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第33話

村長邸を出たユイトとティナは村の端まで移動。

村人たちに配慮し、目立たない場所に簡易宿を設置することにした。


その後、簡易宿の中に入ったユイトは、村のことについて色々考えた。


村人全員に行き渡るだけの食料は提供した。

だが、それも結局はその場しのぎ。明日になればまた苦しい生活が待っている。

根本を解決しなければ何も変わらない。


(…やっぱそうだよな。放っとくわけにはいかないよな…)


すると、そんなことを考えるユイトにティナが話しかけてきた。


「ユイトさん、お願いがあるの。

 私、ナイチの村を何とかしてあげたい。

 ユイトさんのおかげで、少しだけど魔法も使えるようになった。

 こんな私でも何かできることがあると思うの。

 サザントリムに行くのが遅くなっちゃうけど、ユイトさん、お願いします」


ユイトに頭を下げるティナ。


(そっか…。ティナも同じこと考えてたんだな…)


「またティナに先を越されちゃったな」

「…じゃあ?」

「あぁ。俺とティナでナイチをとびっきり住みやすい村にしてやろうぜ!」

「やったー!ありがとう、ユイトさん!!」


その日、ユイトとティナは今後のことについて夜遅くまで話し合った。

どうすれば住みやすい村になるか、どうすれば村のみんなが喜ぶか。

かなりの時間話し込んだが、みんなの喜ぶ姿を想像しながらの議論は楽しかった。


そして翌日。


「よーし、まずはナーハルさんのところに行くか!」

「うん!」


昨晩2人で考えたアイデアをひっさげ、早速、ナーハルの元へと赴くユイトとティナ。

そして、早朝の来訪に驚くナーハルに対し、2人はナイチの村の改善に力を貸したいと申し出た。


その突然の申し出に、再び驚くナーハル。

ナーハルからしてみれば、2人はたまたま村に立ち寄っただけの単なる旅人。

驚くのも無理はない。

しかしナーハルは、真剣に想いを口にするユイトとティナを前に、恐縮しつつも快くそれを受け入れた。


その後ユイトはすぐに、村のみんなを集めてもらうようナーハルに依頼。

もちろん改善計画の説明と協力のお願いをするためだ。


それからほどなくして、村の広場に続々と集まってくる村人たち。

しかしまだ、全員は揃わない。

ユイトとティナはナーハルの横で村人たちが全員揃うのを静かに待った。


そして数分後、ようやく村人全員が広場に集結。

全員揃ったのを確認したナーハルが村人たちに向け話し出した。


「皆に集まってもらったのは、ここにいるユイト殿とティナ殿の話を

 聞いてもらうためじゃ。

 じゃがその前に、昨日、皆に渡した食料じゃが、

 あれを提供してくださったのが、このユイト殿とティナ殿じゃ」


まさかこんな少年少女が、あのような未知なる食料を提供してくれたとは微塵も思っていなかった村人たち。

村人たちは大いに驚き、そして次々と感謝の言葉を口にした。


その感謝の声に、顔を赤くして恥ずかしがるティナ。

おそらく、これまで人から感謝されるような経験があまりなかったのだろう。

だがこれも、これから多くの人々に感謝されるであろうティナにとってはいい経験だ。


その後、村人たちの声が落ち着いたところで、ナーハルがユイトに声をかける。

「では、ユイト殿」


ユイトはその声に頷くと、村人たちに向けて話し出した。


「今日はみんなにお願いがあるんだ。

 ぜひ、みんなにも協力してもらいたくて集まってもらった」


本当はこんな小さな村の改善など、ユイトとティナだけでも十分できる。

だが全てをユイトたちがやってしまっては、自分たちで苦難を乗り越えたという自信が得られない。

今後もひょっとしたら苦難に遭遇することもあるだろう。

そんな時、自分たちでもなんとかできるんだ、という自信を持ってもらいたい。

そんなユイトの想いから、今回は彼らにも協力してもらうことにした。


「協力?協力って何をすればいいんだ?

 あんたたちには食べ物をもらった恩もある。出来ることなら手伝うぞ」

「あぁ、俺もだ」

「私も手伝うよ」

村人たちは皆、口を揃えて協力を申し出る。


「ありがとな、みんな。

 じゃあ、まずは俺たちが何をしたいのかを説明するよ。

 …俺たちがしたいこと、それはこの村を住みやすい村に作り変えることなんだ」


「…えっ?この村を作り変える…?」

村人たちは皆、ユイトの言葉にいまいちピンと来ていない。


「あぁ、そうだ。昨日、ナーハルさんからこの村の状況について色々聞いた。

 そしてその後ティナと相談して、この村を住みやすい村に作り変えようって

 話になったんだ。

 俺とティナ、そしてみんなの協力があれば必ずできる。

 何をどうするかのアイデアもある。

 だから、みんなにもぜひ協力して欲しいんだ」


ユイトの言葉にざわつく村人たち。


「住みやすくするって……でも一体どうやって……」


やれることはやり尽くしてきた。

村人たちのその困惑ももっともだ。


と、その時、1人の村人が当然ともいえる質問をユイトに投げかけた。


「…なぁ、あんたたちは昨日、俺たちに食料をくれた。

 そして今度は村を住みやすくするって言ってくれてる。

 なんで旅人のあんたたちがここまでしてくれるんだ?

 俺たちはあんたたちに何かしてあげたわけじゃない。一体どうしてなんだ?」


他の村人たちも同じことを思っていたのだろう。

皆、その言葉にうんうんと頷いた。


すると、これまで恥ずかしがって一歩下がったところにいたティナが、一歩前に足を踏み出した。

そして困惑する村人たちに向け、真剣な表情で話し出した。


「私は少し前まで、みなさんと同じでした。

 何の希望も抱けない、絶望の底にいました。

 本当に辛かった。本当に苦しかった。生きるのを諦めかけた時もありました。


 だから私には、みなさんの苦しさが分かります。

 何とかしたい。だけど、どうすることもできない。

 そんな皆さんの苦しさが痛いほど分かります。


 私もその苦しさから抜け出そうと必死に頑張りました。必死にもがきました。

 でも駄目だった。どんなに頑張っても何も変わらなかった。


 だけど私は幸運にも、その絶望の底から掬い上げてくれた人がいました。

 だから今度は私が、絶望の底にいるみなさんの力になりたいのっ!!」


年端も行かない少女が発した想いを乗せた言葉。

その言葉は村人たちの心の奥底へと届いた。


「…今ティナが言ったこと、

 それが、俺たちがこの村を作り変えたいって言った理由だ。

 どうかな、みんな。協力してもらえないか?」


先ほどのティナの言葉を聞き、村人たちの表情が明らかに変わった。

そして…


「あぁ、もちろんだ。協力させてくれ!」

「そうだ。俺たちの手で、この村を住み良い村に作り変えるんだ!!」


それは、苦しみにあえぐ村人たちの心に希望の灯がともった瞬間だった。

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