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第38話

ナイチの村を出発したユイトとティナ。

2人は、サザントリムをめざして南へと進んでいく。


しかしその道中、ティナの口数がいつもより少ない。

どうやらティナは、村のみんなと別れた寂しさをまだ引きずっているようだ。


ティナにとってナイチの村人たちは、自分を受け入れてくれた特別な存在。

久しく忘れていた、人との温かな繋がりを思い出させてくれた大切な人たち。

そんな彼らとの別れは、ティナにとって本当に辛いものだった。


ユイトはそんなティナの気持ちをよく理解していた。


「…なぁティナ。道中また修行しようか。修行すればきっと気も紛れる。

 それに修行して色んなことできるようになれば、

 もっと多くの人たちを助けれる。だから……な?」


「…うん。そうだね……そうだよね。

 私、頑張るって決めたんだった。ごめんね、ユイトさん」


パンッパンッ


ティナが両手で頬をたたき気合を入れる。


「もう大丈夫。ユイトさん、これからも修行よろしくお願いします!」

「あぁ、もちろんだ。じゃあこれからも一緒に頑張ろうな!」

「はいっ!」


先ほどまでとは違うティナの表情にユイトも一安心。


「よーし、じゃあ早速だけどこれからの修行について説明するぞ?」

「はい!」


「よし。じゃあまずは魔法だ。

 魔法に関しては、ティナはすでに基本的なことは全て身につけてる。

 後は”使える魔法の種類を増やす”ことと、”魔力密度をコントロールする”

