第81話
「わぁーっ!久しぶり!!」
「2年半ぶりってとこだな。けど、相変わらずここは賑やかだな」
「ほんとだね。…そういえばユキはこの街、初めてだね」
「ワオォン!」
「ふふ。凄く大きな街だからはぐれないようにね!」
そう、ユイトたちは久しぶりにサザントリムへと戻ってきていた。
今回ユイトたちがサザントリムを訪れた目的は大きく2つ。
1つは、15歳になったティナの冒険者プレートを”通常”の冒険者プレートに交換してもらうため。
もう1つは、サイズが合わなくなったティナの防具を手直ししてもらうため。
防具は大き目に作ってはもらったものの、作ってから早3年。
さすがにこれ以上は厳しいということで、約束通りエレンに手直しをお願いする。
「…ねぇユイトさん。
ガンツさんのお店に行く前にまずはあそこに行かない?」
「そうだな。そうするか」
「やったー!
あぁ…みんな元気かなぁ?早く会いたーいっ!」
大はしゃぎのティナ。
「ははっ!嬉しそうだな」
「もちろんっ!」
「ま、そりゃそうか。…じゃ行くか」
「うんっ!」
冒険者ギルド サザントリム支部 カウンター奥。
「あー疲れたぁ。溜まってた仕事、やっと片付いたわ。
シノンはどう?」
「うん。私もあと少しよ」
いつものようにせっせと仕事をこなすシノンとミーア。
そんな2人はこの後、思いもよらぬ再会を果たすこととなる。
「…な、何だ!?あのでかい狼!?」
「…まさかあいつらが従えてるのか!?」
「おい、でも見ろよ。あいつらFランクだぜ」
急にざわつき始めるギルド内の冒険者たち。
「…どうしたんだろう?何かあったのかな?」
カウンター奥からでは、何があったのかがよく見えない。
シノンとミーアはカウンター手前まで移動し、冒険者たちの方を覗き込む。
すると…
「…えっ……まさか」
シノンはすぐさまカウンターを飛び出した。
「あっ、シノン!どうしたの!?待って!」
ミーアもすぐにシノンの後を追いかける。
混雑するギルド内。
シノンは冒険者たちをかき分け、そこへと向かう。
そしてシノンが辿り着いた先。
そこでシノンの目に映ったのは見覚えのある2人の冒険者。
その瞬間、ユイトとティナが挨拶する間もなく、シノンは2人に飛びついた。
「会いたかった!会いたかったよーっ!」
2人に抱きつき、嬉し涙を流すシノン。
「お久しぶりです、シノンさん!」
「シノンさん。久しぶり!」
少し遅れてミーアも到着。
「…えっ!?ユイトさんとティナちゃんっ!?」
「おっ、ミーアさん。久しぶり!」
「ミーアさん、お久しぶりです!」
「やっぱり、ユイトさんとティナちゃんですか!!
いやーティナちゃん大きくなりましたね。
それに、元々かわいかったけど、さらにかわいくなっちゃって。
どこかの国のお姫様って言われても私信じちゃうわ」
そう、ミーアが言う通り、ティナは道行く人が振り向くほどのかわいさだ。
地球にいたら間違いなくアイドルになれただろう。
「ユイトさんも少し、背伸びました?」
「少しだけな」
「うーん、かっこかわいかったけど、かっこ良さが勝りつつありますね。
60対40と言ったところでしょうか…」
(んっ?何だそりゃ?)
「ほら、シノン。そろそろ離れないと。
2人とも困っちゃうよ?」
ユイトとティナに抱き着いたまま幸せそうな表情を浮かべるシノン。
「…ミーア。それは全力でお断りします」
「………」
すぐにミーアに引きずられ、ユイトとティナから引きはがされるシノン。
「うぅー、ミーア……ひどいよぉー」
「はははは!相変わらずシノンさんは面白いな」
今も昔も変わらぬシノンに、なんだかほっとするユイトとティナ。
そしてミーアを前にようやく諦めたのか、シノンが立ち上がる。
「それにしても大きな狼ですね。お2人のペットですか?」
「あーこいつはユキっていうんだ。俺たちの家族であり、仲間だ。
ちなみにユキは狼じゃなくて、ティナと従魔契約を結んだフェンリルだ」
「………。えっ!?フェ、フェ、フェ、フェンリルーーーっ!?
フェンリルと従魔契約を結んだんですかーーーっ!?」
2人とも見ている方が驚くくらいの驚きよう。
「あぁ、ほら。ここにティナの髪留めと同じ模様があるだろ?
