第77話
「先ほども話したように、今回、我々は未曽有の危機にさらされました。
我々がこれまで経験したことのない、我々の常識が全く通用しない程の
相手がその元凶でした。
……3年にも及ぶ悪夢。ですが皆さんを苦しめたその悪夢は、
2人の英雄の手によって終わりを迎えました」
ステラがユイトとティナの方に顔を向け、小さく首を縦に振る。
2人はそんなステラに対し小さく頷くと、足を大きく前に踏み出した。
「紹介します。我が国を救った英雄、ユイトさんとティナさんです。
お2人はこの国の国民でないにもかかわらず、
私の頼みを快く引き受け、協力してくださいました。
そして、目を疑うような、その圧倒的な力でもって、
強大なる敵を打ち滅ぼしてくれました。
ここにいるユイトさん、ティナさん、このお2人が、
3年もの間続いた、長く苦しい時を終わらせてくれたのです」
眼前を埋め尽くす国民たちから、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
「なんか照れるね」
「ははは。そうだな」
そんなユイトたちを見てステラが声をかける。
「せっかくですので、お2人から一言いかがですか?」
(……はい?)
まさかの振りに焦るユイト。
一言と言ってもあまりに突然。何のアイデアも出てこない。
出てくるのは冷や汗だけだ。
(……ふぅ、こうなったらしょうがない)
(俺に出来ることといえばこれだけだ……)
「俺さ、人前で話すのちょっと苦手なんだよな。
…ということで、ティナ。頼んだ!!」
「…えっ!?」
固まるティナ。
「それではティナさん。こちらへどうぞ」
「えっ!?」
壇上へと連れていかれるティナ。
「えぇーーーっ!?そんなぁーーーーーーっ!?」
すまんティナ。後で何でも言うこと聞いてあげるから…と、心の中で謝るユイト。
だが当然、そんな心の声はティナには届かない。
「もう、ユイトさん!ひどいですっ!
私だって人前で話すの苦手なのにーっ!」
ユイトの方を向いて、ほっぺをぷくっと膨らませるティナ。
(おぉ、これはなんともかわいらしい……いや、違った)
ユイトは急いで両手を合わせ、申し訳なさそうな顔でティナに謝る。
ティナはそんなユイトを見て、「もう、しょうがないなぁ」といった顔。
これではどっちが年上か分からない。
「それではティナさん。お願いします」
「はい」
そして覚悟を決めたティナはゆっくりと深呼吸をした後、王城前に集まった国民たちに向け話し出した。
「皆さん。私はティナと言います。
私とそちらにいるユイトさんは、少し前にレンチェスト王国のサザントリムから
この国にやってきました。
この国に着いた私たちは、まず最初にこの国の王都に行こうと思い、
王都へ向かっていました。
そしてその途中、多くの魔獣や獣たちと戦うステラさんに出会いました。
ステラさんは、全身傷だらけになりながら、全身血だらけになりながら、
村の人たちを守るために必死に戦っていました。
私はそんなステラさんを見て、何て素晴らしい人なんだろうと、
心からそう思いました。
そして、国民の皆さんを救いたいと懸命に頑張るステラさんの姿を見て、
この国の皆さんはなんて幸せなんだろうと、心からそう思いました。
……私は、この国ではない、ある辺境の町で育ちました。
その町を治める人は、自分のことだけを考え、そこに住む人たちのことを
まったく考えないような人でした。
だから正直、皆さんが羨ましいです。
皆さんのことを真剣に想い、命を懸けてまで守ってくれるステラさんが
女王様だなんて、すごく羨ましいです。
だから皆さん、お願いです。
どうかステラさんを信じてあげてください。
ステラさんをみんなで助けてあげてください。
ステラさんは絶対に皆さんを、この国を幸せにしてくれます。
だから、どうか皆さん。お願いします」
ティナは国民たちに向け頭を下げた。
「ティナさん……」
ティナの言葉を聞いたステラの目から涙がこぼれる。
ティナが語ったこと、それは嘘偽りないティナの本心。
そんなティナの心のこもった言葉を聞いた国民たちからは、大きな拍手と歓声が沸き起こった。
その後、壇上を降り戻ってきたティナ。
「ティナ、凄いな…。なんか俺、めちゃくちゃ感動した!」
戻ってきたティナに向け、ユイトが興奮気味に声をかける。
「うん。緊張したけど頑張ったよ。
思ったことそのまま話しただけだけど、うまく喋れてたなら良かったです!」
ティナは笑顔でそう答えた。
しばらくしてようやく拍手と歓声が落ち着いてくると、再びステラが話し始めた。
「私は心優しき2人の英雄にめぐり合わせてくれた神に感謝しています。
そしてこの国を救ってくれた心優しき2人の英雄に心から感謝しています。
メイリ―ル王国はお2人から受けたこの恩を決して忘れません。
そしてメイリ―ル王国女王 ステラ・エイシス・メイリ―ルの名をもって、
今ここで誓います。
この先どんなことがあろうと、
メイリ―ル王国はお2人の良き友人であり続けることを!!」
再び国民たちからは大きな拍手と歓声が沸き起こる。
国を守るため戦い続けたステラと、国を救った2人の英雄に向けられたその拍手と歓声は、さらに大きくなり、辺り一帯を包み込んだ。
その数万にもおよぶ大合唱は、いつまでも鳴り止むことはなかった。