第78話
一連の出来事に関する国民への説明は、特に大きな混乱もなく無事終了した。
その結果に、ステラやリゼール前国王は胸をなでおろした、
そしてその翌日。
メイリール王国王城、新たに女王となったステラの執務室。
「ユイトさん、ティナさん。昨日はお疲れ様でした。
ユキさんは出番がなくてごめんなさい」
ユイトたちに労いの言葉をかけるステラ。
するとティナが、すかさず言葉を返す。
「ステラさんこそ、お疲れ様でした!」
「そうだよステラさん。
俺なんて突っ立ってただけだからな」
「ほんとだよ。もうっ!」
「ワオォン!」
ティナに同調してユキも一吠え。
「だからごめんって。もうしないからさ」
ティナに頭が上がらないユイト。
「ふふふ。冗談です!」
そんなユイトたちのやり取りをステラは微笑みながら眺めていた。
「こんな穏やかな気持ちで、微笑ましい光景を眺めていられるのも
すべてお2人のおかげですね。
夢にまで見た日常が今ここにある。
本当に…本当にありがとうございます」
そのステラの言葉にユイトは首を横に振る。
「ステラさんが頑張ったからだよ。
俺たちはほんの少し、ステラさんを後押ししただけだ。
それに昨日ティナが言ってたように、
俺たちはステラさんの懸命な姿に心打たれたんだ。
……心から思ったよ。
この人を助けたい。この人が救おうとしているこの国を救いたい、ってさ」
「ユイトさん…」
「俺たちの心を動かしたのはステラさんだ。
それに俺たちだけではデモンドールに辿り着けなかった。
諦めずに戦い続けたステラさんの3年間が、
夢にまで見た日常を現実のものにしたんだ。
だからステラさんはもっと自信をもっていい。誇っていい。俺はそう思う」
「私もユイトさんの言う通りだと思います」
「ユイトさん…ティナさん…。
お2人にそう言っていただけると、何だか救われたような気がします。
私のあの3年間は無駄ではなかったんだって…」
「当たり前です!
あんなに頑張ってたステラさんの頑張りが無駄なはずありません!」
ティナは温かな笑顔をステラに向けた。
「……ところでステラさん。ちょっと質問があるんだけどさ」
「どうされました?」
「今回の件、ステラさん以外はみんなデモンドールに操られてたんだろ?
でもなんでステラさんは大丈夫だったんだ?
もちろん、ステラさんが”みんなを守りたい”っていう強い意志を
持ってたのは分かるけどさ」
「…あぁ、そのことですね。
私もつい最近まで、それがなぜなのか全く分かりませんでした。
ですが元凶が悪魔と知った今は、少し思い当たることがあるんです。
もっと早くこのことに気付いていれば、と悔やまれるのですが…。
王城にいたにもかかわらず、私だけが大丈夫だった理由…
それは、おそらくこの指輪のおかげです」
ステラは指輪をはめた右手を、ユイトとティナに向けそっと差し出した。
「…その指輪が?」
「はい。この指輪はメイリール王家で代々受け継がれてきたもので、
私も亡くなった母から譲り受けました。
いつ作られたかまでは分かりませんが、この指輪は時の称号者が作った
”破魔の指輪”というものだそうです」
「”破魔の指輪”…。それを称号者が?」
ユイトの言葉にステラが頷く。
「ご存じかもしれませんが、称号者とは、何かしらの条件を満たした時、
世界がそれを認め、世界から称号を与えられた者のことです。
満たすべき条件も不明、どんな称号があるのかも不明、
与えられた称号の力も不明と言われています。
ただ唯一、どの称号者もその能力が開放されたとき、
人の常識をはるかに超えた力が宿るとされています。
おそらくこの指輪を作った称号者は、その能力が開放されていたのだと
思います。そしてその能力をもってこの指輪を作った。
おそらく私は、この指輪に護られていたんだと思います」
「なるほど…そういうことか…」
ステラの話に驚いた表情を浮かべるティナとは対照的に、妙に納得するユイトを見てステラが尋ねる。
「やはりユイトさんは、称号者のことをご存知でしたか?」
「まぁ、古代竜からちょっとね」
「ふふふ。さすがですね」
まさかユイト自身が称号者であるとは微塵も思わぬステラ。
「それでですね。お2人にはお伝えしておこうと思いまして。
実は…お2人に初めて会ったあの時、村のみんなを守ろうと
必死に戦っていたあの時、突然頭の中に声が流れたんです。
『”護りし者”を獲得しました』と」
「”護りし者”……称号か…」
「…えっ!?ステラさん、称号者になったの!!?」
驚くティナに向け、ステラが笑みを浮かべ頷く。
「凄い!!凄いです、ステラさんっ!!!」
大興奮のティナ。
「ふふっ。どうもありがとうございます。
今はまだ、それがどんな称号なのかは分かりませんが、
きっと大切な民たちを守ってくれる力だと私は信じています」
「ま、名前からしてきっとそうだろうな」
「……いいなぁ。
私もいつか、世界に認めてもらえる日が来るのかなぁ…」
「ふふ」
そんなティナを見てステラがにこやかに話しかける。
「ティナさんなら、すぐに認められますよ。
それにティナさんは既に、この世界よりもはるかに凄い人に
認められてるではありませんか」
その言葉に、ティナがユイトの顔を覗き込む。
「まっ、そう言うことだ」
誰よりも認めてもらいたいユイトのその言葉に、ティナは本当に嬉しそうな表情を浮かべた。
コンコンコン
と、その時、誰かがドアをノックする。
「はい。どうぞ」
ステラが返事をすると、1人の役人が部屋へと入ってきた。
「失礼します。お話しのところ申し訳ございません。
至急、今後の復興計画についてご相談したいことがございます」
「分かりました。すぐに行きます」
ステラを呼びに来た役人は、それだけを告げると直ぐに部屋を出ていった。
「ユイトさん、ティナさん。すみません。
会議に行かねばならなくなりました。
せっかくお越しいただいたのに、ゆっくりお相手もできず申し訳ありません」
「いいんだよ。それがステラさんの仕事だろ?
俺たちも俺たちに出来る範囲で手伝わせてもらうよ。
それじゃあ、落ち着いた頃にまた来るよ。
王城を案内してもらうっていうご褒美をもらいにさ。
王女様の案内じゃなくて、女王様の案内になっちゃったけどな」
「ふふふ。分かりました。
それでは私も楽しみにお待ちしていますね」
そうして、ステラに軽く挨拶を済ませたユイトたちは、復興作業を手伝うべくメイリール王城を後にした。




