第58話
「じゃあみんな、一旦ここに集まってくれ」
”タイガーファング”の治癒が終わるのを待ち、ロイがみんなを集める。
そしてロイはすぐに、ユイトとティナの方を向き話し始めた。
「何よりもまずは、ユイト君、ティナちゃん。本当にどうもありがとう。
君たちがいなければ、俺たちは全員ビッグクローに殺されていた。
君たちのおかげで、誰一人欠くことなくサザントリムに帰れる。
感謝してもし切れない。本当にありがとう。
…そして俺たちは今回、とんでもない過ちを犯した。
まだ子供だと…Gランクパーティーだということで君たちを侮った。
見た目、ランクだけで判断し、その本質を見ようともしなかった。
本当にすまなかった」
”天翔の風”メンバー、全員が頭を下げる。
「最初に君たちの実力を確認さえしていれば、
あんな危機に陥ることもなかったはずだ。俺はリーダー失格だ。
…だが、同じ過ちを2度と繰り返さないことをここに誓う。
今回、ユイト君とティナちゃんには大切なことを学ばせてもらった。
本当にありがとう」
再びロイが頭を下げる。
「……ロイ、ちょっといいか。俺たちにも話をさせてくれ」
戦いが終わってから、ずっと黙っていたガイルがようやく口を開いた。
「ランドル、アドラー、お前らもだ」
「あぁ、分かってるぜ」
ユイトとティナの前に立つ”タイガーファング”。
すると”タイガーファング”の3人は地面に膝をつき、額を地面に押し付けた。
そして…
「これまでの非礼、謝らせてくれ。
本当に、本当に申し訳なかった」
初めて目の当たりにするリアル土下座。
正直そこまで気にしてなかったユイトは、土下座までされ、逆に気恥ずかしさを覚えた。
「おいおい、顔を上げてくれ」
「そんな訳にはいかねぇ。俺たちは、あんたらに非礼の限りを尽くした。
にも関わらず、俺たちを助けてくれた。負った傷まで治してくれた。
あんたらは俺らの命の恩人だ。
俺はそんな恩人に無礼を繰り返した。俺は自分が許せねぇ。
これは、けじめだ。どんな罰でも受ける。何でも言ってくれ」
「いや、だから、もういいって。今、謝ってくれただろ?」
なんだかちょっと困ってるユイトを見て、ティナが話し出す。
「ガイルさん。ユイトさんが本物の英雄って分かってくれた?」
そんなティナの問いかけに、ガイルが顔を上げ答える。
「ああ、もちろんだ。
そして嬢ちゃん…、あんたも俺の中では紛れもない英雄だ」
「ふふっ。じゃあこれからはランクが下だからって、
人を見下したり馬鹿にしちゃダメだよ?」
「分かった。約束する」
「じゃあ、これでお終い!」
ティナがきれいに締めた……かと思いきや、ガイルが何やら真剣な面持ちでユイトとティナに懇願し始めた。
「……いや、ちょっと待ってくれ。最後に1つだけ頼みがある。
どうか俺の願いを聞いてくれ」
「願い?…まぁ、とりあえず聞くけど、願いって何だ?」
「ありがてぇ。
俺の願いってのは…これから2人を”兄貴”と”姐さん”と呼ばせてくれ!」
「………。はぁーーーっ!?」
「………。えぇーーーっ!?」
まさかのガイルの願いに、思わず大声を上げるユイトとティナ。
「あはははははっ!!」
そんな2人のあまりの驚きように”天翔の風”は大笑い。
その後ユイトは、全力でその願いを断ってみたものの、結局ガイルに押し切られ、ユイトは”兄貴”、ティナは”姐さん”と呼ばれることとなった。
(………。なぜだ?なぜ、こうなった…?)
「兄貴、姐さん、これからもよろしく頼んます」
早速の兄貴、姐さん呼び。
呼ばれるこっちが恥ずかしい……まさにそんな気分だろう。
「もし、兄貴や姐さんを馬鹿にする奴がいたら、俺が鉄拳制裁を…」
早くも危険なことを言い出すガイル。
「おいおいおい、そんなんで暴力はダメだぞ」
「そうよ。あんただってユイト君のこと、馬鹿にしてたでしょ?
そんなんで鉄拳制裁だったら、あんた今頃ティナちゃんにボコボコにされて、
もうこの世にいないわよ」
「はっはっはっはっ!その通りだな!」
セフィーのナイスつっこみに一同爆笑。
「…ところでユイト君。ちょっと聞きたいんだが、
君たちほどの実力があって、なぜGランクなんだい?
俺の勝手な予想だけど、君たちはきっと存在を隠して活動している。
だからパーティー名も”無名”っていうんじゃないのかい?」
「…えっ、そうなの!?なんかそれ、凄くかっこいい!!」
(…一体何を言ってるんだい、ロイ君)
(それにセフィーさんも騙されるんじゃない…)
「いやいや、そんなかっこいい理由じゃないって」
「そんな謙遜しなくても大丈夫だ、ユイト君」
「まじか…さすが兄貴。かっけーぜ。
それに引き換え”タイガーファング”って…。
なんて安易な名前を付けちまったんだ俺たちは……」
(こ、これは、まずい……)
「名前を考えるのが面倒だったから、なんて言えないね!」
困ってるユイトの耳元で、ティナが小声で囁く。
「ふふふ」
ティナは困ってるユイトの顔を見て、楽しそうに笑っていた。
(ふぅ……まっ、いっか)
盛大に勘違いして盛り上がってるみんなを見て、結局、訂正するのを諦めるユイトであった。