第41話
サザントリム近郊の緩やかな丘を進むユイトとティナ。
2人が丘を登り切り、下りにさしかかった時。
「…あっ、ユイトさん、何か見えてきたよ。
ひょっとして、あれがサザントリムかな?」
「多分そうだな。
…にしても、この距離からあの大きさって、めちゃくちゃでかいな…」
「うん。これまで見てきた町とは大違い!
どうしよう!なんか私、ワクワクしてきちゃった!」
「だな。俺もワクワクしてきたぞーっ!よーし、ティナ。急ぐぞー!」
「はーい!」
レンチェスト王国 第2の都市サザントリム。
そこは他国との国境に近いこともあり、国内にとどまらず、世界中から人と商品が集まる一大商業都市。
この大都市は、一攫千金を夢見る商人や職人、そして商品を買い求める人たちで溢れ、日夜賑わいを見せている。
また、城郭都市であるこの街は、レンチェスト王国の国防上、重要な役割も果たしている。
「やっと着いたーっ!」
期待に胸を膨らませ城壁近くまでやってきたユイトとティナ。
しかしそんな2人の目に飛び込んできたのは、城壁前にできた長蛇の列。
「…なぁ、ひょっとしてこれ……街に入るのを待つ列か?」
「えっ…?こんなに並んでるの?」
そのあまりの列の長さに愕然とするユイトとティナ。
「とりあえず聞いてみるか…」
すぐに列の最後尾にいる人に声をかけるユイト。
「なぁ、これって街に入るために並んでるのか?」
「あぁ、そうだよ」
(や、やはり……)
かつて行ったテーマパークの大人気アトラクションに並んだ時の記憶が蘇る。
逸る気持ちを抑えつつ、そのまま列の最後尾へと並ぶユイトとティナ。
しかし、待てども待てども中々前に進まない。
待っている間はただでさえ時間が長く感じるというのに、列が進まないとなぜか余計に長く感じる。不思議なものだ。
列に並びながら、何か面白いことはないかと辺りをきょろきょろと見渡すユイト。
すると、自分たちが並んでいるところ以外にも、街への入り口が3つあることに気がついた。
その3つの入り口をじーっと観察するユイト。
どうやら1つは貴族用の入り口らしい。
その入り口へは豪華な馬車しか入っていかないから恐らくそうだろう。
(確かに、お偉いさんをこんな列に並ばせるわけにはいかないもんな)
(周りの人も近くに並ばれちゃ、気疲れしちゃうしな)
次は2つ目の入り口。こちらはおそらく商人用だ。
大量の荷物を積んだ馬車や荷車がどんどん中へと入っていく。
(そりゃそうか…。日本のデパートや大型スーパーでも搬入口は別だしな)
(世界は違っても発想は同じなんだな)
そして3つ目の入り口。先ほどまでと同様、そこもじっくり観察。
しかしそこだけは、何用の入り口かさっぱり分からない。
ユイトたちが並んでる列と違い、やたらとスムーズに流れている。
入り口に立つ兵士に何かを見せて街の中に入っていってるようだ。
(ひょっとして、予約券やフリーパスみたいなもんがあるのか?)
(手続きの時に聞いてみるか…)
こうしてあっという間に入り口観察タイムが終了。
ユイトは再び暇を持て余す。
(…あぁ、暇だ、暇だ。暇過ぎる)
(寝てるうちに誰か前に運んでくんないかな…)
そんなことを思いつつ、ティナの方に目をやるユイト。
するとティナは、何やら真剣な表情だ。
注意して見てみると、ティナの手から魔力が放出されている。
どうやらこの待ち時間を利用して、魔力密度コントロールの訓練をしているようだ。
(……なんか自分が恥ずかしくなってきた)
そして列に並んでから2時間半。
ようやくユイトたちの番がやってきた。
「やっとだね、ユイトさん!」
「あぁ…長かった……」
手続きカウンターへと進むユイトとティナ。
そこで申告するのは「名前」「年齢」「どこから来たか」「目的」の4つの情報。
通常どの国も、身分証みたいなものがあるらしく、前者3つはそれを見せるだけでいいらしい。
ちなみに、その身分証には犯罪歴も記載されるため、それを見て街への立入りを許可するかどうかを判断するそうだ。
だが、ユイトは当然そんなものは持っていない。
しかし、ここでジタバタしても仕方がないので、ユイトは旅の途中で落としたということで押し通すことにした。
「ほぅ、君たちはラーゴルド領カタルカから来たのか…。それは大変だったな」
「はい。もの凄く遠かったです」
「あぁ、距離もそうだが、ラーゴルド伯爵の件だよ。
全く、とんでもない領主もいたもんだ」
門番の兵士から聞かされた、その後のカタルカ。
そこで初めてユイトとティナは、ラーゴルド伯爵が捕らえられ、新たな領主が赴いたことを知った。
その予期せぬ朗報に顔を見合わせ喜ぶ2人。
その後、ユイトの『身分証紛失で押し通す作戦』も無事完遂。
晴れてユイトも街の中に入れることとなった。
ユイトも見た目は10代半ば。おそらく人畜無害な2人組に見えたのだろう。
「じゃあ2人分。ちょうどだと思うけど確認してくれ」
町に入るための税金を支払うユイトとティナ。
と、その時、ユイトがあのことを思い出す。
「…あっ、そういえばさ、あそこの入り口。
あれって誰用の入り口なんだ?
なんかやけにスムーズに人が入っていくけど…」
「あぁ、あれは冒険者用の入り口だ。
冒険者は街の外での仕事も多いから頻繁に街を出入りするだろ?
けど、その度にこんな列に並んでちゃあ、たまったもんじゃないからな。
だから冒険者専用の入り口が準備されてるんだ。
冒険者は皆、冒険者プレートをもっていて、まぁ身分証みたいなもんだな。
それを入り口で見せれば街に入れるって仕組みさ。
大きめの街なら大抵、冒険者専用の入り口があるはずだ。
ちなみに、冒険者は国を跨いで活動することもあるから、
国境にも同じ仕組みがあるみたいだぞ」
(冒険者プレートか…あると何かと便利そうだな…)
「なるほど。
ところで、その冒険者ってのは誰でもなれるのか?」
「あぁ、大きな街には大抵、冒険者ギルドがある。もちろんこの街にもあるぞ。
その冒険者ギルドで冒険者登録をすれば、冒険者になれるはずだ。
詳しいことまでは分からないから、もし興味があるんだったら
一度冒険者ギルドに行ってみるといい」
「分かった。そうするよ。
どうもありがとな。助かったよ」
「お安い御用だ。
それじゃあ2人とも、サザントリムを楽しんでくれ」
こうしてユイトとティナは、待ちに待ったサザントリムの中へと足を踏み入れた。