすがに街の近くで簡易宿を出しっぱなしにするのもなんなので、ここは一旦、異空間へと収納。
その後、冒険者プレートを交換すべく、冒険者ギルドへと向かった。
「おはよう!シノンさん!」
「おはよう!ティナちゃん、ユイトさん!
昨日は楽しかったですね!ゆっくり休めましたか?」
「そりゃあもう。はしゃぎ疲れて朝まで熟睡だったよ」
「ふふ。それは何よりです。
それで今日は例の約束の件ですね?」
「うん!すごく楽しみにしてたの!」
そう言うとティナは冒険者プレートを首から外し、シノンへと手渡す。
「あぁ懐かしい……あの模擬戦からもう3年以上経つんですね…」
ティナの冒険者プレートを手に、なんだか感慨深そうなシノン。
そしてしばし冒険者プレートを眺めた後、シノンはそこからタグを取り外し、新しい冒険者プレートへと取り付けた。
「はい、ティナちゃん。これが新しい冒険者プレートですよ!」
「えっ?もう出来たの?」
「ふふ。実はですね、新しい冒険者プレート自体は昨日のうちに
作っておいたんです!」
「ほんとにっ!?ありがとう!シノンさん!」
ティナは新しくなった冒険者プレートを嬉しそうにシノンから受け取ると、早速それを身に着ける。
「ふふっ。これでユイトさんと同じだ!!」
なんとも嬉しそうなティナ。
「ティナちゃん。今日はこれから防具のメンテナンスですか?」
「うん。これから行ってくるの」
「ふふっ。じゃあ、しっかりメンテナンスしてもらってくださいね!」
「はい!それじゃあシノンさん、どうもありがとうございました!
また来るねっ!」
「はい。楽しみに待ってますねーっ!」
シノンに挨拶を済ませギルドを出ると、今度はガンツの店へ真っすぐ向かう。
「ガンツさん元気かな?」
「ガンツさんならきっと元気だろ。
今日も元気にエレンさんの尻に敷かれてるぞ、多分」
「ふふ。そうかもね」
ほどなくしてガンツの店の前へと到着。相変わらず小さな店構え。
ユイトたちは早速、店の中へと足を踏み入れる。
「ガンツさん。久しぶり!」
「お久しぶりです。ガンツさん」
「おぉ、ユイトと嬢ちゃんじゃねぇか!久しぶりだな!戻ってきたのか!?」
「あぁ、昨日な」
「…つーか、何だそのでけぇ狼は!?」
「こいつは俺たちの仲間で、ユキっていうんだ」
「仲間だぁ?そんなでけぇ狼が仲間って、まったくお前らとんでもねぇな」
「ははは。で、一応言っとくけど、ユキは狼じゃなくてフェンリルな」
「そうか、フェンリルか。………。
はぁっ!?フェ、フェ、フェンリル様ぁーーーっ!?」
するとガンツは突然正座。ユキに向かって頭を下げ始めた。
「おい、いきなりどうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたもねぇ。
フェンリル様はな、俺たちドワーフにとって守り神みてぇなもんだ。
ドワーフの国は終末の森に近けぇからな。
フェンリル様は、大昔から終末の森の魔獣どもからドワーフの国を
守ってくださってたんだ」
「ほぅ、なるほど…」
「っと、こうしちゃいられねぇ」
ガンツは相変わらずのコミカルな動きで店の奥へと消えていく。
そして何やら手に持ってすぐに戻ってきた。
「さぁさぁ、フェンリル様。お召し上がりくだせぇ。
俺の今晩のおつまみでさぁ」
「おいおいガンツさん、いいのか?ガンツさんのおつまみなんだろ?」
「何言ってんだっ!?
このおつまみも俺なんかに食べられるより、
フェンリル様に食べられた方が幸せってもんよ」
誇らしげに言い切るガンツ。
(…そういうもんなのかね)
「じゃあ、せっかくだから食べな、ユキ」
「ワオォン!」
ガンツから差し出されたおつまみをおいしそうに食べるユキ。
「おぉ!俺のおつまみをフェンリル様が…」
その様子を嬉しそうに眺めるガンツ。
「悪いなガンツさん」
「いいってことよ。
…しかしよ、まさかフェンリル様をこの目で見れる日がやってくるなんざ
夢にも思わなかったぜ……」
その後ガンツは、おつまみを食べるユキの周りをウロチョロ ウロチョロ。
色んな角度からユキを眺め喜んでいる。
(ははは。なんか子供みたいだな)
「…にしても嬢ちゃん、大きくなったな。
しかもえっれぇ別嬪さんになっちまってよ」
「もう、ガンツさんったら!そんなことないよ!」
少し照れるティナ。
「かっかっか。
で、今日はどうしたんだ?
顔見せに来ただけってわけじゃねぇだろ?」
「あっそれなんだけど、私の防具、もうサイズが合わなくなっちゃって」
「なるほど、手直しか。
確かに大きめに作ったとはいえ、そんだけ大きくなりゃな。
…ところで、”斬魔”と”光与”の調子はどうだ?」
「あぁもう最高だな。
こんな凄い剣作れるなんて、やっぱガンツさんって凄いんだな」
「そうだろう、そうだろう」
ユイトの言葉にガンツはご満悦。
「じゃあちょっと待ってな。エレンを呼んでくる」
再びコミカルな動きで、ガンツは店の奥へと消えていく。
するとすぐに、パタパタパタと足音をたててエレンがやってきた。
「ティナちゃん、久しぶりね!」
「お久しぶりです。エレンさん」
「あらぁ、ティナちゃん大きくなったわね」
まじまじとティナを見るエレン。
「それにしても相変わらず、すっごくかわいいわね」
「そんなことないですよ。エレンさんこそ、相変わらず凄くお綺麗です」
「かっかっか。そうだろう、そうだろう。
エレンは世界一綺麗だからな。がはははは」
まるで自分が褒められたように喜ぶガンツ。
「もう!そんなこと言っても何も出ないわよ」
そう言うエレンも、まんざらではなさそうだ。
相変わらず仲が良さそうで何よりだ。
「それで今日は防具のサイズ直しだったわね?」
「はい。お願いします」
「ふふ。任せて頂戴。
じゃあティナちゃん、サイズを測るからこちらに来てくれるかしら?」
そしてエレンとティナが店の奥へと消えていってから数分。
2人が戻ってきた。
「じゃあ、今はちょうど他の仕事も入ってないし、一週間で仕上げるわ。
一週間後にまた来てくれるかしら?」
「はい、分かりました。
じゃあエレンさん、よろしくお願いしますね!」
「ガンツさんもまたな!」
「ワオォン!」
最後にユキにモフられ感激するガンツ。
「うほーーーっ!!」
今日はいい夢を見れるに違いない。