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第31話

そして、ティナの修行が始まってから2週間が経過。

その頃には、大量の魔素を取り込み、そしてそれを魔力として放出できる経路がティナの体に備わっていた。


「ティナ、よく頑張ったな。経路拡大の訓練はひとまずこれで卒業だ。

 今日からは、魔力を魔法として使うための訓練に入るぞ!」

「ほんとにっ!?やったーっ!」


地道な訓練が続いていたこともあり、ここ最近では一番の喜びようだ。


「ははは、嬉しそうだな。じゃあ、早速説明に入るけど、いいか?」

「はい!」


「よし。…ところでさティナ。

 前に、魔力を魔法として使うには2種類の方法があるって話しただろ?

 覚えてるか?」


「えっと…、体の外に放出する魔法と、体の中で使う魔法のこと?」


「そうそう。体の外に放出する魔法ってのは、

 俺がカタルカで魔獣に放ったみたいなやつのことだな。

 そして体の中で使う魔法ってのは、自分自身を強化する魔法だ。

 いわゆる身体強化魔法ってやつだな。

 力とか頑丈さとかあらゆる身体能力が向上するんだ」


「…身体強化魔法…初めて聞いた」


「…で、ここからはあくまで俺の考えだけど、この2種類の魔法だったら、

 先に身体強化魔法を覚えた方が良い。

 これまでの経験から導き出した俺なりの答えってやつだな。


 放出系魔法は、発動するまでに少なからず時間が必要になる。

 どんな魔法にするのか考える時間、魔素を取り込み魔力に変換する時間、

 魔法をイメージする時間とかな。

 けど敵は、強ければ強いほど、そんな時間は与えてくれない。

 つまり、どれだけ強力な放出系魔法を使えたとしても、強い敵が相手だと

 その魔法がまったく役に立たない可能性が出てくる。


 だけど、もし身体強化魔法を使えれば、放出系魔法発動に必要な時間を

 確保し易くなる。それこそ雲泥の差だ。

 それに身体強化しておけば、不意打ちとかにも対応し易くなる。


 これが放出系魔法より身体強化魔法を先に覚えた方が良いと言った理由だな。

 なんとなくでもいいけど、伝わったか?」


「うん、大丈夫。よく分かったよ。

 私も今のユイトさんの話聞いて、身体強化魔法を先に覚えたいって思った」


「じゃあ決まりだな。

 ちなみにだけど、俺は今話した身体強化魔法を常に使ってるんだ。

 使ってるって言っても、特に意識はしてないんだけどな。

 なんて言えばいいかな…うーん…

 普段さ、息をするのって特に意識してないだろ?

 それと同じで、無意識で常にその魔法が発動し続けてるって感じだな。

 ティナも、最終的にはそこまでいってもらうからな」


「うん、分かった!」


「じゃあ、早速、身体強化魔法について説明していくぞ。


 まず、俺たちの体を構成する細胞には、魔力によって力を発揮する機能が

 備わってる。

 けどその細胞たちは、普段は普通の細胞の働きしかしていない。

 つまりは本来持つ力を出し切れていない状態だな。


 だけどその普通の働きしかしていない細胞に魔力を与えてやると、

 身体能力を向上させるエネルギーを生み出してくれる。

 分かりやすく言うと、普段はお腹が減って力が出ない状態で、

 魔力を与えるとお腹が膨れてがんばれるって感じだな。

 ここまではいいか?」


「うん」


「ただ、細胞に魔力を与えると言っても、実はそんな簡単なことじゃない。

 これまでの訓練みたいに、魔力経路にただ魔力を流すだけじゃダメなんだ。


 身体強化魔法を発動するためには、魔力を細胞の隅々まで

 行き渡らせる必要がある。

 けど、この”魔力を細胞の隅々まで行き渡らせる”ってのが中々大変なんだ。

 ま、コツを掴むまでの話だけどな。

 一旦コツを掴んじゃえば、あとはこっちのもんだ。

 癖になるまで繰り返し訓練するだけだからな。


 つーことで、身体強化魔法っていうのは、コツを掴むまでが勝負だ。

 アドバイスはしてやれると思うけど、最後は自分でその感覚を掴むしかない。

 自分との勝負ってやつだな。

 説明は以上だけど、何か分かんないことあるか?」


「ううん、大丈夫。まずは自分でがんばってみる!