 ことぐらいだな。


 もう分かってると思うけど、魔法はイメージが重要だ。

 だから魔法の種類を増やすには、イメージトレーニングをするのが効果的だ。


 けど、魔法は色々あるからな。

 そんなこと言われても何から覚えていけばいいか迷っちゃうよな。

 そこで俺のおすすめなんだけど、やっぱ早めに覚えておいた方がいいのは

 治癒魔法と感知魔法だな。


 治癒魔法は人助けに直結するし、感知魔法を使えれば不意打ちされる

 危険性が格段に低くなる。練度を上げれば、かなり広い範囲を感知できるし、

 魔獣や獣、人の区別もできる。

 大規模魔法を使うときに、辺りに人がいないか確認するときにも便利だしな」


「…治癒魔法と感知魔法だね。うん、分かった」


「よし。…じゃあ次は、魔力密度のコントロールについてだな。

 まずそもそもの話だけど、魔力には濃さがあるんだ。

 同じ量の魔力を使った魔法でも、魔力密度が高い方が威力が出る。


 じゃあ、その魔力密度はどうやって決まるかっていうと、

 それは魔素濃度に依存する。

 つまり、魔法の威力を上げるためには、魔力変換前の魔素濃度を

 高くしてやればいいんだ。


 おそらく今のティナは、取り込んだ魔素をそのまま魔力に変換している

 だけだと思う。

 けどそうじゃなくて、魔素を取り込んだ後、

 それを一旦圧縮してから魔力に変換するようにするんだ。

 そうすれば魔力密度が高くなり、魔法の威力を上げることができる。


 まぁ、話を聞くより、実際に見た方が違いが分かるよな。

 ちょっと見てろよティナ」


そう言うとユイトは立ち止まり、近くの木の方に体を向けた。


「じゃあまずは、取り込んだ魔素をそのまま使用した場合だ」


ユイトが右腕を上げ、近くに木に向けて水魔法を放つ。

勢いよく放たれたその小さな水球は、木の幹に当たると勢いよく割れて激しく飛び散った。


「じゃあ次は、取り込んだ魔素を圧縮した場合だ。

 ちなみに使用する魔力の量はさっきと同じだからな」


ユイトは右腕を上げると先ほどと同様、近くの木に向けて水魔法を放った。

先の水球と同じ軌跡を描き飛んでいく小さな水球。

しかし……


バキッバキッバキッ


的にした木だけでなく、その後ろにある木までもが激しく弾け飛ぶ。


「す、凄い……」


「違いが分かったか?これが魔力密度の差による威力の違いだな。

 まぁすぐにはいらない技術だけど、将来的にはできるようになった方がいい。

 通常の魔法では倒せないような強敵に出会ったり、

 通常の治癒魔法では治せないような傷を負うこともあるかもしんないからな。


 ちなみに今話した”魔法の種類を増やすトレーニング”も

 ”魔力密度をコントロールするトレーニング”も、

 今のティナなら1人でできる。だから時間を見つけて地道に訓練してほしい」


「うん、分かった。

 でもそれじゃあ、これからユイトさんとはどんな修行をするの?」


「それはだな…、魔法を使わない戦い方の修行だ」

「…えっ?」

ティナの口から思わず声が出る。


「ははは。驚いたか?そりゃあずっと魔法の修行してきたもんな。

 理由は後で話すけど、まずはどんな修行をするかだけ先に言っとくな。


 これからやる修行は、具体的には3つある。

 1つ目は、”気”の扱い方の修行だ。”気”についてまた後でな。

 2つ目は、剣術の修行。

 そして3つ目が、体術の修行だ。


 じゃあ、何で魔法を使わない戦い方の修行をするのか、

 まずはその理由からだな。


 確かに魔法は便利だ。敵が多い時はなおさらだな。

 けど、状況によっては魔法が使えないことがあるんだ。


 例えば、魔素濃度が低い場合だ。

 知ってのとおり、魔法を使うためには魔素が必ず必要になる。

 だけど、大気中に漂う魔素の濃度は一定じゃない。

 場所によっては魔素がほとんどないところがあるんだ。

 魔素がある場所でも、大量に魔法を行使すると魔素が枯渇する場合がある。

 そうなってしまっては、魔法しか使えないと為す術がない。


 じゃあ魔素があれば大丈夫かと言うと、実はそういう訳でもない。

 例えば、敵味方が入り混じっての戦いとかだな。

 下手に魔法で攻撃すると、味方まで傷つけてしまう可能性がある。

 間違っても大規模魔法なんて使えない。

 俺が森でティナを狼から助けた時も、魔法じゃなくて剣だったろ?

 こんな風に魔法が使えない状況ってのが結構あるんだ」


「確かに…。今ユイトさんに言われて初めて気づいた。

 私、これまで魔法が使えれば大丈夫だって思ってた。

 でも、それだけじゃダメなんだね」

「そうだな」


 相変わらずティナの理解が早くて助かるユイト。


「ここまでが、”魔法を使わない戦い方”を身につけなきゃならない理由だな。


 じゃあ次は1つ目の修業、”気”についてだ。

 ”気”ってやつは、”魔法を使わない戦い方”すべての基本になる部分だ。

 だから、剣術、体術の修行より前に、まずは”気”の扱い方の修行をする。


 じゃあここでティナにちょっと質問だ。

 ティナは普段、身体強化魔法で身体能力を向上させてるだろ?

 じゃあ魔法を使えない人は、身体能力を上げることができないと思うか?」


「うーん、どうだろう…。

 でもお父さん魔法使えなかったけど凄く強かったから、

 きっとできるんだと思う。違うかな?」


「いや、合ってるぞ。ティナが言うとおり、

 魔法を使えない人でも身体能力を向上させることができる。

 じゃあ、どうやって身体能力を向上させるのか?

 そこで登場するのが”気”だ。


 "気"っていうのは体内にあるエネルギーみたいなもんだ。

 この"気"を身体強化魔法と同じように、体の隅々まで行き渡らせることで

 身体能力を向上させることができる。


 身体強化魔法との違いと言えば、発動継続時間だな。

 身体強化魔法は、外部から魔素を取り込み続ければずっと発動できる。

 けど、"気"による身体強化はずっとは発動し続けれない。

 体内にある”気”の量には限界があるからな。当然あるだけしか使えない。

 だから"気"による身体強化は、常時使うんじゃなくて、

 必要な時のみ使うって感じだな」


「なるほど…それが”気”…。うん、大体分かった。

 …それでユイトさん。

 その"気"による身体強化って、身体強化魔法と同時に使えるの?」


「良い質問だな。答えはYes、同時に発動可能だ。

 同時に発動すれば、それこそびっくりするぐらい身体能力が上がるぞ。


 ちなみに少し話は逸れるけど、"気"を自在に扱えるようになれば、

 触れているものを"気"で覆うことができる。

 例えば握った剣を"気"で覆えば、切れ味が増したり、

 その”気”を飛ばしたりすることもできる。


 前にカタルカの町を襲った劣等竜ワイバーンがいただろ?

 あの時俺は、剣で遠く離れた劣等竜ワイバーンを斬った。

 あれは、剣に纏わせた”気”を飛ばしたんだ。

 ”気”の扱い方を訓練すれば、いずれティナも同じことができるようになる。

 …どうだ、ティナ。"気"の修行、やりたくなってきただろ?」


「うん!早くやってみたいっ!」


「よし、それじゃあ修行方法を説明するぞ。

 ティナはもう身体強化魔法を使えるから、ポイントは1つだけだ。


 それは”気”を感じ取ること。

 それさえできれば、あとは身体強化魔法と同じだ。

 感じ取った”気”を、身体強化魔法を発動する時と同じ要領で

 体中に行き渡らせればいい。


 けど、この"気"を感じ取るってのが結構大変なんだよな。

 感覚を掴むまで苦労するかもしれない。俺もめちゃくちゃ苦労したからな」


「ユイトさんでも?」


「あぁ、ほんと苦労した。

 だからコツって程でもないけど、一応俺が訓練した時のやり方を伝えとくな。


 まず、人は普段、力を入れようと思った所に無意識に”気”を集めてるんだ。

 右手に力を入れたら右手付近に、左手に力を入れたら左手付近にってな。

 だから俺は、体の内側に意識を集中させつつ、力を入れる場所を

 手、足、腹と色々変えていったんだ。


 しばらくの間はほんと全く分かんなかった。

 けど、ある時、何かが体の中を移動していくのを感じた。

 それからはあっという間だったけどな。

 だからティナも最初は苦労すると思うけど、諦めずに頑張るんだぞ!」


「うん!私、頑張るね!」


こうして、ティナの新たな修行が始まった。

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