第62話
「で、ユイト。お前のことだからきっと持って帰ってきてるんだろ?」
「もちろん」
「ふっ…やはりな。では、解体場に移動するとしよう」
何かの行進かのように、皆、連なって解体場へと移動する。
そしてユイトは解体場へ着くとすぐ、ギレンの森で討伐した魔獣たちを異空間収納から取り出した。
ドサッ、ドサッ、ドサッ、ズドンッ、ズドンッ
目の前に現れたのは、グレートウルフの山と巨大なビッグクローが6体。
「これはまた、壮観だな……」
興奮気味のギルドマスターとギルベルトとは対照的に、解体職人たちの顔はひきつっている。
おそらくあの時の悪夢が蘇っているのだろう。
「…で、魔獣の討伐自体は終わってんだけど、ちょっと気になることがあってさ」
「気になること?」
「あぁ。ちょっとこのビッグクローを見てくれ。
魔石が大きいのと小さいのと2つあるだろ?
本来、魔獣ってのは1つしか魔石をもってないはずなんだ。
こいつらが突然変異なのかもしんないけど、ちょっと気になってさ」
「なるほど…」
「あと、ギレンの森自体はそんな魔素が濃いわけじゃない。
なのにビッグクローが6体もいた。
ひょっとしたら、局所的に魔素が濃い場所があるのかもしんないけど、
なんか違和感があんだよな。
まぁ急ぐ必要はないと思うけど、機会があったらギルドでも調べてみてくれ」
「分かった。そうしよう」
「それじゃあ皆さーん。
これから査定をするんで、しばらくギルドハウスでお待ちくださーい」
ミーアに促され、再び部屋へと移動する。
その後、たわいもない話をしながら待つこと30分。
ミーアが解体場から戻ってきた。
「はーい皆さん、お待たせしました。査定が終わりました」
あれだけの数。A級魔獣までいる。
一体いくらになるのかと、”天翔の風”も”タイガーファング”もそわそわして落ち着かない。
皆、身を乗り出し、緊張した面持ちでミーアの言葉を待っている。
「では、まずはグレートウルフからですね。
グレートウルフは1匹あたり小金貨1枚、
全部で30匹でしたので金貨3枚になります」
「おぉーーっ!」
これは中々の金額だ。
「じゃあ、お次はビッグクローです」
ごくり。一同息を飲む。
「ビッグクロ―は1体あたり金貨3枚、
全部で6体でしたので金貨18枚になります」
「うおぉーーーーーっ!!」
響き渡る歓喜の声。
「グレートウルフ、ビッグクロー合わせて金貨21枚ですので、
1パーティーあたり金貨7枚のお支払いになります!」
「うおぉーーーーーーーーっ!!!」
ひと際大きい歓喜の声が、再び部屋に響き渡る。
と、その時。
「…ちょっと待ってくれ」
ガイルがミーアの言葉に待ったをかける。
「ビッグクローを討伐したのは兄貴と姐さんだ。
俺らはビッグクローの分は受け取れねぇ」
「ガイルの言う通りだな。
そもそもユイト君がいなければグレートウルフですら
持って帰ってくることはできなかった。
グレートウルフの分だけでも十分過ぎるぐらいだ」
ガイルに同調するロイ。
すると、そんな2人の言葉を聞いてユイトが口を開いた。
「2人とも、そんなこと全く気にしなくていいぞ。
それぞれが、それぞれの役割を果たしただけだ。
”天翔の風”も”タイガーファング”も命懸けでビッグクローと戦った。
それに命に危機が迫る中、俺たち2人だけでも逃げろって言ってくれただろ?
なんつーか俺、あの時ちょっと感動したんだ」
「兄貴……」
「だから、”天翔の風”も”タイガーファング”も十分、
ビッグクロー分も受け取る資格があると思う。
つーわけで、ミーアさん。
ミーアさんが言った通り、1パーティーあたり金貨7枚で頼むよ」
「はい、分かりました。
ではすぐに準備してきますね」
パタパタパタパタ
「…兄貴、マジでいいのか?」
「そうだよユイト君……」
「だから、気にすんなって!
