第76話
国としてまず最初にやるべきことは完了した。
では次にすべきこと。もちろんそれは国民たちへの説明。
リゼール王は、一連の出来事について国民に説明する場を設けることを決意。
そのことはすぐに国民たちへと伝えられた。
だが、さすがにすべての国民が王城周りに集まることなど不可能。
そのため、国内数か所に会場を設け、王城以外は王の代理が説明する形をとることにした。
それから半月ほどが経過し、国民への説明の場、数日前。
その日、リゼール王は私室にステラを呼び出した。
今後について真剣に話し合う2人。
2人のその話し合いは深夜まで続いた。
そしてついに迎えた国民への説明の場、当日。
王城周辺は国民たちで溢れ返っていた。
『一体この国で何が起こっていたのか?』
皆、その事実を知りたい一心だった。
「……時間だな」
リゼール王は静かに椅子から立ち上がると、国民たちの前に姿を現した。
その瞬間、辺り一帯、水を打ったように静まり返る。
リゼール王の目に映る、一帯を埋め尽くす国民たち。
そんな国民たちをしばらく眺めた後、リゼール王が話し出した。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。心より礼を言う」
リゼール王の声が辺りに響く。
どういう仕組みかは分からないが、どうやらこの世界にも拡声器みたいなものがあるらしい。
「この3年の間にこの国で何があったのかを説明する前に、
まずは皆に言わねばならん事がある。
この3年間、皆には辛い思いをさせた。苦しい思いをさせた。
本当にすまなかった」
リゼール王は国民たちに向かい深々と頭を下げた。
王が国民に頭を下げる。
その前代未聞の行動に、国民たちからは大きなどよめきが起こる。
「なぜあのような事態になったのか、この3年の間に一体何があったのか、
それを今から話そう」
リゼール王は国民たちに向け、この3年間にあったこと、その仔細を語り始めた。
国民たちは皆、真剣な表情でリゼール王の話に耳を傾ける。
誠意をもって事実を語っていくリゼール王。
「………だったのだ。
そして、皆を苦しめることになったその元凶は、
第1王女ステラと2人の英雄によって討伐された。
本当はすぐにでもこの一連の出来事を皆に伝えたかった。
だが、皆の安全と食料の確保を優先させてもらった。
伝えるのが遅くなってしまい、すまなかった。
以上が、この3年の間に起きた出来事、その全てだ」
リゼール王が語った、その想像すらしなかった出来事に国民たちは大いに驚き、そして同時に困惑した。
王家に不満を募らせていたことは事実。
だがこの2カ月に王家がとった行動は、民に寄り添うかつての王家の行動そのもの。
そんな困惑する国民たちに向け、リゼール王が続ける。
「今、皆に伝えたように、我々は理解を超える悪意によって操られていた。
だが例えそうであっても、皆を守るべき立場にありながら、私は皆を苦しめた。
それは、どんな理由があっても決して許されることではない。
……よって私はその責任を取り、今をもって国王の座を退く」
その瞬間、国民たちからは今日一番のどよめきが起こった。
リゼール王はさらに続ける。
「そして私の後を継ぎ、新たな王となるのは第1王女ステラだ。
我々王城にいる者すべてが悪意にさらされる中、ステラはただ1人、
その悪意に負けることなく皆を守るために戦い続けた。
長いメイリ―ル王国の歴史の中で、女王は未だかつていない。
だがそれでも私は、ステラが、ステラこそが、この国の王にふさわしいと
そう思っている」
リゼール王は斜め後ろに控えるステラに目で合図を送る。
「それでは、新女王より挨拶をもらう」
ステラが後方より二歩三歩と足を進める。
そしてリゼール王と場所を交代したステラが、国民に向け話し出した。
「皆さん。ステラ・エイシス・メイリ―ル、今この時より、
この国を、皆さんを導くその大役、担わせていただきます。
先ほどリゼール前国王から話があったように、この国は今回、
未曽有の危機にさらされました。
皆さんには本当に辛い思いをさせてしまいました。
本当に苦しい思いをさせてしまいました。
王家を、国を代表し心より謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」
国民たちに向け、深々と頭を下げるステラ。
そしてしばらく頭を下げた後、ステラは顔を上げ再び話し始めた。
「私は皆さんの苦しみをこの目で見てきました。
本当に辛く苦しい日々だったと思います。
ですが皆さんは、その地獄のような苦しみに耐え抜き、こうして元気な姿で
集まってくれました。本当に感謝しています。
私はこの国を、この国の大切な皆さんを心から愛しています。
私は、そんな皆さんを守れるよう、皆さんがこの先いつまでも
安心して暮らしていけるよう尽力していくつもりです。
必ず、この3年間の苦しみを補って余りあるほどの豊かな国にしてみせます。
ですが……皆さんの中には、今すぐには私を信じられない方もいるでしょう。
この数年王家がとった行動は、皆さんの心に多大なる傷を与えました。
王家や国に対する信頼は崩れ去り、多くの…抱えき切れないほどの
不満を抱いたことでしょう。
そう思われても仕方のない行動を我々は取ってしまいました。
ですがこれからは、愛する皆さんを第一に考え、愛する皆さんを
何者からも守れるような国にすると約束します。
かつての様に、国民の皆さんに寄り添う王家であり続けることを約束します。
だから皆さんには、私の…私たちのこれからの行動をその目で確かめて欲しい。
私は、少しずつでも皆さんからの信頼を取り戻せるよう、
全力でこの責を全うしたいと思います」
王家の責を一身に背負うステラの演説。国民たちは皆、その言葉に耳を傾けた。