これが従魔契約の証だよ」
「ほ、ほんとだ……。
聖獣フェンリルがいるってだけでも信じられないのに……」、
唖然とするシノンとミーア。
「……でもこの感じ…何だか懐かしいですね。
お2人にはいつも驚かされてましたもんね。
あぁ、2人が帰ってきたんだ…って、そんな気がします」
ユイトとティナを見つめるシノンから笑みがこぼれる。
「それで今回はどのくらいサザントリムに滞在できそうなんですか?」
「そうだな…1週間~10日ってとこかな。
ティナの防具のメンテナンスにかかる日数次第だな。
ごめんな。せっかく喜んでくれたのに長居出来なくて」
その言葉にシノンは首を横に振る。
「…いいえ。世界にはお2人を待っている人たちがきっとたくさんいますから…」
そう言うシノンの顔は少し寂しそうだ。
「…ねぇ、シノンさん。私、15歳になったの。
前にシノンさんにお願いしたこと覚えてる?」
「もちろんです。ちゃんと覚えてますよ!」
「ふふ。良かった!」
冒険者ギルド 2階。
「どうしたガイル?」
「いや、何だか1階が騒がしいと思ってよ。何かあったのか?」
「あぁ確かにな。ちょっと見てくるぜ」
席を立つアドラー。
そして手すりから身を乗り出し1階を覗き込む。
「…なんだ、あのでけぇ狼は?」
そしてそのすぐ横へと視線を移す。
「…なっ!?」
その瞬間、アドラーが叫んだ。
「おい、ガイルっ、ランドルっ!
早くこっちに来い!いいから早く来いっ!!」
「…なんだ?あんな慌てて?」
急かすアドラーの元へと向かうガイルとランドル。
「おい、あそこ見ろ」
ガイルとランドルも手すりから身を乗り出し、アドラーが指さす1階を覗き込む。
「…なっ、まさかっ!?
おい、行くぞっ、お前ら!!」
バタバタバタバタッ
すぐに1階へと駆け降りる”タイガーファング”。
「おーい、兄貴ぃ!姐さーん!」
「おー久しぶり!」
「みなさん。お久しぶりです」
「会いたかったぜぇ。いつ戻ってきたんだ?」
「ついさっきな。
ティナの冒険者プレート交換と、防具のメンテナンスをしに立ち寄ったんだ」
「…立ち寄ったっつーことは、あまり長居はしねぇって感じだな…」
「あぁ、悪いな」
「いや、兄貴と姐さんは俺らと違って忙しいだろうからな。
つーか、そのでけぇ狼は兄貴たちのか?」
「あぁ、俺たちの仲間だ。ユキって言うんだ」
「ふふふふふ。”タイガーファング”の皆さん。聞いて驚きなさい」
シノンが得意げに話し出す。
「ユキさんは狼ではありません。伝説の聖獣フェンリルです。
しかも、ティナちゃんと従魔契約を結んでるんです」
「フェ、フェ、フェ、フェンリルーーーっ!?しかも従魔契約ってかっ!?
……はっ、ははは。凄ぇ、凄ぇぜ!さすが俺らの姐さんだ。
相変わらず凄すぎるぜぇーーっ!!」
”タイガーファング”のテンションが凄いことになっている。
その時、一組の冒険者パーティーが冒険者ギルドに入ってきた。
そんな彼らの目にも、すぐにユキの姿が飛び込んでくる。
「何だあれ?凄い大きな狼だな」
「ほんとだな。横にいる奴らのか?」
シノンにミーア、さらには”タイガーファング”まで狼の近くで嬉しそうに話し込んでいる。
そしてそのすぐ横には、見覚えのある後ろ姿。
「…えっ?ちょっと待って!?」
セフィーが急に狼の方に向かって走り出した。
「おい、セフィー。どうしたんだ?」
バタバタバタバタッ
勢い良く近づくセフィーの足音に、後ろを振り向くユイトとティナ。
「あーやっぱり!ユイト君とティナちゃんだ!会いたかったよー!!」
「おぉ、セフィーさん。久しぶり!元気そうだな!」
「お久しぶりです、セフィーさん!他の皆さんは?」
「すぐに来ると思うよ」
「おいセフィー、って、…えっ!?まさか、ユイトとティナちゃんか?」
「これは驚いたな…。まさかユイト君とティナちゃんが来てるなんて…」
予期せぬ再会に驚く”天翔の風”のメンバーたち。
「久しぶりだな、みんな」
「皆さん。お久しぶりです」
久々の”天翔の風”。みんなあの頃と変わらない。
「それにしてもティナちゃん、大きくなったわね。
って言うか、ますますかわいくなっちゃって」
ティナを見て言うことは皆同じ。
「なぁ、ティナちゃん。もし良ければ俺と、」
スッパーーーン!!
「痛っ!」
「何言ってんのよ、リガード!」
「ちょ、セフィー。冗談だって!」
「はははははっ!」
何だか同窓会の様になってきた。
「ところで、この大きな狼はユイト君とティナちゃんのかい?」
またまた来ましたこのくだり。
「あぁ、俺たちの仲間だ。ユキって言うんだ」
そして、待ってましたと言わんばかりにシノンが話し出す。
「ふふふふふ。”天翔の風”の皆さん。聞いて驚きなさい。
ユキさんは狼ではありません。伝説の聖獣フェンリルです。
しかも、ティナちゃんと従魔契約を結んでるんです」
「…えっ?フェ、フェ、フェ、フェンリルーーーっ!?
しかも従魔契約って…!?」
(おぉーーー、既視感が半端ない)
この後も話が盛り上がり、結局みんなで夜ご飯を食べることに。
ということで、シノンとミーアは早く仕事を上がるため、すぐに仕事を再開。
邪魔しちゃ悪いということで、ティナの冒険者プレートの交換は明日に延期することにした。