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第61話

そして翌朝。


「おはよう。ユイト君、ティナちゃん」


「おはようございます。ロイさん、みなさん」

「おはよう。どうだった?ゆっくり眠れたか?」


「あぁ、それはもちろん。

 危険におびえず、こんなにゆっくり眠れた野営なんて初めてだ」

「そりゃあ良かった。そう言ってもらえると作った甲斐があったよ」


するとそこへ、簡易宿から出てきたセフィーがスキップしながらやってくる。


「ねぇねぇ、ユイト君。

 朝から悪いんだけど、ちょーっとだけ、お願いがあるの。いいかな?」

「んっ?どうしたんだ?」

「えっとね…もう一度お風呂に入りたいの!お願いっ!!」


両手を合わせて申し訳なさそうな顔で懇願するセフィー。


「なんだ、そんなことか。

 そんなことぐらい言ってくれれば、いつでも準備するよ」

「ほんとっ!?ありがとう、ユイト君っ!!」


「おい、セフィー、ずるいぞ自分だけ。

 ユイトーっ!俺たちのも頼む」

「兄貴ぃ!俺たちのもお願いするぜぇー!」


「あー分かった、分かった。

 じゃあ、ちょっと待ってろよ」


結局、全部の風呂を入れ直すことになったユイトが、各簡易宿を回っていく。


「ほい。ほい。ほいっと。…よし。

 おい、みんなー、準備できたぞー!」


「わーい!ありがとう、ユイト君!!」

「ユイト!サンキュー!!」

「兄貴ぃーーーっ!!」


(最後のは何だ…)


「俺が最初だー!」

「いや、俺の方が先だーっ!」


みんな、朝から元気いっぱい。もの凄い勢いで簡易宿へと入っていく。


「じゃあ今のうちに朝ご飯の準備でもしとくかな」

「ユイトさん。私も何か手伝うよ?」

「そうか?ありがとな。

 じゃあ、この野菜と肉をこれくらいの大きさに切ってくれるか?」

「はい!」


昨日はたらふく食べたということもあり、今朝はパンとスープで軽めのメニュー。

しかしスープは、おそらくこの世界にはないであろうコンソメだ。

いつか飲もうとユイトが時間があるときに大量に作っておいたやつだ。


ティナが切った肉と野菜をコンソメスープに放り込んでコトコト煮込む。

出てきた灰汁は丁寧に取り除いて、最後に胡椒で味を調え完成だ。

パンは、街で焼きたてを買ってすぐに収納したため、今焼きあがったかのような香ばしさ。


ちょうどみんなも風呂から上がり、ユイトが作った即席テーブルを囲んで準備万端。

(さぁ、コンソメの洗礼を受けたまえ)


「う、うめぇ、何だこのスープ!?」

「おいしいっ!!何入れたらこんなにおいしくなるのっ!?」

「聞くまでもないかもしれないが、これもユイト君が作ったのか?」

「まぁな。肉と野菜を切ったのはティナだけど、スープは俺が一から作った」


「はぁ…とんでもないな……。

 君は料理の腕でも世界最強になれるんじゃないか?」

「ははは。だといいけどな。

 ちなみに、お代わりあるけど、みんな食べるか?」


「お代わりーっ!!」

みんなの手が一斉に伸びる。


みんなが喜んで自分の料理を食べてくれる。

その光景を見て、ユイトはなんだか嬉しくなった。

(きっと、親父とおふくろもこんな気持ちだったんだろうな…)


軽めのつもりが、みんな食べまくり。

朝からよくそんなに食べれるものだ。


「あ、兄貴ぃ、動けねぇぜ…。治癒魔法を頼む…」

「…そりゃ食い過ぎだ」


朝食の片づけを済ませ一休みした後、一行はサザントリムに向け出発。

道中は皆の要望に応え、食事付き簡易宿を提供。

すっかり餌付けならぬ宿付けされた”天翔の風”と”タイガーファング”。

かわいそうに、もう元には戻れないだろう。


そしてギレンの森を出発してから4日後、一行は無事サザントリムへと到着。

依頼達成の報告をするため、その足で冒険者ギルドへと向かった。


「おかえり。ティナちゃん!」

「ただいま。シノンさん!」

「みなさんもお疲れ様でした!」


今回はことが事だけに、カウンターでの報告ではなく、ギルドマスターたちも呼んで別室での報告。


「ご苦労だったな、みんな」


左に”天翔の風”、右に”タイガーファング”、そして中央に”無名アンネームド”の並びを見て、ギルドマスターはニヤリと笑った。


「で、何がいたんだ?