 だって自分との勝負だもんね!」

「そうだな。じゃあ、がんばるんだぞ!応援してるからな!」

「うん!」


その後ティナは早速、身体強化魔法習得に向け修行を開始。

魔力を細胞の隅々にまで行き渡らせようと、日々試行錯誤を繰り返した。


そしてティナが修行を開始してから数日が経過。

あれこれ試してはいるものの、中々コツを掴めない。

珍しく苦戦しているようだ。


「ユイトさん…、中々うまくいかない…。

 どうしたらいいんだろう?…私、魔法の才能ないのかなぁ…」

疲れとも相まって、少し落ち込むティナ。


「うーん、そんなことないと思うけどな。

 ちなみにティナは今どんな風にやろうとしてたんだ?」


「えっと、体の隅々に行き渡るように、力を込めて”エイ”って感じだよ」

(エイって…、これはなんともかわいいんだけど…)


「なるほど…。多分あれだな。

 おそらくだけど、ティナに足りてないのはイメージだな」

「イメージ?」

キョトンとするティナ。


「そうだ。魔力を体の隅々まで行き渡らせるイメージだ。

 分かりやすいように木を例にして話すぞ。


 木には幹があって、幹から枝が生えていて、

 枝からはさらに細かい枝が生えて、その先に葉っぱがつく。


 これまで訓練してきた魔力放出経路は、木で言うと幹の部分だ。

 そして今回魔力を届けるべき細胞は、木で言うと葉っぱに相当する。

 今ティナがやってる方法だと、勢いよく幹に魔力が流れるだけで、

 葉っぱまで魔力は届かない。


 だからただ力を込めるんじゃなく、幹から枝へ、枝から細かい枝へ、

 といったように外に魔力を拡げるイメージが必要になる。

 ゆっくりでもいい。

 途中に道があればそこも魔力で満たしていくといった感覚が重要なんだ。

 なんとなく分かったか?」


「うん、すっごく良く分かった!

 ユイトさんの話聞いたら、なんかできそうな気がしてきた。

 ありがとう、ユイトさん!」


そう言うとティナはすぐに訓練を再開。


そしてしばらくすると、突然ティナが声をあげた。


「…あっ」


「どうした?」

「今、なんか少しだけど、いつもと違う感じがしたの。

 それに体がいつもより軽い気がする」


どうやら、早速コツを掴み始めたようだ。


ここからは早かった。

この3日後には、ティナはほぼ完璧に体の隅々まで魔力を行き渡らせることに成功していた。


「凄い…。なんだか自分の体じゃないみたい…」


もう完璧にコツを掴んだようだ。

ここから先は極めて単純。

癖がつくまで、ひたすら身体強化魔法を使い続けるだけだ。

歩行中も食事中も会話中も常に身体強化魔法を使い続ける。

そうすればやがて、全く意識しなくても身体強化魔法を発動し続けている状態になるはずだ。


「つーわけで、これからは常に身体強化魔法を使い続けるんだぞ?」

「はい!」

「よし。じゃあ、次の訓練に移るか」


次はいよいよティナお待ちかね、待ちに待った放出系魔法の訓練だ。

ユイトたちがカタルカの町を出発してから、すでに3週間ほどが経過した。

あと1週間もすればナイチの村に着くだろう。

それまでに、できれば放出系魔法を1つは習得しておきたい。


「何にすっかな……まぁ、最初だしな。最初はやっぱあれだよな」


放出系魔法は色々あるが、今回ユイトが選んだ魔法は土魔法。

ではなぜ、土魔法を選んだのか?

その理由は2つある。


1つは、氷や炎のように無から魔法を形成するよりも、すでに存在するものを利用した方が最初は断然やり易いからだ。

そしてもう1つの理由。

それは、ティナはユイトが土魔法を使うのを何回も見ているからだ。

つまり、ティナにとって土魔法はイメージし易い魔法というわけだ。


そんなユイトの目論見は見事に的中。

最初こそ埴輪のようなモコモコしたものしか創り出せなかったティナだったが、その後、見る見る成長。

ナイチの村に着く頃には小さめのドームや土壁を生成できるようになっていた。

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