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第32話

ユイトとティナが、カタルカを出発してからおよそ1か月。


「ねぇ、ユイトさん。もうすぐナイチに着くのかな?」

「そうだな。もうそろそろナイチの村が見えてくると思う。

 ティナも何かに気づいたら教えてくれな」

「うん。分かった!」


そして、それから数時間が経った頃、ティナがはるか前方に何かを発見。


「ユイトさん、ずっと先に何か見えてきたよ」

「んっ?どこだ?」

「ほら、あそこだよ」

指をさしてティナが教える。


「おっ、ほんとだ!あれがナイチか?」


辺りをきょろきょろと見渡してみるが、他には何も見あたらない。


「つーことは、きっとあそこがナイチだな」

「やっと着くんだね!じゃあユイトさん、急ごうよ!」


はるか前方に姿を現した1つの村。

その村めざして、ユイトとティナが進んでいく。


そしてその日の夕方。

ようやく村の姿かたちが見えるところまで近づいた時。


「…えっ?」


そこでユイトとティナが目にしたのは、予想もしていない光景だった。

至る所が壊れた柵、荒れ果てた土地、そして今にも崩れそうな家々。


「ユイトさん…ここって、ほんとにナイチなの?」

「…正直、俺も驚いてるんだ。これじゃまるで廃村だ…」

「…どうしよう?」

「………。とりあえず入ってみるか…」


そこが本当にナイチなのかを確かめるべく、ユイトとティナはその荒れ果てた地へ足を踏み入れる。


「…確かに人の気配はするな」


2人はそのまま静まり返った村の中を進んでいく。

そして村の入り口からだいぶ奥へと進んだ頃。


「あっ!人だ!」

少し奥に行ったところに人がいるのをティナが発見。


「ねぇ、ユイトさん。あの人に話を聞いてみようよ」

「そうだな」


発見した村人の元へと駆け寄るユイトとティナ。

そこに居たのは、疲れ切った表情を浮かべる瘦せ細った女性だった。

ユイトはすぐにその女性に、本当にここがナイチなのかを尋ねてみた。


「突然すまない。

 ちょっと聞きたいんだけど…、ここってナイチの村で合ってるか?」

「あぁ、ここはナイチだよ」


その言葉に顔を見合わせるユイトとティナ。


「あんたたち若そうだけど、旅人さんかい?」

「あぁ。カタルカからサザントリムに向かってる途中なんだ。

 ここら辺にナイチの村があるって聞いて立ち寄ってみたんだ」

「そうかい。せっかく来てもらったのに、この村は見ての通り何もなくてね。

 何のおもてなしもできそうにない。すまないね」


「いやいや、そんなこと気にしないでくれ。

 それより、村長さんの家を教えてもらえないか?

 今日はこの村に泊まらせてもらおうと思っててさ。

 一言挨拶に行きたいんだ」


「そうかい。勝手に泊まってっても誰も何も言わないのに律儀だねぇ。

 ほら、ちょっと先に行ったところに少し大きな建物があるのが分かるかい?

 あそこが村長ナーハルさんの住んでる家だよ」


「あれか…。

 分かった、ありがとう。助かったよ」


女性にお礼を言うと、すぐに村長ナーハルの家へと向かったユイトとティナ。


「やっぱり、ナイチで合ってたな」

「うん…」

「けどこんな貧しい村だなんて、服屋の親父さん一言も言ってなかったけどな」

「何かあったのかな?」

「かもな。挨拶ついでに村長さんに聞いてみるか…」


コンコンコン

村長ナーハルの家に着いたユイトが、家の扉をノックする。


「誰じゃ?」


しばらくすると、家の中から年老いた男性が顔を出した。

いかにも村長といった風貌。ユイトの村長像そのものだ。


「俺たち旅をしてるんだけど、今日はこの村に泊まらせてもらいたくて

 挨拶に来たんだ」


「ほぉ、それはそれはご丁寧に。

 何もない村じゃが、ゆっくりしていってくだされ。

 さぁ、こんなところで立ち話もなんじゃ。中に入りなされ」


ナーハルに促され、家の中へと入るユイトとティナ。

そこで2人が目にしたのは、とても村長の家とは思えぬほど極めて質素な空間だった。


「………」


「さぁさ、お疲れじゃろ?座りなされ」


ナーハルに促されるままユイトとティナが腰を下ろす。

そして腰を下ろすとすぐに、ユイトは村の悲惨な状況の理由についてナーハルに聞いてみた。


そんなユイトの問いに、少しだけ迷いの表情を浮かべるナーハル。

そしてそのまま少し考えた後、ナーハルが静かに話し出した。


「…こんなことは旅のお人に話すことではないのかもしれんがのぉ。

 昔はこの村も豊かとは言えないまでも、皆不自由なく暮らし、

 そこらから笑い声が聞こえてきておった。


 しかし今から数年前、領主がラーゴルド伯爵に代わってから

 状況が変わり始めてのぉ。


 領主が代わった途端、それまであったこの村への援助が徐々に減っていき、

 今では全くなくなってしまった。

 逆に税金はどんどん増えていき、自分たちの生活をギリギリまで

 切り詰めざるを得なくなったんじゃ」


(ここもあのクソ領主の領地なのか…)


