第53話
それから数日後。
依頼達成の報告をしにギルドへ顔を出したユイトとティナは、シノンの案内で別室へと通された。
そして部屋に入ると、そこにはギルドマスターとギルベルトが待っていた。
「久しぶりだな。元気だったか?
がんばって依頼をこなしてるそうじゃないか」
「あぁ、それなりにな。だいぶ仕事にも慣れてきた。
…で、そんなことを言うためにここに呼んだんじゃないんだろ?
ひょっとして前に言ってた指名依頼ってやつか?」
「ふっ。相変わらず話が早くて助かる。
その通りだ。今日は2人に指名依頼をお願いしたくてな」
「やっぱそうか。…じゃあ、まずは話を聞こうか」
「そうだな。まずはそこからだな。
それで今回、2人に頼みたいというのはこの案件だ」
そう言いながらギルドマスターは1枚の依頼書をユイトたちに向け差し出した。
「ここサザントリムから西へ馬車で3日ほど行ったところに
ライカという村がある。
そのライカからさらに北へ1日ほど行くとギレンの森というところがある。
最近、そのギレンの森の入り口付近でグレートウルフの群れが
何度も目撃されていてな。
こんなことは、これまでに無かったことだ。
1度や2度ならまだしも何回も、とあってはな。
さすがにギレンの森で何かが起きているとしか考えられん。
まぁ、一番可能性が高いのは食糧不足だろう。
何かしらの理由でギレンの森で食糧不足が発生し、
それ故、獲物を求めて森の外まで出てきたといったところだろうな。
だが、他に可能性が無いわけでもない。
それは、より上位の存在に外へと追いやられたという可能性だ。
そこで今回、ギレンの森で何が起きているのかを調査するため、
この依頼書が発行された」
「…なるほど。で、中々こなされないってわけか」
「その通りだ。何か起きる前に早めに片付けておきたいところだが、
中々この依頼の開始条件を満たさなくてな。
この依頼は、グレートウルフより上位の存在がいる可能性も考慮し、
少し厳しめの条件を課している」
「厳しめの条件?」
「あぁ。その条件と言うのが『Bランク以上のパーティー3組、
内、最低でも1組はAランク以上であること』というものだ。
現在、2組のBランクパーティーがこの依頼に名乗りを上げている。
残るはAランク以上のパーティーなんだが、現在、
Aランク以上のパーティーが全て遠征で出払っていてな。
いつ戻るかも分からない状況だ。
そこで、お前たち”無名”に指名依頼を出したいというわけだ。
Aランク以上という条件だが、これはギルドからの指名依頼だからな。
その条件は適用されないから安心してくれ」
「うん、ひとまず状況は分かった。
でもさ、俺たちってまだGランクパーティーだろ?
他のパーティーはそれで納得するのか?」
「…まぁ、しないだろうな」
ギルドマスターの横に座るギルベルトが話し出す。
「今回、この依頼に参加するのは”天翔の風”と”タイガーファング”という
2つのBランクパーティーだ。
”天翔の風”は、正義感溢れる気のいい奴らだ。
おそらく、ギルドが決めたことならということで、とやかくは言わないだろう。
問題は”タイガーファング”だな。
連中は下位ランクを見下す、少し粗暴な奴らだ。
おそらく色々と言ってくるだろう。
例えばそうだな……
『おいおいおいおい、こいつらがAランクパーティーの代わりだってか!?
一体ギルドの連中は何考えてんだ。こんなGランクのガキども
寄こしやがって。舐めてんのか、あいつら。
なんで俺らが子守までしなきゃなんねぇんだよ。まじでふざけんなよ』
とか、
『やっぱ納得いかねぇぜ。
何でGランクなんかに指名依頼なんて出しやがったんだ、ギルドの奴ら。
お前ぇらもお前ぇらだ。
どうせコネでも使ったんだろ、この寄生野郎が。くそったれ。
いいか、お前らは邪魔以外の何物でもねぇ。
何かあっても絶対ぇ手ぇ出すんじゃねぇぞ。おい、分かったか』
的なことを言ってくるはずだ。
まぁ、弱い犬ほどよく吠えるってやつだな。軽く聞き流しておいてくれ」
「ははは、分かった。相手にしないようにしておくよ。
ところでさ、今言ってた”寄生野郎”ってのは何なんだ?」
「あぁ”寄生”か?寄生ってのは、実力もないのに高ランク依頼を受注し、
高ランク冒険者におんぶにだっこの奴らのことだ。
高ランク冒険者に寄生すれば、自分たちは何もしなくても
報酬をもらえるからな。上手くいけばランクアップまで狙える。
だから冒険者たちは、そういう奴らのことを蔑みの意味を込めて
”寄生”って呼んでるんだ」
「あぁなるほど。上手いこと言ったもんだな。
取り敢えずは分かった。まぁ何とかなるだろ。この依頼引き受けるよ。
ティナもそれでいいだろ?」
「うん。早く調査した方がいいもんね」
「そうか、引き受けてくれるか。お前たちが引き受けてくれれば一安心だ。
ようやくこの依頼も消化される。……ふぅ」
胸のつっかえが1つ減り、安堵の表情を浮かべるギルドマスター。
「それでだ。さっきギルベルトも言っていたように、
お前たちにとやかく言ってくる奴もいるだろう。
だからお前たちはギリギリまで何もしなくていい。
下手に手を出すと、”出しゃばるな”と、さらにこじれそうだからな。
”天翔の風”と”タイガーファング”が手に負えないような相手、
または誰かの命が危ないときは助けてやってくれ」
「あぁ、分かった。そうするよ」
「では調査の段取りだが、4日後の朝、ライカの村に集合でどうだ?
明日、馬車で出発すれば3日後の夜にはライカの村に着くだろう。
一晩休んで4日後の朝に3パーティーでギレンの森に向かうといった感じだ」
「そうだな。それで構わない」
「馬車はどうする?必要ならギルドの方で手配するが」
「馬車はいいかな。鍛錬もかねて自分たちの足で向かうよ」
「そうか。確かにお前たちなら、馬車より自分の足の方が速そうだしな」
(うぅーー)
馬車に乗れず、ちょっとだけ残念そうなティナ。
「それでは、”天翔の風”と”タイガーファング”にも、
4日後の朝にライカの村に集合と伝えておこう。
それでは2人とも、頼んだぞ」
「あぁ、任せてくれ」
「はい!」
初の指名依頼を受注したユイトとティナ。
翌日2人は、街で遠征の準備を整えると、すぐにライカの村に向けて出発した。