第80話
それから数日後。
王都へと戻ってきたユイトとティナはステラに会うため王城へと向かった。
もちろん学校の話をするためだ。
王城前に着いたユイトたちは、すんなり王城内へと通される。
もはや完全に顔パス状態だ。
2人は案内された応接室の柔らかソファーに腰かけ、ステラを待つ。
それからほどなくして、ステラが応接室にやってきた。
話を聞いてみると、どうやら国の復興活動もある程度落ち着いたらしく、今はそれなりに時間が取れるらしい。
すぐに学校の話をとも思ったが、ステラの提案でまずはアレ。
そう、ご褒美のお時間だ。
ということで早速ユイトたちは、ステラ先導の元、王城見学ツアーへと出発。
兵士の訓練場、貴重な書物が保管されている蔵書室、ダンスホール、食堂、宝物庫など、普通ならば絶対に見ることが出来ない場所を色々と案内してくれた。
行く先々では、出会う人たちが皆、頭を下げる。
もちろんステラに対してだと思うが、なんだか恐縮してしまう。
それにしても引率者が女王陛下とは、なんと豪華な見学ツアーだろう。
もしこんなツアーが地球にあったら、間違いなく予約が殺到するだろう。
その後もステラに連れられ、広い王城内をくまなく見学したユイトたち。
期待のさらに上ゆく、なんとも豪華な王城見学であった。
さてお次は、ステラの執務室でティータイム。
王城見学でたくさん歩いたので、ここでいったん一休み。
ユイトとティナは紅茶を、ユキにはミルクをいただくことにした。
紅茶をいただきながらステラと談笑。
そして一息ついたところで、例の話をすることにした。
「ステラさん、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけどさ」
「はい、何でしょう?」
「じゃあ、ティナ。頼めるか?」
「はい!」
ようやくステラに話を聞いてもらえる。
そんな嬉しさからかティナの表情はとても明るい。
「えっとですね、ステラさん。
実は私とユイトさんで、どうしたら困ってる人たちを減らせるのか
考えてみたんです。そのことをステラさんにも聞いてもらいたくて」
「ティナさんとユイトさんが?
はい、分かりました。ぜひ聞かせてください」
そしてティナは、あの日ユイトと話し合ったことをステラに向け語り出した。
熱く語るティナ。
そんなティナの言葉にステラも真剣に耳を傾けた。
そして…
「凄い…凄いわ、ティナさん!ティナさんの言う通りだわ!!
そんな考え、私には全く思いもつきませんでした。
私はこれまでずっと、学校は貴族が通うもの、
国の仕事は貴族が行うものだと思っていました。
それが当たり前で、それに何の疑問も抱かなかった。
知らず知らずのうちに、私はその常識にとらわれ、
その枠内でしか物事を考えられていなかったのですね…。
民たちも通える学校、それが根付けば必ず、今よりもずっとずっと
豊かな国になる。私はそう確信しました。
ティナさん、ユイトさん。本当にどうもありがとうございます」
その瞬間、ティナがとびっきりの笑顔をユイトに向けた。
ユイトもまた、そんなティナに向け笑顔で頷いた。
その後、ユイトが続ける。
「…でもステラさん。
自分たちで言っといてなんだけど、民たちが知恵を付けるってことは、
民たちが力を付けることにも繋がるだろ?
