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第63話

その後、数日間休みを取ったユイトとティナ。

何日かぶりに2人がギルドへ顔を出す。


そこで2人が何をしているかというと、掲示板に貼ってある討伐依頼を見ながら、なにやらサザントリム周辺の地図にマッピング。


「よし、完了と。じゃあ次は、Bランク以上の依頼だな」


だがFランク冒険者のユイトとティナは、Bランク以上の依頼書が貼ってある2階には上がれない。

ということで、Bランク以上の依頼のマッピングは”タイガーファング”にお願いすることにした。


「悪いな。こんな雑用お願いしちゃって」

「何言ってんだ、兄貴。これぐらいお安い御用だ。いつでも言ってくれ」


その光景を見て、周りの冒険者たちは不思議がる。


「なんでBランクパーティーが、Fランク相手にあんな下手に出てるんだ?

 しかも、あれって”タイガーファング”だろ?」

「さぁな。なんか弱みでも握られてるんじゃねぇの?」

「ふーん。にしても兄貴って…なぁ?」


(うんうん、分かる分かる。やっぱ、そうだよね)


2階へと上がり、せっせとマッピングに勤しむ”タイガーファング”。


「にしてもよ、ガイル。

 なんで兄貴たちは、地図にこんなマッピングしてるんだ?」

「そんなこたぁ、俺に分かるわけねぇだろ?

 でもあの人らのことだ。

 俺らじゃ考えも及ばねぇ、崇高なことを考えているに違いねぇ。

 俺らは黙ってその手伝いをしてりゃいいんだよ」

「確かにそうだな」


しばらくすると、マッピングを終えたガイルが再び1階へと戻ってくる。


「兄貴、姐さん、待たせたな」

「いや、ありがとう。助かったよ」


ガイルから受け取った地図を眺めるユイト。

「よし、これで準備完了だな」


この日からユイトとティナは、たまにギルドの依頼をこなしつつ、基本的にはマッピングした地図の空白となっている部分を探索することにした。

ではなぜユイトたちは、空白地帯を探索するのか?

その理由はいたってシンプルだ。


周りでは討伐依頼が出てるのに、そこだけ魔獣や獣がいないとは考えにくい。

というわけで、討伐依頼が出ているところは冒険者たちに任せ、空白地帯をユイトたちが掃除するというわけだ。

もちろん、依頼をこなすわけではないため、冒険者ランクは上がらない。

だが、冒険者ランクを上げるのが目的ではないユイトたちにとって、それは特に問題ではなかった。


(狩った獣は売れるしね)


日々、空白地帯の掃除に精を出すユイトとティナ。

そしてユイトとティナが空白地帯を回り始めてから3カ月近くがたった頃。


「よし。これであらかた片付いたな」

「うん、やっと終わったね」


「…なぁ、ティナ。

 俺たち、もうずいぶん長いことサザントリムに居るだろ?

 やるべきことも終わったし、そろそろ次んとこ行こうって思うんだけど、

 ティナもそれでいいか?」


「うん…そうだね。

 みんなと別れるのは寂しいけど、

 世界にはきっと困っている人たちがたくさんいるもんね」


「じゃあ、決まりだな。それじゃあ、次どこ行くか考えないとな」

「うん」


「…つってもどうすっかな……やっぱまずはギルドで情報収集かな。

 ギルドだったら、色んな情報を持ってそうだしな」

「そうだね」

「よし。じゃ、まずはギルドに行くか」


そうしてユイトとティナは、次の目的地を決めるべくギルドへと向かう。


「こんにちは。シノンさん」

「あら、こんにちは。お2人とも今日はどうされたんですか?」

「ちょっとギルドマスターと話したくてさ。

 今日ってギルドマスターっているかな?」

「ギルドマスターですか?朝見かけたのでいると思いますよ。

 じゃあ、ちょっと呼んできますね。いつもの部屋でお待ちください」


パタパタと駆けていくシノン。


いつしか”いつもの部屋”で通じるようになったユイトとティナ。

もはや完全に常連だ。

2人は勝手にギルド内を進んでいき、部屋へと入る。

そして椅子に腰かけしばらく待っていると、ギルドマスターとギルベルトがやってきた。


「おぉ、久しぶりだな2人とも。元気にしてたか?」

「あぁ、おかげさまでな」

「それは何よりだ。で、何やら話をしたいそうだな」

「あぁ。俺たち…」


ガチャ

飲み物を持って入ってきたシノン。


「そろそろサザントリムを発とうと思う」


「…えっ?」


ガシャーン

持ってきた飲み物を床に落とし、呆然と立ち尽くすシノン。


「…うそ?…うそでしょ?」


「………」

そんなシノンの声に無言のユイトとティナ。


「…嫌だ…嫌だよ。2人がいなくなっちゃうなんて、そんなの嫌だよぉ」

シノンは力が抜けたようにその場に座り込み泣き出した。


自分たちとの別れを悲しみ涙を流すシノン。

そんなシノンの姿を見て、今にも泣き出しそうなティナ。

だがティナはぐっと涙をこらえ泣きじゃくるシノンの元に行くと、優しくシノンを抱きしめた。


割れたコップを片付け、その後、シノンが落ち着くのを待ってユイトは話を再開。

「みんなにはまだ言ってなかったな。俺たちが旅をする理由」


いつになく真剣な表情を見せるユイト。

ギルドマスターたちもまた、そんなユイトに対し真剣な表情で向き合う。


「…俺は以前、ある町で、

 たった1人で地獄のような苦しみに耐え続ける少女に出会った」


その瞬間、ティナは少しだけ目を伏せる。


「他にも、飢えに苦しみ、何の希望も抱けないほど疲弊しきった

 村人たちに出会った。

 俺たちは、まだこの国から出たことがない。

 けど、そんな僅かな旅の中でも多くの苦しむ人たちに出会った。


 きっと世界には、数え切れないくらい苦しんでる人たちがいるんだと思う。

 俺たちは、そんな人たちを助けたい。

 どうすることもできず苦しんでいる人たちを救いたい。


 もちろん全部は無理だって分かってる。

 でも自分たちの手が届く範囲だけでもいいから助けたいんだ。

 それが俺たちが旅をする理由。俺たちの旅の目的なんだ」


「………」


「サザントリムに来たのも、ここなら色々な情報が手に入ると思ったからだ。

 冒険者になったのも、いろんな街や国に行きやすくなると思ったからだ。

 ここ3カ月ぐらいは、サザントリム周辺を色々と回った。

 俺たちに出来ることは全てやってきたつもりだ。

 …だから、そろそろ次の場所に移ろうと思う」


「………。ふぅ…」

ギルドマスターは溜息交じりに大きく息をついた。

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