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第72話

「皆に集まってもらったのは他でもない。

 これから我々がとるべき行動について話し合うためだ。

 …だが、おそらくは皆、知らないであろう。

 今この国が、いつ崩壊してもおかしくない程の危機的状況にあることを」


「なっ…」

リゼール王の言葉にざわつく会議室。


「これから皆には、この3年間に我が国であったこと、その全てを告げる。

 それを正しく理解した上で、これから我々がとるべき行動について話し合う。

 よいな?」


真顔で話すリゼール王を前に、会議室内は異様な空気に包まれる。


「…だがその前に1つだけ言っておく。

 そちらにいるユイト殿とティナ殿は、我が国を救ってくれた英雄だ。

 彼らを蔑ろにすることは、この私が絶対に許さん。

 皆のことは信用しているが、間違って失礼があってはならん。

 よって念のため先に言っておく」


会議室内に再びざわつきが起こる。


「では始める。

 まず…私はこの3年間の記憶が曖昧だ。

 そしてそれはおそらく皆も同じであろう。

 ではその3年間に一体何があったのか…今からそれをステラに語ってもらう。

 これからステラが語ることは紛れもない真実だ。皆、心して聞いてくれ。

 ではステラ。頼んだ」

「はい」


ステラは会議室に集まる皆に向け、この3年間にあったこと、その全てを語った。

会議室に集まった面々も、かすかに残る自らの記憶とボロボロになったステラの姿から、それが真実であるとすぐに理解した。


衝撃的な事実に静まり返る会議室。

しばしの沈黙の後、1人の出席者が口を開いた。


「陛下。今すぐにでも国民たちに何があったのかを説明しましょう」

その声を皮切りに、他の参加者たちも声を上げ始める。


「そうです、陛下。真実を知れば国民たちも分かってくれるはずです」

「私もその意見に賛成だ。急ぎましょう、陛下」


皆、急ぎ国民たちに今回の出来事の経緯を説明すべきとリゼール王に進言。

そんな中、ステラが口を開いた。


「待ってください。

 皆さんは知らないかもしれませんが、

 民たちの国に対する不満は…王家に対する不満は限界に達しています。

 そんな中でいくら真実を話したとしても誰も信じてはくれないでしょう。


 それに民たちが今必要としているのは、

 ”何があったのかの真実”などではありません。


 民たちは、いつ獣や魔獣に襲われるかも分からない、

 そんな不安の中で日々生活しています。

 今日を生きるのも大変なくらい飢えています。

 今この瞬間も苦しんでいるんです。


 我々がまずすべきこと、それは民たちをその苦しみから救うこと、

 それしかありません」


「…ステラ様の仰ることは分かります。ですが一体どうやって……」


再び沈黙する会議室。

そんな中…


「…ちょっといいですか?」

発言していいものか迷いつつも、ユイトが声を上げる。


「はい、ユイトさん。遠慮せずに何でも仰ってください」

「ありがとうステラさん。

 ではまず…、俺はステラさんの意見に賛成です。

 じゃあどうやってみんなを助けるか?それについては、俺に案があります」


冒頭のリゼール王の言葉が効いてか、皆、ユイトの言葉に耳を傾ける。


「まず獣と魔獣の討伐ですが、

 この国の兵士たちにお願いすることはできませんか?


 兵士たちが各地を回り、獣たちを討伐。

 そして討伐した獣は、食料としてそこに住む人たちに提供する。

 そうすれば獣たちから襲われる危険も減り、尚且つ、

 一時的かもしれないけど飢えもしのげる。


 そしてそれをこの国の兵士たちがやることで、

 国に見捨てられたわけじゃないって、国民たちも分かってくれるはず。

 手に負えない魔獣もいると思うけど、その時は俺とティナで何とかします。


 次に食料不足の件です。

 さっき討伐した獣を食料として提供するって言いましたが、

 きっとそれだけじゃ足りない。

 それに獣がいない地域だってあると思います。


 だから足りない分は俺が提供します。

 もし兵士たちが獣の討伐をしてくれるなら、

 各地を回るときに一緒に持っていって欲しい。


 ただ、ここから遠い場所だと食料が行き渡るまでに時間がかかるので、

 そこへは俺とティナで食料を運びます。


 これが俺の案ですが、皆さん、どうですか?」


皆、1点を除いて、なるほどといった顔。


ここで、これまでずっと議論を聞いていたリゼール王が口を開いた。


「確かにステラの言う通り、まず我々がすべきことは民たちを救うことだろう。

 そしてユイト殿が言ってくれた案、私は素晴らしいと思う。

 私はユイト殿の案に賛成だ。


 だがユイト殿。1つだけ教えてもらえるか?

