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第73話

続々と編成されていく討伐隊。

彼らは苦しみにあえぐ国民たちを救うべく、ユイト提供の食料を持ち次々と城を出発していく。


「じゃあ、ティナ。俺たちも行くか」

「うん!」


ユイトたちが向かった先は、王都より遠く離れた遠方地域。

遠方地域をぐるりと回って王都へ戻ってくる計画だ。


ユイトとティナは遠方の町や村に着いては、あれよあれよと魔獣と獣を討伐。

食料を住民たちに渡しては次の町や村へと移動する。

もちろんその際、リゼール王の指示で来たと伝えることは忘れない。


そして、いくつもの町や村を回ったユイトたちが、南東の村を訪れた際のこと。

その時、ユイトの感知魔法が何かを捉えた。


「森に何か強い反応があるな…。

 …けど、こっからだと良く分かんないな……」


何かあってからでは遅い。

ユイトとティナはすぐに感知魔法が反応を示す森へと向かった。

森に着くと2人は反応を示す森の奥へと進んでいく。

その途中、至る所に横たわる、かなりの数の息絶えた魔獣や獣たち。


「……気を抜くなよ、ティナ」

「はい」


周囲を警戒しつつ、さらに奥へと進んでいくユイトとティナ。

そしてようやく、感知魔法が反応を示した場所へと辿り着く。


「まさか……」

その瞬間、あまりの驚きに言葉を失うユイト。

「ユイトさん?」


「…まさか、お前…なのか?」


ユイトの視線の先、そこにいたは、静かにユイトを見つめる白い獣。

そして次の瞬間、その白い獣はユイトに向かって走り出し、両手を広げるユイトの胸に勢いよく飛び込んだ。


そう、なんとそこにいたのは、カタルカ近くの森でユイトと別れたあの子フェンリルだった。

あれから1年と数カ月。子フェンリルは一回りも二回りも大きくなっていた。


「会いたかったぞーっ、お前!元気にしてたか!?」


そんなユイトの問いかけに、まるで「元気だったよ」と言わんばかりに、勢いよく尾を振る子フェンリル。


「この森の魔獣や獣は、お前がやっつけてくれたのか?えらいぞーっ!」

ユイトは子フェンリルを抱きしめ顔を摺り寄せる。


そんな状況に、ぽかんとした表情を浮かべ固まるティナ。

何が何だか良く分からない。


「…ユイトさん、その白い狼と知り合いなの?」

「…あっ、ごめんなティナ。紹介するよ。

 こいつは、ティナと出会う少し前に、終末の森で出会ったフェンリルなんだ」


「フェンリル?」


「そう、フェンリルだ。

 終末の森から出ようと移動してた時に、偶然、こいつと出会ったんだ。


 こいつと出会った場所にはさ、

 かなりの数の魔獣の死骸とこいつの母ちゃんが横たわってた。

 終末の森の魔獣たちからこいつを守るため戦って、力尽きたんだと思う。

 そん時こいつはたった1人で、力尽きた母ちゃんを守るように立ってたんだ」


子フェンリルの頭を優しく撫でるユイト。


「あん時はこいつももっと小っちゃくてさ。

 さすがに1人にしておけなくて、しばらく一緒に旅してたんだ。

 まぁ、旅って言っても一緒に終末の森を彷徨っただけだけどな。


 …ほらティナ、覚えてるか?

 初めてティナと会ったとき、一緒に果実を食べただろ?」


「うん、覚えてるよ。すっごくおいしかった」

「実はあの果実を見つけたのって、こいつなんだよ」


「えっ!?そうなの!?」

「あぁ。あん時はめちゃくちゃこいつに感謝したな」


子フェンリルが尾をブンブンと振り回す。


「で、ティナと出会った森の近くまではこいつと一緒だったんだ。

 けど、ほら俺、この世界のこと何も知らなかっただろ?

 町に連れてったら、こいつが酷い目に合うんじゃないかって心配になってさ。

 だから、かわいそうだとは思ったんだけど、途中でこいつと別れたんだ」


「そうだったんだ…。それじゃあ、この子も1人ぼっち……」


ユイトに会えて喜ぶ子フェンリルを静かに見つめるティナ。


「…ねぇ、ユイトさん。この子、私たちの仲間にしようよ?

 魔獣や獣たちから村のみんなを守ってくれてたんでしょ?

 だったら私たちと同じだよ」


「…ほんとかっ、ティナ!?」

ティナの言葉に大きく目を見開くユイト。


「うんっ!」

「ティナ、ありがとなっ!!」


早速、子フェンリルに話しかけるユイト。


「なぁ、お前、俺たちと一緒に来るか?」

「ワオォ―――っ!!」

子フェンリルは嬉しそうに一吠え。


「よしっ!じゃあ、決まりだなっ!!」


子フェンリルはユイトの腕から飛び降りると、ユイトとティナの周りをぐるぐる駆け回る。


「ふふ。嬉しそうだね」

「そうだな。

 …じゃあ、せっかくだし、出発前にきれいにしておくか」


そう言うとユイトは走り回る子フェンリルを抱き上げる。

「よーし、じゃあきれいにしてやるからな」


バシャバシャバシャ、バシャバシャバシャ


少し汚れていた子フェンリルを水魔法できれいに洗う。

子フェンリルは、なんだかとても気持ちが良さそうだ。


水魔法できれいに流し終えた後は、風魔法でしっかりと乾かす。

最後に手櫛で毛並みを調え完成だ。


「うわぁー凄いっ!モフモフだーーっ!!」


ティナは早速、子フェンリルに抱き着きモフモフを堪能。

子フェンリルもティナに抱き着かれ、何だか嬉しそうだ。


「ねぇ、ユイトさん。この子の名前はなんていうの?」

「あーそういや、まだ名前つけてなかったな」

「えっ、ないの?だったら、この子に名前つけてあげようよ!」

「確かにそうだな。これからはずっと一緒だもんな」

「じゃあ、決まりだね。

 でもユイトさん、今度はめんどくさがらずにちゃんと考えなきゃダメだよ?」

「…はい」


それから2人でしばらく考える。


「そうだっ!」

すると突然、ティナが声を上げた。どうやら何かひらめいたようだ。


「ねぇ、ユイトさん。

 この子、雪みたいにふわふわで真っ白な毛並みだから

 『ユキ』って名前にしようよ?」


「『ユキ』かぁ…。

 いい名前だと思うけど、なんか女の子っぽくないか?」


「えっ?だってこの子、女の子だよ?」

「…えっ?」


固まるユイト。


「ま、まさかユイトさん…」

「………。『ユキ』かぁ!いい名前だなっ!」


かくして子フェンリルの名前は『ユキ』に決まった。

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