第4話
「ところでお主、その堅苦しい口調はやめよ。
なんだか距離を感じてしまうではないか。普段通りに話せ」
(……えっ?ほんとに……?)
「わ、分かりました。いや、分かった。こんな感じでいいのか?」
ギロリ
(ひっ…。ひょっとして駄目だった!?)
「がっはっはっは。やればできるではないか」
(あーもう…びっくりさせんなよ……寿命が縮むんだって)
「はぁ…。それで、なんでグレンドラはこんなところにいるんだ?
さっき数千年ぶりって言ってたよな?さすがに数千年って長過ぎだろ。
それにどうやってこの中に入ったんだ?
お前が入れそうな入り口なんてどこにも無かったぞ?」
「ふっふっふ。そうか…気になるか?やはり気になるか?」
ユイトの問いに、待ってましたと言わんばかりのグレンドラ。
話したくてうずうずしているのが良く分かる。
(めっちゃ話したそうだな…)
(やっぱいいや、って言ったらどうなるんだ、これ…?)
(……けどちょっと怖いからやめとこ)
「あぁ、すげー気になる」
「そうかそうか、ならばしょうがない。では教えてやろう」
グレンドラが嬉しそうに話し出す。
「今からおよそ5000年ほど前の話だ。
その頃、世界を揺るがす非常に大きな戦いがあった。
我はその戦いで一体の竜と戦った。それは壮絶な戦いであった。
だが結局、決着がつかぬまま、相手の竜はこの世界とは隔絶された世界へと封じられた。
……ちなみに、念のため言っておくぞ。
決着がつかなかったとは言ったが、奴が我と互角だったというわけではないぞ。
単なるタイミングの問題だ。
あのまま戦い続けていれば、我の勝利で幕を閉じておったわ。
がっはっはっは」
グレンドラはどや顔だ。
「……だが、さすがの我もその戦いで少々傷を負った。疲れも蓄積していた。
そこで、疲れを癒すため、この森の中央にてしばしの眠りについたのだ。
だが、我が寝ている数千年の間に大規模な地殻変動が起こってな。
我が目を覚ました時には、なんと、既にこの状況だったというわけだ。
どうだ?面白いであろう?がっはっはっはっは」
(この巨大なグレンドラと対等に戦える竜?隔絶された世界?)
(なんつーか怖いんだけど…)
突っ込みたいところだらけだが、まずは一言。
「いやー面白くはないな」
「………。そうかそうか、面白かったか。
そうであろう、そうであろう」
グレンドラを見るユイトの視線が、どことなく冷たい。
「まぁ、我のことはひとまずこの辺でよかろう。次は、お主の番だ」
長らく1人で籠っていて、相当退屈だったのだろう。
何か面白い話はないかと飢えている感じだ。
「時にお主、見た感じ、1人でここまで辿りつけるとは到底思えんが、なぜこんなところにいるのだ?」
戦士でもない。冒険者でもない。
”The普通”どストライクのユイトを見てグレンドラが尋ねる。
「まぁ、焦んなよ。順を追って説明するからさ。
それじゃあ、まずは自己紹介だな。
俺は如月ユイト、20歳、日本人だ」
「…日本人?”日本”とは種族名か何かなのか?」
「いや、”日本”ってのは国の名前だ」
「国だと?そんな国など聞いたことがないぞ。
この5000年でできた国なのか?」
(………。やっぱここは地球じゃないんだな……)
「いや、違うと思う。まぁ色々事情があってさ。
実は俺、………」
ユイトはグレンドラにこれまでの経緯の全てを話した。
地球という星の日本という国で暮らしていたこと。
気づくとこの世界にいたこと。
猛獣に襲われ命からがら逃げてきたこと。
崖から落ちて偶然この洞窟を見つけたこと。
「なるほどな。なぜお主がここにいるのか合点がいったわ。
ではその称号も、おそらくは世界を渡った際に与えられたのであろうな」
(What is "称号"?)
「おい、称号って何のことだ?」
「そうか……お主は称号も知らんのだな。
よいか?称号とは、ごく稀に、この世界に認められた者だけに与えられる”特別な能力”みたいなものだ。
お主はその称号を確かに持っておる。何の称号かまでは分らんがな」
(……えっ、まじで!?)
(世界に認められたって、実は俺、凄いんじゃないの!?)
「ちなみにだが、称号を与えられる際には、頭の中になにやら声が流れるらしいぞ」
「そうなのか?」
「お主、心当たりはないのか?」
「うーん、心当たりはないけどな…。
忘れてるだけなのかな?あん時は全然余裕なかったし…。
……ちょっと記憶を辿ってみるか」
転移前からの記憶をがんばって辿るユイト。
(えーっと確か、0時になったのを確認して、閉店の準備をしたんだよな)
(んでもって、閉店準備完了後に、コンビニの外に出て施錠)
(その後、家に帰るため振り向いた瞬間、視界がもやもやとぼやけ始めて……)
(そんで、いきなり視界に鬱蒼とした森が飛び込んできて………。あっ!)
何かを思い出したユイト。
「おい、グレンドラ!思い出した!
確かに『”理外の者”を獲得しました』って声を聞いたような気がする!」
「ほう、”理外の者”か。
この世界とは異なる世界から来たお主ならではの称号ではないか」
「んっ?”ならでは”ってのは、どういう意味だ?」
「お主がいた世界は、おそらくこの世界とはルールが違うのだろう。
この世界とは異なるルールの中で生きてきたお主は、この世界にとっては、ルールの枠に収まらぬ者。
つまり"理外の者"というわけだ」
(なるほど……この世界の理の外っていう訳か……)
「ルールは次元ごとに異なると言われておってな。
お主がいた世界は、おそらくこの世界とは異なる次元に存在するのだろう」
なにやら急に話が難しくなってきた。