 足りない食料をユイト殿が提供すると言った件、、

 それは一体どういうことなのだ?」


リゼール王からの問いかけ。

それは会議に参加する誰しもが抱いていた疑問だった。


「あぁ、それは見てもらった方が早いと思います。

 けど、ここじゃ無理なので、どこか広いところってありませんか?」


「広いところか……ふむ、承知した。

 それで、どれだけ広ければ良いのだ?」


「そうですね…めちゃくちゃ広いところがいいです。

 この王城内で一番広いところでお願いします」


「それ程までの広さが必要とな?

 何をするのか分からんが、とにかく分かった。

 この国を救ってくれたユイト殿のことだ。

 きっと私など凡人では想像もできんような何かがあるのだろうな」


このあとユイトたちはリゼール王に先導され、会議参加者たちとともに王城内で一番広い場所へと移動する。

途中、皆は、ユイトが何をするのか考えてはみるも、まったく予想がつかない。

仮に予想したところで、絶対に当たることはないだろう。


「さぁユイト殿、着いたぞ。ここがこの王城で一番広い場所だ」

「…やっぱ、ここか」


連れてこられたのは王城前広場。

ユイトは王城前広場を見渡すと、少しだけ悩み顔。


「どうかされましたか?」


「うーん…この辺りの物、壊しちゃうかもしんないけどいいかな?

 いつか弁償するからさ」


「ふふふ。そんなことまったく気にしないでください。

 思いっきりみんなを驚かせてあげてください」


獣たちを異空間へ収納する瞬間を見たステラには、どうやらユイトが何をやろうとしているのか分かってるようだ。


「ユイト殿。これだけ広ければ十分であろう?

 では何をするのか分からんが、ユイト殿の考えとやらを見せてくれるか?」


「はい、分かりました。…それでは、いきます。

 陛下…これが俺の提供する食料です!!」


ズッドーーーーーンッ!!!


鳴り響く轟音。巻き起こる風。体へと伝わる地響き。

突如、眼前に現れた膨大な数の魔獣と獣が、広大な王城前広場を埋め尽くす。


「な、な、な、なんだこれはーーーーーーっ!?」


驚きのあまり尻もちをつくリゼール王と会議参加者たち。

中には、あまりの衝撃に気を失った者までいる。

ステラもさすがにこの量は想定外だったらしく、口を開けて唖然としている。


「こ、こ、こ、これは一体…!?」


あまりに非現実的な光景に理解が追い付かないリゼール王。

そもそも理解しろという方が無理な話。


尻もちをつき唖然とするリゼール王にユイトが話しかける。


「陛下。これはこれまでに俺とティナで討伐してきた魔獣や獣たちの一部です。

 広場がいっぱいだからこれだけしか出してないですが、まだまだあります。

 これを国民のみんなに届けてあげてください」


「こ、これがユイト殿の言う食料という訳か…。し、信じられん……」


「あーでも、このままじゃ運ぶ途中で傷んじゃうか…。

 なぁティナ。こいつら傷まないように凍らせてくれるか?」

「はい!」


すぐにティナは辺りの魔素を取り込み圧縮すると、氷属性の魔力へと変換。

そして広場に横たわる魔獣や獣たちに向け、広範囲魔法を放った。


氷結霧フリージングミスト


ティナの放った極低温の霧が魔獣と獣たちを包み込む。

すると霧に包まれた魔獣と獣たちは、見る見るうちに凍っていく。

そしてあっという間にその全てが完全に凍りついた。


「終わったよ、ユイトさん!」

「よし。これで大丈夫だな」


「…こ、今度は一体何を?」

驚愕した表情を浮かべながらリゼール王がユイトに問う。


「道中でこいつらが傷まないように、めちゃくちゃ冷やしたんです。

 これだけ冷やせば、途中で傷んじゃうことはないと思います。

 せっかくなので触ってみませんか?きっとびっくりすると思いますよ」


ユイトに促されリゼール王が立ち上がる。

そして横たわる獣たちのところへ行くと、恐る恐る獣に手を伸ばした。


「おゎっ!」

その瞬間、経験したことのないあまりの冷たさに、リゼール王は反射的に手を離す。


「な、なんという冷たさだ。し、信じられん……。

 この世にこんな冷たさが存在するものなのか…。

 …これが…これがこの国を救った英雄たちの力……」


リゼール王は、目の当たりにしたユイトとティナの途方もない力にただただ驚嘆。


「ユイト殿、ティナ殿。本当に感謝する。

 この恩はいつか必ず……」


リゼール王はユイトとティナに感謝の意を伝えると、すぐに臣下たちに向けて指示を出す。


「皆の者、すぐに兵を集め、討伐隊を編成せよ。

 そして準備が整った者たちから順に、食料を持たせ各地へ向かわせるのだ。

 今我らがすべき最優先事項だ。とにかく急ぐのだっ!」


リゼール王の号令とともに城内が慌ただしく動き出した。

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