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第48話

「ユイトさん!私たち、明日、冒険者になるんだね!!」

満面の笑みで話しかけるティナ。


「そうだな。思ったより早く試験受けれて良かったな。

 これで明日の今頃は俺もティナも冒険者だ!」

「うん!なんか凄くワクワクする!」


「じゃあまだ昼だし、明日からは冒険者だし、これから武器屋でも見に行くか?

 この前は防具買えなかったからな。

 剣ももっといいのがあったら買い換えよう」

「うん、行く行く!行きたいっ!!

 じゃあ早く行こ、ユイトさんっ!」


大喜びのティナがユイトの手をぐいぐい引っ張る。


「ははは。武器屋は逃げないから、そんな慌てなくても大丈夫だぞ」

「えぇー、でも売り切れちゃうかもしれないよ?」

「まぁ、そん時はそん時だ。そしたらティナ専用のをどっかで注文してやるよ」

「ほんとにっ!?だったら私、売り切れてるの祈る!」

ぶつぶつと祈り始めるティナ。


「はは、現金だな。

 …よしっ、それじゃあお祈りはそれくらいにして、取り敢えず行くか」


そうして、まだ見ぬ相棒を求めて武器屋巡りに出発したユイトとティナ。

2人は見つけた武器屋を手あたり次第にのぞいていく。


しかし驚くべきは武器屋の数。そしてどの店も品揃えがもの凄い。

この前寄ったウォーレンの武器屋の何倍もの品が置いてある。

さすがは大都市サザントリム。


…だがそんなサザントリムの武器屋であっても、ウォーレンの武器屋同様、子供向けの本格的な装備品は置いていなかった。

ギルドが定める冒険者になるための規定年齢が少なからず影響しているのだろう。


広い街をあちこち回り、9件目の武器屋を出た頃には既に夕方近くになっていた。


売り切れる以前に、そもそも作っていないというこの状況。

楽しみにしていただけに、少ししょんぼりとするティナ。


「こめんな、ティナ。疲れたろ?また明日探そうな」

「うん…」


結局この日は武器、防具探しを諦め、2人は宿へと向かう。

その途中。


(…ひょっとして、あれは武器屋か?)


偶然ユイトが見た先にあったのは、武器屋らしき小さな店。


「ティナ、悪い。最後にあそこを見ていこう」


今日回った他の武器屋に比べ、一回りも二回りも小さい店構え。

特に期待もせず、ダメ元で見ていくか程度の気持ちでユイトは店へと向かった。

しかし、扉を開け店内に入ると、予想もしていなかった光景がユイトの目に飛び込んできた。


「ド、ド、ド、」

「ド?」

「ドワーフだーっ!ティナ、ドワーフだっ!!

 すげぇ、ドワーフなんて俺、初めて見たぞっ!!!」


目の前には、小さめかつガッチリとした体躯、筋肉隆々の両腕。

そして頑固そうな表情を浮かべた親父さんが立っていた。

まさにドワーフのイメージそのままだ。


「…おい、兄ちゃん。ここは武器、防具屋だ。見世物小屋じゃねぇぞ?」

「はっ!?すまん。ドワーフに会えてあまりに感動してつい…」

「ドワーフに会えて感動しただぁ!?

 兄ちゃん……中々、見どころがあるじゃねぇか。がっはっはっはっは」


(良かった…どうやら怒ってないみたいだな)