俺とティナだったら、いつでもビッグクローぐらい倒せるしな」
「確かに…。そう考えたら少し気が楽になったよ。
ありがとう、ユイト君」
そして数分後。
「はーい皆さん、お待たせしました。
さすがにこんな大金持ったことないので私まで緊張しちゃいました。
ではこちらですね。
獲物の買取りで金貨7枚、今回の依頼達成で金貨1枚。
1パーティーあたり、金貨8枚のお支払いになります!」
皆の目の前に並べられた光輝く金貨。
「うぉーーっ、すげぇーーーーーっ!
1回でこんな稼いだのなんで初めてだぜっ!!」
「あぁ、俺たちもだっ!!」
受注した時には予想もしていなかった、まさかの大金。
皆、金貨を手に取り大興奮。
こうして無事、報奨金も受け取り、これにて終わり……かと思ったが、なんとまだ続きがあった。
「…それでですね、"無名"のお2人は、
今回の依頼達成で冒険者ランクがFに上がりました!」
「…えっ!?
ユイトさんっ!ランクが上がったって!!」
「みたいだな」
「やったじゃねぇか!兄貴、姐さん!」
「おめでとう!ユイト君、ティナちゃん!」
「ありがとな、みんな」
「ふふ。それではタグを付け替えますので、カウンターまでどうぞ」
その後カウンターへと移動し、待つこと数分。
新たなタグがつけられた冒険者プレートを手に、シノンがやってきた。
「ユイトさん、ティナちゃん、お待たせしました。
それではプレートをお返ししますね」
新たなタグが取り付けられた冒険者プレート。
そのFランクを示す新たなタグを嬉しそうに眺めるティナ。
「良かったね、ティナちゃん」
「はい!」
「ふふ。でも、ユイト君とティナちゃんだったら、
あっという間にSSSランクになっちゃうと思うな、私」
「確かに」
「違ぇねぇ」
皆、うんうんと首を縦に振る。
「…あっ、そうだ!
ユイト君、ティナちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど…」
「んっ?どうしたんだ?」
「ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うとセフィーはカウンターで何かをもらっている。
「お待たせー!
えっとね、これにユイト君とティナちゃんのサインを書いて欲しいの!
あっ、パーティー名もお願い!!」
「あっ!ずるいぞセフィー。俺もだ。俺のも頼む」
「兄貴、姐さん!俺たちにも書いてくれぇ!」
「…はっ?」
ユイトとティナのサインを求め、騒ぎ出す”天翔の風”と”タイガーファング”。
そんな彼らの元へシノンがやってきた。
「”天翔の風”と”タイガーファング”のみなさん。
”無名”のファン第1号である私、
シノンを差し置いてのサイン会とは一体どういうことですかっ!?」
「…って、シノン、お前仕事中だろ?」
「それはそれ、これはこれです!」
Fランク冒険者のサインをもらうために並ぶ、Bランクパーティーとギルド職員。
なんだかとってもシュール。
周りから「何やってんだ、あいつら?」という嘲笑と冷ややかな視線を浴びながら、慣れないサインを書きまくるユイトとティナ。
「ありがとう、ユイト君、ティナちゃん。家宝にするね!」
「ありがとう。この先、壁にぶち当たったとき、これを見て励みにするよ!」
「おぉ、これを祀って毎日、祈りをささげるぜ!」
「ユイトさん、ティナちゃん!
ここに”ファン第1号のシノンさんへ”とお願いします!」
依頼の最後に、まさかこんな精神的に疲れる仕事が待っていようとは思いもしなかったユイトとティナ。
その後2人は、皆に一時の別れを告げ宿へと向かった。
「…あー、なんかすげー久しぶりな気がする」
10日ぶりにウォータヒールの姿が目に映る。
早いもので、初めて泊まった日からそろそろ3カ月。
前払いした期間もそろそろ終わりそうだ。
「なぁティナ。
もう少しサザントリムにいようと思うけどいいかな?」
「うん!大丈夫だよ」
まとまった収入もあり蓄えは十分。
ウォータヒールに着いたユイトは、再び3か月分、金貨2枚と小金貨7枚を支払った。
その後2人はいつもの部屋へと移動。
さすがに疲れた(主にサイン)ということで、この日はそのまま休むことにした。