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第51話

早速、冒険者プレートを首からぶら下げるユイトとティナ。

これで2人はもう、立派な冒険者。

だがこの日は既に午後ということもあり、記念すべき初受注は明日に延期。

2人はギルドを出た後、街で買い物を楽しみ宿へと戻った。


そして翌朝。


「ユイトさん!今日から冒険者の仕事スタートだね!

 でもなんか、凄く緊張するよー」

「ははは。冒険者の仕事っつっても、俺たちまだGランクだからな。

 雑用というかお手伝いみたいなもんしかないと思うぞ。

 それに、お手伝いだったらお手のもんだろ?

 なんたってナイチの村でこれでもかってくらいやってきたからな」


「そっか…そうだね。困ってる人を助けるって考えれば同じだもんね。

 ありがとう、ユイトさん!なんか気が楽になった!」

「そりゃあ、良かった。よし。じゃあそろそろ行くか!」

「うんっ!」


この日からユイトとティナは、毎日冒険者ギルドへと足を運び、精力的にGランク依頼をこなしていった。

その依頼内容は、薬草採集、どぶさらい、荷物運び、雑草抜き、屋根の修理など様々だ。

もちろん、サザントリムに来た目的である情報収集も忘れない。

2人は依頼をこなしつつ、依頼人から様々な情報を仕入れていった。


そして、ユイトとティナが冒険者になって1カ月が経過したある日のこと。

この日、2人は冒険者の仕事を休み、街に出かけることにした。

以前ティナと約束した、簡易宿用のふかふかベッドとふかふか布団を買いに行くためだ。

しかしこの広い街のどこでそれを買えるのか。探すとなればかなり大変だ。

だがそこは、さすがのユイト。なんと店の場所は既にリサーチ済み。

(単に仕事の依頼人に教えてもらっただけだけどね)


宿を出たユイトとティナは、目的の店へとまっすぐ向かう。

事前調査の甲斐あり、2人は迷わず店へと到着。

だが2人の目に映るのは、エクセレントロイヤルパレスを彷彿とさせる店構え。

いかにも貴族御用達といった雰囲気だ。

だがここで怖気づいては、最高のベッドと布団は手に入らない。

ユイトとティナは意を決して店の中へと入っていく。


「すごい……」


広い店内には、所狭しと高級そうなベッドが置いてある。

店の中を回りながら、お好みのベッドを探すユイトとティナ。

するとそこへ、1人の店員がやってきた。そして…


「お客様、お店をお間違えではないでしょうか?」


”平民”、”子供”、”最底辺Gランク冒険者”三拍子揃ったユイトたちに向かって店員が言い放つ。

だが、当然この展開を予想していたユイトは涼しい顔。


「いや、ここで合ってるぞ。今日は買い物に来たんだ」

「…左様ですか。

 そうだとしても、ここにはお客様が買えるようなものは置いていないかと。

 他のお客様もお見えですので、どうぞお引き取り下さい」


あまりに予想通りの展開に、ユイトは必死に笑いをこらえる。


「そっかー。この店じゃ金貨2枚じゃ何も買えないのか」

「…えっ?金貨2枚!?」

「足りなかったら金貨3枚でも4枚でもしょうがないかなって思ってたけど…」

「えっ!?金貨3枚!?4枚!?」

「まぁ、買えるもんがないならしょうがないな。

 じゃあティナ、帰ろうか」


入り口の方へ体を向けるユイト。

するとそのユイトの前に、店員が一瞬で回り込む。


「さぁさぁさぁ、お坊ちゃま、お嬢様。こちらへどうぞ。

 只今、お飲み物とお菓子をご用意いたしますので、

 こちらにお掛けになってお寛ぎください」

踊るように店の奥へと消えていく店員。


「…凄い…ユイトさんの言ってた通り」

「ふふっ、だろ?」


しかし見事なまでの掌返し。掌返しランクがあればSランク相当の強者だ。

180°通り越して540°は行っている。普通の人間なら腕が捩じ切れていただろう。

さすがにこの域に達するのはユイトであってもおそらく無理だ。

(まっ、なりたくないけどね)


何はともあれ、ふかふか、あったか、心地よい、最高のベッドと布団と枕を無事ゲット。

これで、サザントリムを出た後も快適な睡眠、安眠確定だ。

(うんうん、めでたし、めでたし)


その後、2人は時間もあるということで街を散策。

歩いていると、かなりの数の露店が立ち並ぶ通りに出た。


「うわーっ、凄い!ユイトさん、見ていってもいい?」

「あぁ、いいぞ。ゆっくり見ていきな」


1つずつ露店を見て回るユイトとティナ。

すると、その内の1つの露店の前でティナが立ち止まる。

何やら真剣に商品を眺めているようだ。


「どうした?何か欲しいものでもあったのか?」

「…あっ、ごめんなさい。

 すごくきれいだなぁと思って…。ついつい見とれちゃった」


ティナが見ていたもの、それは髪留めだった。

そしてその髪留めのデザインを見た瞬間、ユイトは少し驚いた。


「…へぇ、不思議なもんだな…」


「???。どうしたの?」

「いやさ、その髪留めの模様が雪の結晶にそっくりなんだ」

「雪の結晶?…雪って、もしかして前に見せてくれた白くて冷たい雪のこと?」

「そうそう、あの雪のことだ。

 雪ってさ、実はその髪留めの模様と同じ形をした結晶が

 たくさん集まってできてるんだ。

 もちろん雪の結晶はこんな大きくなくて、もっと凄く小っちゃいんだけどな。

 …けどまさかこの世界で、この模様を見れるとは思わなかったな。

 偶然って凄いな……」


「へぇー、あの雪ってこんなのが集まってできてるんだ…」


まじまじと髪留めを眺めるティナ。


「…あっ、そういえばさ、前にギルドでもうすぐ12歳になるって言ってただろ?

 ティナの誕生日っていつなんだ?」

「誕生日?今日だよ」


「…はっ?今日っ!?ほんとにかっ!?」

「うん、そうだよ」

「ごめん、全然気が回らなかった。もっと早くに聞いときゃよかった。

 …じゃあさ、ティナ。

 その髪留め、誕生日プレゼントってことで俺に買わせてくれよ」

「ほんとにっ!?いいのっ!?」

「もちろん!でもティナはそれでいいのか?他の物でもいいんだぞ?」

「ううん。これがいいの!」

「分かった。じゃあそれにしよう!」


早速ユイトは、女主人に代金を支払うと、髪留めをティナにプレゼント。


「ティナ、誕生日おめでとう!!」

「ありがとう、ユイトさん!すごく嬉しい!

 私、絶対大切にする!一生大切にする!!」


心から喜ぶティナの姿に、ユイトもまた幸せな気持ちに。


「ねぇユイトさん。着けてみてもいい?」

「あぁ、いいぞ」


ティナはお店の鏡を見ながら、慣れない手つきで髪留めを着けてみる。


「ユイトさん、どうかな?」

「うん、似合ってる。すっごくかわいいぞ!」

「えへへ」

ティナは恥ずかしそうに笑ってみせた。


4年ぶりの温かい誕生日。

その日はティナにとって一生忘れられない誕生日となった。

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