貴族の中には、それを良しとしない人もいたりするんじゃないのかな?」
「確かにその可能性は0ではないでしょうね。
ですが、それも含めて全体がうまく回るようにするのが私の役目です。
任せてください!」
そう言い切るステラの顔には自信が漲っていた。
「まっ、確かにステラさんなら大丈夫だろうな」
「はい。期待しててください」
「それじゃあ、色々と決めなくちゃな。
子供たちを学校に通わせるってことは、子供たちを労働力として
当てにしている町や村にとっては痛手だからな。それをどうするか。
あと、どこに学校を作るか、何を教えるか、教える人をどう育てるか、
他にも決めなくちゃいけないことが山ほどある」
「ユイトさんの言う通りですね。色々と決めていかないと…。
あぁ、こうしちゃいられないわ。
ユイトさん、ティナさん。
私はまず、お2人にご提案いただいたことを臣下たちに説明します。
具体的な議論は、目指すべき所を皆で共有できた後に開始したいと思います。
そしてその会議には、ユイトさん、ティナさん、
お2人にもぜひ参加していただきたいと思います。
凝り固まった我々の目では気づけないことがたくさんあるでしょう。
ぜひ、お2人の知恵をお貸しください」
もちろんユイトとティナはステラの依頼を快諾。
学校制度導入に向けた会議は、この数日後から始まった。
皆が国を想い、それぞれの意見をぶつけ合う。
そして数日間にも及ぶ長い会議の末、制度・進め方の大枠が決定された。
その骨子は、ざっとこんな感じだ。
まず、学校は初等、中等、高等教育の3分類。
中等教育までは無料で、基本子供を通わせる。
学校に子供を通わせる家庭は、その人数に応じて税を軽減。
子を労働力として当てにしている家庭への対策だ。
そして学校制度の導入は、まず王都エルミネから開始する。
その後、徐々に全土へと広げていく計画だ。
王国全土で一斉に開始するには、資金も人手も足りない。
しばらくは王都で実践し、その間に制度の改善・拡充、それと並行して教える側の人材育成も進める算段だ。
この世界において画期的ともいえる新たな学校制度。
メイリ―ル王国のこの取り組みは、数年後、広く世界に知れ渡ることとなる。
ティナのふとした疑問から始まった今回の件。
ステラを筆頭に真剣に議論するみんなの姿を見てユイトは思った。
この国はもう大丈夫だと。
それから数日後。
「…なぁ、ティナ。
やることもやったし、そろそろ次の国に行こうと思うけど、どうだ?」
「うん、そうだね。
…でもやっぱり、みんなと別れるのは寂しいね。
これだけは何回経験しても慣れないな…」
「そうだな。
でも、それだけティナにとって大切な人が増えたってことだよな。
まぁ二度と会えないわけじゃないし、また会いに来ればいいさ。
それに新たな出会いもきっとある」
「うん」
「じゃあ、この国を出る前に、ステラさんに挨拶だけしておこう」
後日、別れの挨拶をするため、ステラの元を訪れたユイトたち。
そこは何度も足を運んだステラの執務室。
「…そうですか。行ってしまわれるのですね……」
寂しそうな表情を浮かべるステラ。
「あぁ。俺たちの旅の目的は、困ってる人たちを助けることだからさ。
きっと世界にはそういう人たちがまだまだたくさんいる」
「それがお2人の旅の目的……。
ユイトさんとティナさんらしいですね」
ユイトとティナのそんな想いがこの国を救ってくれた。
(…そうね。私たちだけがお2人を独占していてはダメね)
ステラは、2人にこの国に留まってほしいとの思いを必死に押し殺した。
「ユイトさんが言われるように、
きっと世界にはお2人を待っている人たちがたくさんいるでしょう。
非情に残念ですが、これ以上、お2人をお引止めするわけにはいきませんね。
…ですが、これだけは覚えていてください。
私は、お2人から受けた恩を生涯忘れません。
何があろうと私はずっと、お2人の味方です。
もしこの先、困るようなことがあれば、必ず力になります。必ずです。
それだけは忘れないでください」
「あぁ、分かった」
「ステラさん。近くに来たらまた会いに来るね」
「はい。近くにお越しの際は必ず立ち寄ってください。
またお2人にお会いできる日を楽しみにしています」
「じゃあ、ステラさん。
ステラさんも大変だと思うけど、頑張ってな!」
「それじゃあ、ステラさん。行ってきまーす!」
「ワオォン!」
こうしてステラに別れを告げたユイトとティナとユキ。
3人は次なる旅に向け、王都エルミネを出発した。
……そして月日は流れ、ユイトたちがメイリ―ル王国を発ってから2年後。