第68話
その後ユイトは、ステラが落ち着くのを待って、今この国で一体何が起きているのかを尋ねてみた。
だが、この国の民ではないユイトとティナ。
はたしてそんな自分たちに、国の内情を教えてくれるのだろうか。
ユイトはそんなことを考えつつ、ステラの言葉を静かに待った。
しかしそんなユイトの懸念をよそに、ステラは、ここ数年この国で起こっていることについて詳しく話をしてくれた。
そして…
「ひどいですっ!許せないですっ!!」
「確かにな。種の回収と魔獣の討伐を急ぎたいけど、
まずはそのモンドールって奴を何とかしないとな。
何かと邪魔してきそうだからな。
……けどさ、そいつの目的って一体何なんだ?
国をめちゃくちゃにしたいってんなら、ステラさんの活動を邪魔する
必要なんてないだろ?結果的に魔獣が増えるわけだしさ」
「……おそらくですけど、」
ユイトたちの話を聞いていた、ステラが話し出す。
「私が活動していたのは王都近郊のみ。
国全体から見たら私たちが育てた実の量なんてわずかなものです。
それを作って魔獣を増やすより、王都近郊で王家への信頼をなくす方が
得策と考えたのだと思います。
あわよくば、民衆の暴動を、とも考えていたのかもしれません」
「なるほど…。確かにそれだったら辻褄が合うな。
にしたって、何で国をめちゃくちゃにしようとするんだ?」
「ほんとそう!みんなを苦しめて、頑張ってる人たちの気持ちを
踏みにじるなんて絶対に許せないっ!!」
「………」
モンドールに対して怒りを露にする2人を無言で見つめるステラ。
そしてステラは意を決したような真剣な面持ちで、ユイトとティナに向け話し出した。
「ユイトさん、ティナさん。恥を忍んでお願いします。
どうか…、どうかお2人の力をお貸しください。
この国の民でもないあなた方に、こんなお願いするのは筋違いだと
分かっています。
ですが、先ほど見たあなた方の圧倒的な力に、私は希望の光を見ました。
そして、あの実の正体に気付いたその感覚に、
モンドールの正体を見破る可能性を感じました。
私はこの国の王族として、大切な民を、愛する民を守る義務があります。
何としてでも民たちを守りたい。
ですが、私1人だけの力では、悔しいですがどうすることもできません。
こんな私にも、なんの力もない私にもできることと言えば、
こうして頭を下げることだけです。
どうかお願いします。
どうかお2人の力をお貸しください。この通りです」
一国の王女が躊躇することなく膝をつき、一介の冒険者に頭を下げる。
その姿を見てユイトは思った。
この人は報われるべきだし、この人を王族に持つこの国は幸せであるべきだと。
ただただ、そう思った。
「大丈夫だよ、ステラさん。
俺たちは最初からモンドールをぶっ飛ばすつもりだったからさ。
なぁティナ?」
「はい、もちろんです!
だからステラさんは何も心配しなくて大丈夫です!」
断られるかもしれない。やっと掴んだ希望の光が消えてしまうかもしれない。
言いようもない不安と、神にもすがる思いの中で聞こえたユイトとティナの声。
その2人の言葉にステラは本当に救われた。
「ユイトさん…、ティナさん…。
ありがとうございます、本当にありがとうございます」
「気にしなくていいよ、ステラさん。
じゃあ、善は急げだ。早速、作戦を立てよう」
すぐにみんな集まり、作戦会議が開かれる。
会議は思いのほか時間はかからず、作戦がまとまるまでわずか30分。
決まった作戦は次の通り。
まず、作戦を実行するのはユイトとティナとステラの3人。
あのような怪しげな作物の種を持ってくる奴だ。おそらくまともな奴ではない。
そんな奴に関わらせるのは危険ということで、村人たちには獣を数匹持って村に戻ってもらうことにした。
ユイトとティナはというと、ステラの客人として王城へ潜入する。
本当は、戦いになった場合のことを考えると、被害が大きくなる可能性のある王城は避けたかった。
だが、モンドールを外におびき出すのは困難とのことで、仕方なくそれは諦めた。
王城に入った後は、モンドールがよく通るという比較的開けたスペースでモンドールを待ち伏せる。そこが勝負の場所だ。
もし戦いになった場合は、他の人を巻き込まないよう、出入りできそうな場所を魔法で全て塞ぐ。
ざっとこんな感じだ。
ということで、早速、村人たちには数匹の獣とともに村へと戻ってもらった。
残った大量の獣と魔獣は、例のごとく異空間へと収納。
ステラはその未知なる力に大いに驚きはしたものの、ステラの中で”期待”が”確信”へと変わった。
「よし。じゃあ行こうか、ステラさん」
「はい」
その顔に一切の迷いはない。覚悟を決めた人間の顔だ。
長きに渡る孤独な戦い。それに今日終止符を打つ。
ステラの顔からは、そんな覚悟が感じられた。
そして村を出発してからおよそ1時間。
ユイトたちはメイリール王城前へと到着。
「…ユイトさん」
「あぁ、分かってる」
王城の外からでも分かる禍々しい魔力。確実に何かが城にいる。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ。じゃあ、行こうかステラさん」
ステラは緊張した面持ちで首を縦に振る。
事前の打ち合わせ通り、ユイトとティナは”ステラ王女の客人”として城門を通過。
さすがは王城。城に行くまでの庭がとんでもなく広い。
初めての王城にそわそわしながら歩いているうちに城の入り口まで辿り着く。
城の入り口の両脇には剣を携えた兵士が立っている。
ここでもステラはユイトたちを大切な客人と説明。
無事城内へと足を踏み入れることに成功した。
その後もユイトとティナは、キョロキョロしながらステラの後をついて行く。
城の中もかなりの広さだ。
かなり歩いているのに目的地にはまだ着かない。
ユイトとティナは、もう自分だけでは城の入り口に戻れる気がしない。
それからもしばらく歩き、ようやくモンドールがよく通るという比較的開けたスペースへと到着した。
「ユイトさん、ティナさん。
ここでモンドールを待ち受けます。
…我が国の都合で、お2人をこんな危険なことに巻き込み、
本当に申し訳なく思います。
ですが、改めてお願いいたします。
この国を救うため、どうかお2人のお力をお貸しください。
どうかよろしくお願いいたします」
ステラが、ユイトとティナに深く頭を下げる。
「ですがもし…、万が一お2人が危険と感じた場合は、迷わずお逃げください。
お2人が逃げる時間は命に替えても必ず作ってみせます」
(命に代えても…か。ほんと、どこぞのアホ領主に聞かせてやりたいぜ)
「ステラさん。何の心配もいらないよ。俺とティナは強いからな。
だからステラさんは、元に戻ったこの国のこれからを考えていればいい」
「……はい」
ステラは静かに頷きはしたものの、表情が固い。
心配するなという方が無理なのだろう。
その後ユイトたちは、それぞれの想いを胸に、モンドールが来るのを静かに待った。