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第66話

「…どうして?どうしてここまで上手くいかないの?

 このままじゃ民たちが…。早く何とかしないと…」


民たちを想い、王城内で1人悩むステラ。

そんなステラにモンドールが静かに近づいていく。


「これはこれは、ステラ王女殿下。何やらお悩みのようですな」

「…モンドール宰相。あなたには関係のないことです。

 私にはやるべきことがありますので失礼します」


モンドールを避けるようにその場を離れようとするステラ。

そんなステラの耳に、後方よりモンドールの声が聞こえてきた。


「ステラ王女殿下。お遊びは程々にしたほうがよろしいですな。

 まぁ、あなたの意志とは関係なく終わってしまう遊びもありますがね」

「…何のことです?」


モンドールはステラの問いには答えず、不敵な笑みを浮かべその場を立ち去った。


その後ステラは、いつものように冒険者ルーリィとして民の元へと向かった。

しかし、村に着くと何だかいつもと様子が違う。

ステラはすぐに民たちに尋ねた。


「みんな、どうしたの?何かあったの?」


しかし、そんなステラの問いに対する村人たちの答えは、全く予想だにしないものだった。


「ルーリィさん…いや、ステラ王女殿下」


「えっ…」

あまりに突然のことに固まるステラ。


「…その反応……やはりあなたはステラ様だったのですね。

 俺たちは聞いたんです。あなたに騙されていたこと…その全てを」


「騙されていた、って…一体誰がそんなことをっ!?」

思いもよらぬ展開、そして村人が発した言葉に動揺するステラ。


「王城の関係者です。

 王城関係者を名乗る男が、突然俺たちの元にやってきました。

 その人はただ真実を伝えたいと、あなたのことを話していきました。

 けど、俺たちは半信半疑だった。

 ルーリィさんがステラ様だなんて、そんなはずはないと。

 …でも違った。あなたはステラ様だった」


「…ごめんなさい。身分を隠していたことは謝るわ。

 でも、何もあなたたちを騙そうとしてたわけじゃないの」

すぐに村人たちに向けステラが謝罪する。


「……正直、そのことはどうでもいいんです」

「だったら、これまでみたいに一緒に、」


「まだ言いますか?」

ステラの言葉を遮り、村人の1人が話し出す。


「一体どれだけ俺たちを馬鹿にしたら気が済むんですか?

 一体どれだけ俺たちを苦しめたら気が済むんですか?

 そんなにも俺たちのことが憎いんですか?」


「そんな…憎いだなんて…」


「王城関係者の男は俺たちに教えてくれました。

 あなたがこうして俺たちの元にやってくるその理由を。


 あなたは俺たちを助けるふりをして作物を育て、

 それが実る頃、獣たちに襲わせる。


 苦しみにあえぐ俺たちに偽りの希望を持たせ、

 希望が叶いそうになると無情にもそれを刈り取る。

 その瞬間の俺たちの絶望した顔を見るために、

 あなたはこうしてここに来ているんだと」


「違う、違うわっ!そんなの全くのでたらめよっ!!」


ステラはすぐさま、それを否定。

何とか村人たちの誤解を解こうと必死に試みる。


「私は王家の人間として、少しでも皆さんの力になりたかった。

 少しでも皆さんの苦しみを和らげたかった。

 王女と言っても私には何の力もない。そんな私にできることは、

 皆さんとともに畑を耕し作物を育てることぐらいだった。

 本当なの。お願い、信じてっ」


「………。王家は苦しむ俺たちに何かしてくれましたか?

 本当に俺たちのことを想ってるなら、この状況で増税なんてあり得ない。

 俺たちに死ねと言っているようなものだ。そんな王家のあなたを信じろと?