ユイトは、ほっと胸をなでおろす。


「で、兄ちゃん、今日は何しに来たんだ?」

「あ、そうだ。それなんだけどさ、この子の防具を探してるんだ。

 今日街の武器屋を色々見て回ったんだけど中々合うのがなくてさ。

 で、諦めて宿に戻る途中、偶然この店を見つけたんだ」


「ほぅ、なるほどな。

 まぁ当たり前だが、どの店も商売やってる以上、

 稼ぎにならんもんは置いてないわな。

 冒険者になれない子供用の武器、防具を作っても売れんからな。

 もし、どうしても欲しいってんならオーダーメイドだな」


「オーダーメイドか…。

 で、そのオーダーメイドってのは、どの店でもやってんのか?」


「あぁ、大抵の店はやってるぜ。

 だが、だからといってどの店でもいいってもんじゃねぇ。

 結局は作り手の腕ですべてが決まっちまうからな。

 ”こいつなら大丈夫だ”っつって確信が持てる店以外では

 オーダーメイドなんてするもんじゃねぇ」


「確かにそうだよな……。

 ちなみにこの店はオーダーメイドってやってんのか?」


「おぉもちろんだ。むしろ、オーダーメイドがメインの店だ。

 ちーっとばかし値が張っちまうけどな。

 だがその分、質はめちゃくちゃいいぜ。


 まぁ、既製品も全くないってわけじゃねぇ。若干だが店頭に置いてある。

 防具じゃなくて剣だけどな。

 急ぎで欲しいって奴も中にはいるからな。


 だがな、既製品つっても、そこらの店で売ってる既製品とは訳が違うぜ。

 大量に既製品を置いてる店のやつは、

 溶かした鉄や鋼を型に流し込んだだけの鋳造品だ。

 だが、この店に置いてあるのは一本一本魂を込めて打ったやつだからな」


「なるほど…」


親父さんの話を聞いたユイトは、既製品が置いてある場所へと移動する。


「これか…」


ユイトは、並んでいる剣の1つを手に取った。

きれいな刃。そして丁寧な造り。

武器に詳しくないユイトでも、それが確かな腕と想いで打たれたものだとすぐに分かった。


「なぁ、試し切りできる剣ってあるのか?」

「んっ?もちろんあるぞ」


そう言うと、なにやらカウンター下でごそごそする親父さん。


「ほら兄ちゃん、これを使え」


親父さんから渡されたのは、試し切り用の剣と木片。

その受け取った剣をユイトがまじまじと眺める。


「これも良い剣だな……」


そして親父さんとティナが見守る中、ユイトは渡された木片を空中に投げ上げた。

そして…


スパンっ


「…ほぉ、いい腕だな」


床に転がる切断された木片をユイトが拾う。

手にしたその木片は、驚くほどきれいな断面。

剣に”気”を纏わせていたわけじゃない。

だがその断面は、まるで磨かれたような滑らかさ。


「…決めた。

 親父さん、この店でオーダーメイドする。

 依頼するのは、この子の…ティナの防具と剣、そして俺の剣の3つだ」


その言葉にティナの顔がぱぁっと明るくなる。


「かっかっかっかっ。

 この店を選ぶたぁ兄ちゃん、良い目持ってるじゃねぇか。

 じゃあ、どんなもんが欲しいか詳しく教えてもらうぜ。

 店によっちゃあよぉ、俺が作るもんは一級品だっつって、

 ろくに希望も聞かずに作っちまうところもある。


 だが俺に言わせりゃあ、そんなんで本当に客が満足するもんなんて

 作れるわけがねぇ。作り手の単なる自己満足だ。


 俺は客が心底喜ぶもんを作りてぇ。

 だから、とことん客が求めるもんを知ってから作る。それが俺のモットーだ」


親父さんの熱い想いを聞き、ユイトは偶然この店を見つけれたことに感謝した。


「ところでよぉ、兄ちゃん。

 なんでそこの嬢ちゃんの武器、防具まで必要なんだ?

 それも金のかかるオーダーメイドまでしてよぉ。

 その年じゃあ、まだ冒険者になれんだろ?」


「いや、ティナは明日から冒険者だ。

 今日冒険者ギルドで例外取得の試験を受けて合格したからな」


「なに!?試験に合格しただぁ!?

 噂じゃあ、鬼のギルベルトっつう元Aランク冒険者の試験官が

 えれぇ厳しいって話じゃねぇか。

 まさか鬼のギルベルトに認められたってのか!?」


(ぷっ。鬼のギルベルトって…)

思わず吹き出しそうになるユイトとティナ。


「いやいやいや、認められたも何も、

 ティナは模擬戦でその鬼のギルベルトに圧勝したぞ」

「はぁ!?この嬢ちゃんが元Aランク冒険者に勝ったってか!?」

「あぁ、そうだぞ」


「…こりゃあ、おったまげたぜ。人は見かけによらねぇな…」


その気持ちはよく分かる。

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