「それだけでも十分過ぎるほど辛かったんじゃが、不運なことが重なってのぉ。

 ここ2、3年ほど、極端に雨が少なく農作物が育たんのじゃ。

 川から水を引ければよいんじゃが、残念なことにこの近くに川が無くてのぉ。

 井戸もあるにはあるが、その水も年々少なくなり、今では住人の飲み水を

 確保するのがやっとじゃ。

 とてもじゃないが、農作物の方に回せんのじゃ。


 そんな苦しい生活を続ける中、儂たちは偶然、水が少なくても育つ

 ”モックル”という作物があることを知った。

 皆すぐに、これまで作ってきた作物の代わりにモックルを育て始めた。

 本当に育つか最初は不安じゃったが、モックルは順調に育っていった。


 だが不運は重なるもんじゃ。今度は獣の群れが村を襲ったんじゃ。

 収穫間近のモックルは獣たちに荒らされ、柵や皆の家も破壊された。

 それからというもの、味をしめたのか、度々獣の襲撃があってのぉ。

 村の皆は希望を踏みにじられ、疲れ果ててしまった。


 皆どこか別の地に移りたいと思っておる。

 しかし、他の地に移るための伝手も無ければ、お金もない。

 皆、この村に留まる以外、他にどうすることもできんのじゃ。


 皆、懸命に頑張ってくれてはおるが、状況は悪くなる一方でのぉ。

 この2年だけで、飢えや獣の襲撃で10人近くの村人が命を落とした。

 もはや皆の精神はギリギリじゃ。

 それを知っていても何もしてやれんことが情けなくてのぉ。

 …すまんな。暗い話になってしまって」


「いや、謝らないでくれ。教えてくれと言ったのはこっちなんだ。

 こっちこそ、辛い話をさせてしまって済まない…」


「………。ねぇ、ユイトさん。お願いがあるの」

ずっと黙って話を聞いていたティナが真剣な表情でユイトに話しかける。


「旅の途中で食べさせてくれた食べ物、みんなに分けてあげれないかな?

 私のじゃないのに、こんなこと言っちゃだめって分かってる。

 でも今も、みんなお腹を空かして辛い思いをしてると思うの。

 私強くなって、いつか絶対に返すから。…ダメ?」


そんなティナにユイトは笑顔で答える。


「ダメなもんか。俺もティナと同じこと思ってた。

 …でもいいのか?また今度食べたいって言ってたろ?」


その問いにティナは首を横に振る。

「いいの。そんなの全然いいの」

「…そっか」


すぐにユイトがナーハルに向かって話し出す。


「ナーハルさん、今晩この村に泊めさせてもらうお礼がしたいんだ。

 俺たちが持ってる食料をお礼として渡したいんだけど、それでも大丈夫か?」

「それは大変ありがたい申し出じゃが、

 お2人の食料が無くなってしまうのではないか?

 見たところ、そこまでの荷物をお持ちには見えんしのぉ」


「あぁ、それはまったく気にしないでくれ。

 ちなみに村人は何人ぐらいいるんだ?」

「今は、大人から子供まで合わせて30人とちょっとくらいかのぉ」


(30人ちょっとか…)

(だったらひとまず、おにぎり、サンドイッチ、パンで足りそうだな)


「ナーハルさん。これから食料を出すけど、驚かないでくれ。

 ちょっと不思議な光景だと思うから先に言っとくよ」


その直後、何もない空間から突如として現れる、大量のおにぎり、サンドイッチ、そして菓子パンたち。


「なっ、なんとっ!?一体どこから!?」

事前忠告の甲斐なく、目を丸くして驚くナーハル。


「今のは俺の魔法だから、そんな気にしないでくれ。

 そんなことより、これぐらいあれば村のみんなに行き渡ると思う。

 出来ればこれを村のみんなに配ってほしいんだけど、頼めるかな?」


「もちろんじゃとも。

 じゃが本当にこんなにももらってしまって大丈夫なんじゃろうか?」


「あぁ、気にしないでくれ。

 ちなみにだけど、この周りの透明な袋は食べれないんだ。

 これからナーハルさんに食べ方を教えるから、これを配るついでに

 村のみんなにも食べ方を教えてやってくれ」


「承知した」


そしてユイトはすぐに、ナーハルへの食べ方レクチャー会を実施。

レクチャーを終えると、後はナーハルに託して、ユイトとティナは村長邸を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貧困の村に食料を出すのは良いが [気になる点] コンビニの在庫を出すのは後々に騒動の種をばらまく事になる、この世界には無いビニールが残ればそれの出所を探す者が出る。 [一言] 取った獲物…
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