第71話
「ユイトさん、ティナさん。
この度は我が国を、我が国の民を救っていただき、
本当に、本当にありがとうございました」
ステラはユイトとティナに向かい、深く深く頭を下げた。
「私だけでは…、お2人の力がなければ、どうすることもできませんでした。
どれだけ言葉を尽くしても、お2人への感謝の気持ちを伝えるには足りません。
……私は……私はどうしたらいいのでしょうか?
私はどうすればあなた方の恩に報いることが出来るのでしょうか?」
「…ステラさん。そんな気にしなくていいよ。
俺は理不尽なことが大嫌い。
だから理不尽なことやってるデモンドールを俺の都合でぶっ飛ばした。
それだけさ。なぁ、ティナ?」
「はい。ユイトさんの言う通りです。
私も、苦しんでる人たちを助けたい。必死に頑張ってるステラさんを助けたい。
そんな私の都合で手伝っただけです。
だからステラさんは、何も気にする必要はありません!」
「というわけだ、ステラさん。
全部、俺たちが勝手にやったこと。
だからステラさんが気にすることなんて何にもないよ」
「で、ですが…それでは、あまりにも……」
どうしていいか分からない様子のステラ。
そんなステラを見てユイトが助け舟を出す。
「うーん、じゃあさ、今度王城の中を案内してくれよ。
こんなことがない限り、王城なんて入る機会ないからな。
もちろん今回のことが片付いて国が落ち着いてからでいいからさ」
「あっ!私もお城の中見てみたいです!!」
右手をピンっと上げるティナ。ティナも王城探検にノリノリだ。
「…本当に…そんなことでよろしいのですか?」
「何言ってんだよ、ステラさん。
王女様の案内で一般人が王城を見学する。
普通考えたらあり得ないだろ?めちゃくちゃ凄いご褒美じゃん」
ユイトの横でティナが、うんうんと首を振る。
「ふふふ。分かりました。
ではそのお約束、必ずお守りいたします」
(国を救うという偉業を為しながらも、恩に着せるわけでもなく、驕らず謙虚)
(そして相手の気持ちにも寄り添える)
(きっと、ユイトさんやティナさんのような人を英雄というのでしょうね)
ステラは心の中でそう思った。
「よーし。ご褒美も決まったし、他の人たちの様子でも見に行くか。
じゃあティナ、この氷解除してくれ」
「はい!」
パリンッ
直後、辺りを覆っていた氷が一気に砕け散る。
そして粉々になったその氷は、まるで宝石がきらめく様にキラキラと輝きながら床へと降り注いだ。
「きれい……」
ステラはその幻想的な光景にしばし、目を奪われた。
「じゃあ行こうか、ステラさん」
「はい。それではご案内いたします」
それからユイトとティナはステラとともに、城内の人たちの様子を見て回った。
デモンドールが消滅したためか、城内に瘴気が漂っている様子は特にない。
そして、ステラの嬉しそうな顔を見る限り、みんな元の状態に戻っているのだろう。
最後にユイトたちは、ステラの父 リゼール王の部屋へとやってきた。
緊張した面持ちで扉の前に立つステラ。
そしてステラは一息ついた後、扉の取手に手をかけた。
静かに扉が開かれる。
「…これは」
部屋へと入り、リゼール王を見た瞬間、ユイトの口から言葉が漏れる。
デモンドールは消滅した。それは紛れもない事実。
だが、リゼール王にはまだ瘴気がしつこく纏わりついていた。
「ステラさん。まだ国王に瘴気が纏わりついてる。
きっとデモンドールが、国王を操るために念入りに瘴気を纏わせたんだ」
「…えっ?それでは、お父様はっ!?」
「あっ、ごめん。不安にさせちゃったな。
大丈夫だよ。俺の魔力で瘴気を中和するからさ。
ちょっとだけ待っててくれ」
そう言うとユイトはリゼール王の元へ行き、リゼール王の全身を魔力で覆った。
するとリゼール王に纏わりついた瘴気がユイトの魔力の中へと吸い込まれ、見る見る中和されていく。
その間わずか数十秒。ユイトのなんだか凄い魔力により、リゼール王の体からは完全に瘴気が消え去った。
「よし。これでもう大丈夫だよ」
その言葉を聞くや否やステラはリゼール王の元へと駆け寄り、声をかける。
「お父様、ステラです。分かりますか?私、ステラです」
「…お、おぉ、ステラか。どうしたのだ?そんなに焦って。
いや、それよりも一体どうしたのだ?そんなボロボロの姿で?
何かあったのか!?体は大丈夫なのか!?」
ステラの体を気遣うリゼール王。
「お父様…良かった…。もう会えないかと……本当に良かった……」
ステラはリゼール王に抱き着くと、静かに涙を流した。
「ステラ?泣いているのか?一体どうしたというのだ?」
リゼール王にとっては突然の出来事。
この状況をまったく理解できていない。
「…んっ?」
ここでようやくリゼール王が、ユイトとティナの存在に気が付いた。
「ステラ。その者たちは一体?」
「…お父様。そちらにいらっしゃるお2人は、ユイトさんとティナさん、」
国王相手にどうすればよいか分からず、とりあえず頭を下げるユイトとティナ。
「お2人は、私を、民を、そしてこの国を救ってくださった恩人です。
お2人がいなければ、私は今頃この世にいませんでした。
そして近い将来、この国は間違いなく滅んでいたでしょう」
「なにっ…!?ステラ…一体何があったというのだっ!?」
「…お父様は何も覚えていらっしゃらないのですか?」
「んっ?あぁ、そういえばなんだかずっと長い夢を見ていたような気がする。
自分なんだが自分ではないような、とにかくひどく気分の悪い夢だった」
「……お父様。それは夢ではないのです」
ステラは、この3年間にあったこと、その全てをリゼール王に説明した。
そして…
「そ、それでは私は民に……。私は一体何ということを……」
ステラから語られた、あまりに衝撃的な事実。
その事実にリゼール王は言葉を失い、頭を抱え込んだまま固まった。
「お父様、お気持ちは分かります。
ですが、我々には今すぐにでもやるべきことがあるはずです」
「…そうだ、その通りだな。お前の言う通りだ、ステラ。
すぐに緊急会議を開く。そこで皆にも事実を伝える。お前も参加してくれ。
君たちもできることなら参加してくれ。皆に紹介しよう」
そう言うとリゼール王は急ぎ部屋から出ていった。
ステラとユイトたちも、この後すぐ会議室へと移動。
一足先に入った会議室に、続々と人が集まってくる。
見たところ、国のお偉方と思われる人たちばかり。
ユイトとティナの場違い感が半端ない。
皆、なぜここに子供が?しかもなぜ王女の隣に?と不思議そうな顔。
「…ど、どうしよう、ユイトさん」
皆の視線が気になり、緊張するティナ。
そんなティナにステラが優しく声をかける。
「大丈夫ですよ、ティナさん。
ティナさんはこの国を救った英雄なんですから」
そしてほどなくして、リゼール王の言葉で会議が始まった。