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第47話

ティナは”魔法”と”気”による身体強化の重ね掛け。

今持ち得る最大の力でユイトに挑む。


「じゃあ行きますっ!」

ユイトに向かって、ティナが地面を蹴る。


「…なっ…消えたっ!?」


一瞬で間合いを詰めるティナ。

その姿はギルド職員の目には映らない。


ユイトに向けて全力で攻撃を繰り出すティナ。

凄まじいまでの剣速、身のこなし。

移動する際に蹴られた地面はひび割れ、くっきりと足跡が残る。


だがそれでもユイトにはかすりもしない。

ユイトの髪の毛1本にすらティナの攻撃は届かない。


「な、なんて戦いだ…目で追いきれない……」

「し、信じられん…。一体、何なんだこれは……」

「は、速過ぎて何も見えません……」


これまで数多くの冒険者を見てきたギルドマスターやギルベルトですら見たことのない、凄まじいレベルの戦い。

すぐ目の前で繰り広げられるその尋常ではない戦いに、ギルド職員たちは皆、ただただ驚愕するしかなかった。


そして模擬戦が始まってから数分が経過。

全力で攻撃をし続けるティナに少し疲れが見えてきた。


(…そろそろかな)


その時、瞬間的に移動速度を上げたユイトが、ティナの後ろへと回り込む。

そして右手で、剣を持つティナの右腕を押さえ、空いた左手をティナの頭にポンと置いた。


「あーー今日もダメでした……」

「大丈夫だティナ。ちゃんと上達してる。

 これからもこの調子で頑張るんだぞ!」

「はい!」


ティナに労いの言葉かけたユイトがギルド職員たちの方を向く。


「じゃあ以上だな。こんな感じで良かったか?」

「あぁ、十分過ぎるほどだ。いいもん見させてもらったぜ。

 …にしても本当に嬢ちゃんが手も足も出ないなんてな。

 ちょっと信じらんないぜ……」

そう言いながらギルベルトが左右に首を振る。


「まぁ、ティナはまだまだ発展途上だからな」

「はぁ!?発展途上っ!?おい、まじで言ってんのか?

 嬢ちゃんが発展途上だったら、この世界の人間全てが

 発展途上になっちまうぞ!?」

「ははは、確かにそうかもな」


その時、ユイトとギルベルトの会話を聞いていたティナから笑みがこぼれた。

ユイトが発した”確かにそうかもな”という言葉。その言葉が、なんだか自分を認めてくれた言葉のようで、ティナはすごく嬉しかった。


「…ところでユイトよ」

なにやらそわそわするギルドマスターが突然ユイトに話しかける。


「昨日の素材買取の件だが、捌き切れんということで

 途中で出すのを止めさせたとミーアから聞いている。

 おそらく魔法の袋とやらには、まだ他にもたくさん入っているのだろう?

 もしよければ、他にどんなものがあるのか見せてもらえないか?

 今の戦いを見てちょっと興味が湧いてしまってな」


「あぁ、そんなことか。じゃあちょっと見てみるか?」


(今の流れからすると強そうな奴の方がいいんだよな…)

(でも、あまりでかいとこの部屋に入りきらないしな…)

(じゃあとりあえず…)


「まずはキラーウルフだろ」

ドスンッ


「次はマーダーグリズリー」

ズドンッ


「それとレッドデビル」

ズドドンッ


「あとは…」


「ストップ、ストップ、ストーーーーーップ!!!」

慌ててユイトを止めるギルドマスター。


ふと横を見ると、ギルベルトとシノンは魂が抜けたようになっている。


「す、すまん、私が悪かった。もうお腹いっぱいだ。

 S級魔獣のキラーウルフだけでも信じられんと言うのに…。

 一体全体どうなってるんだお前らは…」


目の前に横たわる見たこともない巨大な魔獣たち。


「…ふぅ。悪いがもう一度しまってもらえるか?

 こんなのを一気に持ち込まれてはギルドが破産してしまう…」

あまりの驚きの連続に、ぐったりとするギルド職員たち。


(うんうん。満足してもらえたようで何よりだ)


「…あぁ、そういえばそうだったな。

 色々ありすぎて忘れていたが、今日は冒険者資格の例外取得試験だったな…。

 ギルベルト、シノン。

 私は何だかどっと疲れたから今日はもう休むことにする。

 長旅疲れということにしておいてくれ。じゃあ後は頼んだぞ」

そう告げるとギルドマスターは階段へと消えていく。


「じゃあシノン。

 俺も何だかどっと疲れたから今日はもう休むことにする。

 長旅疲れということにしておいてくれ。じゃあ後は頼んだぞ」

ギルベルトもまた、ギルドマスターを追うように階段へと消えていく。


「…え?えぇーーっ!?そんなぁ!?

