第34話
村人たちの言葉を聞いたユイトとティナが、笑みを浮かべ相槌を打つ。
「ありがとな、みんな。
それじゃあ今から、俺とティナが考えた改善計画を説明するよ。
まずこの村は、水と食料が圧倒的に足りない。
だから最初にそこに手を打ちたい。
そのために俺たちが考えた対策は3つある。
まず1つ目の対策だけど、川からこの村まで水を引こうと思う」
このユイトの言葉に、村人たちから思わず声が上がる。
「川から水を引くって、この辺りには川が無いんだ。
そんなことがほんとにできるのか?」
これまで何度も考え、諦めてきた故の言葉だろう。
「それについては後で説明するよ。もう少し待っててくれ」
「…すまない、話を遮っちまった」
「いや、大丈夫だ。
じゃあ次は2つ目。2つ目の対策は農地の拡大だ。
川から水を引ければ、色々な農作物を育てれるようになる。
けど、今の農地の広さじゃ、十分な食料を得るには少し心許ない。
だから農地をもっと拡げたいんだ。
今後住人が増えた時のことも考えて、今の3倍ぐらいには拡げたい。
そして3つ目。3つ目の対策は、村を囲う防壁づくりだ。
せっかく農作物ができても獣に荒らされてしまっては意味がない。
それを防ぐために防壁を作る。
今言った3つの対策をきちんと打てれば、格段に生活しやすくなるはずだ。
けど、そんなこと言ってもほんとにできるのか?って、
きっとみんな思ってると思う。
だから1つみんなに見てもらいたいことがあるんだ。
これを見ればきっとみんなも、俺が言ったことが夢物語じゃないって
分かってくれると思う。
…じゃあティナ、頼めるか?」
「はい」
返事をするとすぐに、近くの手入れされていない荒地に向かっていくティナ。
「一体、何をするんだ…?」
村人たちが不思議そうな顔で見つめる中、荒地へと到着したティナ。
するとティナは、すぐに周囲の魔素を集め始めた。
ティナの周りにどんどんと集まってくる魔素。
その魔素はティナに吸い込まれたのち、即座に魔力へと変換されティナの両腕に宿っていく。
「じゃあ、みなさん。見ててください!」
”地壁”
”地掘”
その直後、荒地から突如、土壁がせり出し、固い地面には溝が出来上がった。
「な、何だっ!?一体何が起こったんだっ!?」
「…ひょ、ひょっとして今のは魔法なのか?」
目の前で起こった突然の出来事に、村人たちからは一様に驚きの声が上がる。
「そう。今みんなに見てもらったのは魔法だ。
さっき話した3つ対策、”水を引く”、”農地拡大”、”防壁づくり”、
その全てに役立つ魔法だ。
この魔法とみんなの協力があれば、必ずさっき話した対策は実現できる。
どうかな、みんな。夢物語じゃないって分かってもらえたか?」
「あぁ、もちろんだ!こんな凄ぇもん見せられちゃあ信じるしかねぇ」
「嬢ちゃん凄いな!びっくりしたぞっ!」
「よーし、やってやるぞー!俺たちの村を作り変えるんだー!」
期待した通り、ティナが見せた土魔法のおかげで村人たちの不安は一掃。
ユイトとティナの顔から笑みがこぼれる。
「ちなみにだけど、他にも考えたことがいくつかあるんだ。
それは後の楽しみにしててくれ。
あと、しばらくの間は食事も俺の方で何とかするから、
みんなは食事の心配なんかせず、さっき言ったことに注力してくれ」
ユイトのその言葉が、村人たちの心に残っていたわずかな不安も消し飛ばした。
久々に目にする、やる気に満ちた村人たちの顔。
「ユイト殿、ティナ殿。
本当に何から何まで申し訳ない。何とお礼を言ったらよいか…」
「ナーハルさん。気にしないでくれ。
さっきティナが言ったように、これは俺たちがやりたいことなんだ。
だからナーハルさんや村のみんなが気にすることなんて何もない。
村の改善が終わった後、みんなの笑顔が見れればそれで十分だからさ」
「…ユイト殿、ティナ殿、かたじけない。心より感謝申し上げる。
何か必要なことがあれば遠慮なく言ってくだされ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