 グレートウルフをおびやかす存在がいたんだろう?」

そんなギルドマスターからの問いにロイが答える。


「はい。ビッグクローがいました」

「…ビ、ビッグクローだとっ!?

 あのA級魔獣のビッグクローがいたのかっ!?」

ギルドマスターもギルベルトも思わず立ち上がる。


「そうです。それも6体も」

「ろ、6体だとっ!?」

「はい。俺たち”天翔の風”も”タイガーファング”も

 ビッグクローに為す術なく殺されるところでした。

 ですがその危機をユイト君とティナちゃんの2人に救われました」


「そうか…。それで、ビッグクローはどうなったんだ?」

「ユイト君とティナちゃんにあっという間に討伐されました」

「6体ともか?」

「はい。一瞬でした」


「はぁ…さすがだな…。まぁこの2人だったらそうなるか…。

 …しかし、まさかA級魔獣が6体とはな。

 さすがにそこまでは予想できなかった。


 他のAランクパーティーがいなかったのが幸いしたな。

 偶然とはいえ、”無名アンネームド”に指名依頼を出せたからな。

 おかげで最悪の事態を免れた。…ふぅ……」


大きく息をついたギルドマスターが安堵の表情を浮かべる。


「…なぁ、ところでよ、ギルドは兄貴と姐さんの強さを知ってたんだろ?」


「…ぶはっ!!」

思いもよらぬガイルの言葉に、ギルドマスターとギルベルトが吹き出した。


「お、お前、ユイトとティナのこと兄貴と姐さんって呼んでるのか?」

「おうよ。兄貴と姐さんは俺の誇りだ。

 一生、兄貴と姐さんについてくぜ」


(いや、だからそれは困るって、ガイル君…)


「ふっ、ずいぶんとなつかれたもんだな」

「は、ははは…」

そんなギルドマスターの言葉にユイトは苦笑い。


「それでお前の質問だが、当然ギルドは2人の強さを知っていた。

 だからこそ”無名アンネームド”に指名依頼を出した。

 ティナなんて、冒険者資格を得るための模擬戦でギルベルトを

 コテンパンにしてたからな」


「ギルベルトのおっさんをコテンパンってか!?

 さすが姐さんだぜ!」


すると…


「おい、ガイル」

ギルベルトが鋭い目でガイルを睨む。

「俺はおっさんじゃねぇ。まだ30代前半だっ」


(…そっち?)

どうやら、コテンパンにされたことをばらされたのは、どうでもいいらしい。


ギルドマスターは続ける。

「そして、そんなティナであってもユイトには手も足も出なかった。

 我々はそれを目の当たりにしている」


「だったら、何で最初から教えてくれなかったんだよ?」


「馬鹿言うな。

 言ったところで数日前のお前たちだったら信じなかっただろう。

 はぁ?Gランク?ってな。


 それにな、”天翔の風”、”タイガーファング”。

 お前たちにとっても成長するいい機会だと思ったのだ。


 もし強敵と遭遇した時、強い味方がいれば頼ってしまう。

 それでは己の限界が知れん。

 だからユイトとティナには、ギリギリまで手を出すなとお願いしておいた。

 おかげで、自分たちがどのレベルにいるのか分かっただろう。

 他にも色々学んだことがあるはずだ」


「…言われてみりゃ確かにそうかもしんねぇな」

「そうだな。今回は色々と大切なことを学ばせてもらった」


結果的に2人の強さを隠されていたことが、自分たちの成長につながった。

それは紛れもない事実。

皆、ギルドマスターの言い分に納得した。

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