 ギルドマスターもギルベルトさんも、自分たちだけずるいですっ!」

1人残されたシノンはプンプンだ。


「ごめんね、シノンさん。

 私たちのせいでお仕事増やしちゃって」


そんなシノンを気遣うティナ。

ティナのかわいさも相まって、シノンにはティナが天使に見えた。


「あぁ、天使だぁ、かわいい天使がいるよぉ。

 ティナちゃん。もう呼んじゃってるけど、

 これからはティナちゃんって呼んでもいいですか?」

「うん」

「あぁ、ティナちゃんかわいいよぉ」


ぎゅうーーーーーっ


なんとも幸せそうな顔のシノン。

「うーーーん、ティナちゃんエネルギーの補給完了です。

 これで今日も1日頑張れます!!」


そんなシノンの様子を横からじーーーっと眺めるユイト。


「……はっ!?」

我に返るシノン。が、時すでに遅し。


「ははははっ。シノンさんって、実は面白い人だったんだな」

「す、すみません。完全に自分の世界に入ってました…。

 そ、それでは、冒険者登録の手続きをしますので上の受付カウンターまで

 お願いできますか?」

「あぁ、分かった」


顔を赤くしたシノンの後に続いてカウンターまで移動する。

そこでシノンから手渡されたのは、登録に必要な申請書。

それを書いて提出さえすれば、晴れて2人は冒険者。

ユイトとティナはワクワクしながら必要事項を記入する。


「シノンさん、これでいいか?」

「はい。これで大丈夫です。

 あとは冒険者プレートの発行になるんですが、

 実はティナちゃんのプレート発行には少し時間がかかりまして…。

 ですのでプレートを準備できるのが明日になりそうなんです」


「ティナのだけか?」

「はい。ティナちゃんの場合、特別に許可されたことを示すため、

 他の冒険者とは少し違うプレートになるんです。

 正しく審査を受けて許可された、ということを明示するためですね。

 通常のプレートだと、不正に取得したのではないかと怪しまれてしまう

 可能性がありますので」

「あーなるほど」


「ユイトさんのプレートは本日発行可能ですが、どうされますか?」

「うーん、せっかくならティナと同じ日に冒険者になりたいからな。

 俺も明日でいいや」

「分かりました。ちなみにお2人はパーティー登録されますか?」

「パーティーか…。そうだな…せっかくだからお願いするかな。

 ティナもそれでいいか?」

「うん!」


「はい、分かりました。

 それでは、どんなパーティー名になさいますか?」

「パーティー名?」

「はい。パーティーを組むためにはパーティー名が必要になるんです。

 ちなみにですが、パーティー名は冒険者プレートにも刻まれますので、

 よく考えて決めてくださいね」


再び訪れた名付けの機会。

グレンドラに名付けした時のことを思い出す。


「名前かぁ…。俺、そういうの苦手なんだよな……。

 なぁティナ、何か良い名前ないか?」

「えっ!?私?そんなの私だって苦手だよー」


「ふふふっ。流石のお2人にも苦手なものがあるんですね。

 ちょっと安心しちゃいました」

悩むユイトとティナを見て微笑むシノン。


「なぁ、シノンさん、名前なしじゃダメなのか?」

「そうですね。何かしらは付けていただかないと…」

「そっか…まいったな……うーん……。

 …ティナ、何でもいいか?」

「うん。ユイトさんに任せる」


「じゃあ、決めた。名前なしがダメならこれでいいや。

 考えるのも、なんだかめんどくさいしな。

 シノンさん、パーティー名は”無名アンネームド”でお願いするよ」


「”無名アンネームド”…いいじゃないですかっ!

 何かミステリアスなお2人にピッタリです!!

 …あぁ…なんだか歴史的な瞬間に立ち会ったような気がします」

どこか遠くを見て、まるで夢でも見てるかのような表情を浮かべるシノン。


「いやいや、大げさだって」

「いいえ、そんなことはありません!

 冒険者ギルド サザントリム支部受付のシノンが保証します!

 ”無名アンネームド”は将来、絶対に伝説のパーティーになります!」

シノンが自信満々に言い放つ。


「あっ!ちなみにですが、私が”無名アンネームド”のファン第1号ですから!

 そういうことでお願いしますね!」

「ははは。分かった。覚えとくよ」

「絶対ですよ!!……で、何の話をしてたんでしたっけ?」


「んっ?冒険者プレートか?」

「あっ、そうだ、そうでした。すみません。

 話が逸れちゃいましたが、各種ルールの説明などは、

 冒険者プレートをお渡しするときにさせていただきますね。

 明日のお昼以降でしたら冒険者プレートお渡しできると思いますので、

 明日のお昼以降にまたお越しください」


「分かった。今日は色々とありがとう」

「シノンさん、どうもありがとうございました」

「じゃあ、またね、ティナちゃん」

「はい。また明日来ます」


笑顔で手を振るシノンにティナも笑顔で手を振り返し、2人は冒険者ギルドを後にした。

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