 …もういいです。

 一時でもルーリィさんを…あなたを信じた俺たちが馬鹿だったんです。

 お願いですから、もう俺たちに関わらないでください」


そう言い放つと、村人たちはすぐにステラに背を向け、家へと戻っていった。


「…なんで……なんでこんなことに……」

ステラは戻りゆく村人たちの後ろ姿を見つめながら、ただ呆然と立ち尽くした。


その後ステラは、他の町や村を回った。

しかし、どこも結果は同じだった。

そしてステラは悟った。


「モンドール宰相……。

 …悔しい」


固く握られた両の手。

何も変えることが出来ない不甲斐ない自分に、ステラは唇を噛みしめた。


その晩、ステラは朝まで泣き続けた。


翌朝。


「ひどい顔…」

鏡に映る泣き腫らした顔を見て、ステラがつぶやく。


「…もう泣くだけ泣いた。泣いても何も変わらない。

 私は私にできることをただやるだけ」


ステラは民たちへの想いを胸に、たった1人での戦いを決意した。


町や村を訪れては、1人で畑を耕し種を蒔いた。

獣に荒らされようが、何度も何度も何度も何度も。

何があってもステラは決して諦めなかった。


そんな日が続いたある日。

ステラが訪れた村を、これまでとは比べ物にならない数の獣が襲った。


「そんな…なんて数…。このままじゃ村が……」


いくらBランク冒険者のステラであっても、とても対処できるような数ではない。

だがそれでもステラは、獣たちに向かって走り出した。

民を守るため、育てた作物を守るため、ステラは獣たちとの戦いを即断した。


覚悟を決めたステラと獣たちの激しい戦い。

斬り伏せても斬り伏せても一向に数が減らない。

それどころか、四方から襲い来る獣を前にステラはどんどん傷ついていく。


そんな中、何も知らず偶然近くを通りがかった1人の少女。


「…えっ?」


少女が気付いた時にはもう遅かった。

少女を視界に捉えた巨大な獣が、少女めがけて飛びかかる。


「危ないっ!!」


ステラは少女をかばおうと、咄嗟に少女の前へと飛び出した。

そして次の瞬間、身を呈して少女を守ったステラは、獣の強烈な一撃を浴び大きく吹き飛ばされた。


「かはっ」


受け身も取れずそのまま地面に叩きつけられたステラ。

そのあまりの衝撃で呼吸すらままならない。


「う、うぅ…」


だがそれでも、ステラは痛みを堪え立ち上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。

 …負けない……絶対に負けない。

 守るんだ。私は大切な民たちを、愛する民たちを絶対に守るんだっ!!」


全身に傷を負い、血まみれになりながらも懸命に戦うステラ。


村人たちはそんなステラを…あの日からのステラをずっと見てきた。

皆に突き放された後も、たった1人で懸命に畑を耕し種を蒔いていた姿を。

自らを犠牲にしてでも、大切な村の子供を守ってくれた姿を。

全身傷だらけになりながらも、村を守ろうと必死に戦ってくれているその姿を。

そして気づいた。自分たちが間違っていたと。


「いくぞっ、みんなっ!!」


鍬や鋤、鎌や木槍など武器になりそうなものを手に取り、ステラの元へと急ぐ村人たち。そして、傷ついたステラを守るかのように、ステラを囲い、獣たちの前に立ち塞がった。


「…えっ?」


あの日、自分の元を去っていった村人たちが今、目の前にいる。

戦いなど慣れていないだろうに、それでも自分を守ろうと目の前に立ってくれている。

その姿に、ステラの目に涙が浮かぶ。


「ステラ様。申し訳ありません。俺たちが間違ってました。

 ステラ様は今も、そして前からもずっと、俺たちの為に頑張ってくれていた。

 それなのに俺たちは…」


そんな村人たちの言葉にステラは首を横に振る。


「いいえ。それを分かってくれただけで十分。

 とにかく今はここを切り抜けましょ。だからお願い、みんなの力を貸して!」


「はい、もちろんです」


そこからは村人たちも加わっての戦い。

皆、怯えながらも力を合わせ懸命に獣たちと戦った。

だが、やはり多勢に無勢。そして戦い慣れない村人たち。

埋め難き戦力差を前に、ステラたちは徐々に追い詰められていく。


「…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

 まだよ…私はまだ戦える。絶対にここを通さない」


満身創痍のステラ。とうに体力など尽きていた。

民を守る、その想いだけでステラは立ち続けた。


だが無情にも、そんなステラに向け、一際大きな赤黒い狼が猛然と襲い掛かる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

立っているのがやっとのステラ。

もう抗う力は残されていなかった。


(もう…これまでなの…?)

(民を守りたかった。この国の大切な民たち。ただそれだけなのに…)

悔しさに涙が滲む。


「でも最後だけはっ!!」


絶対にここを通さないと言わんばかりに、襲い来る獣に向かってステラは大きく両手を広げた。


「お願い、みんな……どうか生き延びて……」

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