思いがけず始まった今回の改善計画。
だがせっかくの機会。この機会をぜひティナの成長にもつなげたい。
そこでユイトは、魔法を使う作業の大部分をティナにお願いすることにした。
非常に大掛かりな作業になるため、数え切れないくらいの魔法を行使することになるだろう。
それをティナに任せることで、魔法の規模や発動速度など、魔法熟練度を上げるのが目的だ。
そして目的はもう1つ。
(これも、うまくいくといいんだけど…)
「ところで、俺たちは具体的に何をすればいいんだ?」
村人の1人がユイトに問いかける。
「あーそうだよな。
じゃあ、これからの進め方と手伝ってもらいたいことについて説明するよ。
まず川から水を引く作業だけど、これは俺とティナに任せてくれ。
みんなには村の中の水路づくりをお願いしたい。
さっきも言ったけど、農地を拡げる予定だからな。
新しく農地になる所まで水が行き渡るように水路をつくって欲しい。
次に農地を拡げる作業と防壁をつくる作業だけど、
これも基本的には俺とティナで対応する。
ただ、みんなにお願いしたいことが2つある。ちょっとしたことだけどな。
1つは、新たな農地をどこにつくるか考えること。
そしてもう1つは、防壁をつくる場所、
つまりどこまでを村の敷地とするかを考えること。
さっき農地を今の3倍ぐらいにしたいって言ったけど、農地以外の場所も
3倍ぐらいに拡げたいんだ。その拡げた場所をちょっと使いたくてさ。
だからそれを踏まえて、どこまでを村の敷地とするかを考えて欲しい。
まぁこれは急ぎじゃないから、俺たちが川から水を引くまでの間に
考えてもらえれば十分だ。
ここまでが、さっき話した3つの対策について、
みんなに手伝ってもらいたいことだ。
…あと、3つの対策とは関係ないんだけど、
もう1つみんなに手伝ってもらいたいことがある。
それは木材の調達だ。森で木を伐採してこの村まで運んできて欲しい。
ちょっと使いたいことがあってさ。
大量に必要だから数は気にせず、ひたすら伐採してほしい。
みんなに手伝ってもらいたいことは以上かな。何か質問はあるか?」
「いや、よく分かった。大丈夫だ」
「よし。じゃあ、おさらいするぞ。
みんなにお願いしたい主な作業は、水路づくりと木材調達の2つだ。
誰がどっちを担当するかみんなで決めてくれ。
力仕事が難しい人もいると思うから、無理はしないでくれ。
怪我でもしたら大変だからな。
それじゃあ俺はちょっと向こうで作業してるから、決まったら教えてくれ」
「あぁ、分かった」
早速、村人たちは作業分担についての相談を開始。
その間、ユイトはというと村の井戸の水量復活を試みようとしていた。
川から水を引けたとしても、上流で雨が降ったらきっと濁ってしまう。
それに、川から水を引くまでの間も水は必要だ。
「…ここか。どれどれ」
井戸をのぞき込むユイトとティナ。
そこまで深くない穴の底にわずかに水が見える。
「少ししかないね」
「そうだな…。掘ったら出てくんのかな?」
そういうとユイトは土魔法で井戸の底を少しだけ掘り下げてみる。
だが、水が増える気配は全くない。
「もう少し掘ってみるか…」
さらに掘り下げてみると、少しだけ水が湧き出してきた。
「おっ!」
さらに掘り下げるユイト。
すると水が勢いよく湧きだし、枯れそうになっていた井戸が満たされていく。
「すごい!」
「よし、これで井戸の方は大丈夫だな!」
ちょうどその時、狙ったかのようなタイミングで村人たちから声がかかった。
どうやら水路づくりと木材調達の担当が決まったようだ。
話を聞いてみると、どちらの作業も力仕事ということで、村の若い男たち11人が担当することに。
水路づくり担当は5人で、まとめ役は几帳面な性格のノックス。
木材調達担当は6人で、まとめ役は村一番の力持ちのマドック。確かに村の中で一番ガタイがいい。
皆、準備万端。
その顔はやる気に満ちている。
「よーし。じゃあ、みんなーっ、始めるぞーーーっ!!」
「おぉーーーっ!!」
ナイチの村、改造計画が始まった。