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第30話

翌朝。


簡易宿に設けられた空気穴から明るい光が差し込んでくる。

今日も天気が良さそうだ。


目が覚めたユイトは昨日着ていた衣類を持ち、ティナを起こさないよう、そーっと簡易宿の外に出た。


「さてと、洗濯でもしますか」


外は雲一つない晴天。まさに絶好の洗濯日和。

(ま、外に干すわけじゃないけどね)


「じゃあ、まずはあれだな」


早速ユイトは、巨大なシャボン玉のようなものを魔力で創り出し、その中に衣類を勢いよく投げ込んだ。


「次は水を入れてと」

今度は水魔法を発動。透明な球体の中がどんどん水で満たされていく。


「ふんふんふふふん♪」

ユイトの鼻歌。なんの曲なのか全く分からない。


水がある程度溜まったところで、今度は球体に向け風魔法を発動。

すると、球体の中で衣類がぐるぐると回り出す。

そう、あっという間に簡易洗濯機の完成だ。


地球の洗濯機と同じように、途中何度か水を入れ替える。

そうこうしているうちに、目が覚めたティナが簡易宿から顔を出す。


「おはよう、ユイトさん」

「おはよう、ティナ。よく眠れたか?」

「うん!お布団で寝たのなんて久しぶりだから、気持ちよくて寝すぎちゃった!」

「そりゃあ良かった。作った甲斐があったってもんだ」


そう言うユイトのすぐ横には、見たこともない不思議な球体。

ティナは、不思議そうな顔でそれを眺める。


「…ユイトさん、それってひょっとして洗濯してるの?」

「あぁ、そうだぞ。俺の世界にあった洗濯機って道具を魔法で真似てみたんだ」

「へぇ、面白い…」

「洗濯終わったら朝飯にするから、もう少し待っててくれ」

「うん!」


「じゃあ、さっさと終わらせますか」


濯ぎが終わると、排水して軽く脱水。

あとは温風ブロアでくまなく乾燥させて、あっという間に出来上がり。


その後すぐにユイトは朝食を準備し、ティナとともに軽めの朝食。

朝食を済ませた2人は、パパパっと身支度を整え、簡易宿の外に出た。


「ねぇユイトさん。この建物はどうするの?」

「そうだな…いつもなら壊して土に還すんだけど、せっかく布団も作ったしな。

 …じゃあ、このまま持ってくか」


「…えっ!?持ってくの!?」

「あぁ、簡単だぞ。ほらよっと」


異空間に吸い込まれていく簡易宿。


「使う時は、今入れたのを出すだけだ。な?簡単だろ?」


目の前で起きた非常識に口をパクパクさせるティナ。

どうやら、こんなに大きいものまで収納できるとは思っていなかったようだ。


「じゃ、行くか!」

「…は、はい」


こうしてナイチへと向かう旅、2日目がスタート。


今日も昨日と同様、特に何事もなく順調だ。

ただティナは、朝から何やら考え事をしているようだ。


そして出発してから、しばらくして…


「…ねぇ、ユイトさん」

「んっ?どうした?」

「昨日、ユイトさんがいた世界には魔法がないって言ってたでしょ?

 あと、ユイトさんはごく普通の一般人だったって」

「あぁ、そうだけど。それがどうかしたのか?」


「…でも私が知ってるユイトさんは、魔法が使えて、もの凄く強い…」

「まぁ、頑張って鍛えたからな」


「私もなりたい…私もユイトさんみたいに強くなりたい。

 守られるだけなのは嫌。私も強くなってみんなを守りたい。

 お願いします、ユイトさん!私に魔法を教えてください!!」


ティナの目は真剣だ。本当に強くなりたいのだろう。


(…そっか。朝からこのこと考えてたんだな)

(ま、いずれは教えようと思ってたし、いい機会かもしんないな…)


「分かった。ティナの夢を叶えるためには、魔法は必要だろうしな」

「ほんとっ!?」

「あぁ。でも俺の修業は厳しいぞ?」

「うん。それでも私頑張る。絶対に強くなってみせる!」


(しかし、魔獣見てちびりそうになってた俺が、人に教えるなんてな…)

(世の中、分かんないもんだな……)


「それじゃあユイトさん、よろしくお願いします!!」

「あぁ、分かった。

 でも修行に入る前に、まずはちゃんと魔法のことを理解しておかないとな」


「魔法の理解?」

「そうだ。魔法のことを知ってるのと知らないのとでは、

 習得スピードが全然違うからな。だから、魔法の修行はその後だ」

「うん、分かった!」


とは言うものの、立ち止まって説明するのも、なんだか時間がもったいない。

ということで、ユイトは歩きながらティナに魔法について説明していった。

魔素、魔力、魔法、魔素取込経路、魔力変換、魔力放出経路…。

そう、ユイトがグレンドラから教わったこと、その全てを。


ティナに伝えた内容は結構な量になる。中には小難しい話もある。

ユイトは、まだ子供のティナがちゃんとその内容を理解できるか少し不安だった。


しかしその不安は、杞憂に終わった。

ティナは魔法をきちんと理解し、さらには、難なく魔素感知までできるようになった。

実は想像するよりも、はるかに凄い子なのかもしれない。

ユイトはこの時、そう思った。


そして、昼食後の休憩時間。


「ティナ。これからは休憩時間も利用して、魔法の修業をしていこうと思う。

 まぁ修行って言っても、最初の内は”魔素取込経路”と

 ”魔力放出経路”の拡大だけどな」


「経路の拡大?」


「そうだ。さっき”魔素取込経路”と”魔力放出経路”については話しただろ?

 この2つがしっかりしてないと魔法は使えない。


 これまで魔法を使ってこなかった人はさ、

 大抵、"魔素取込口"と"魔力放出口"が閉じてるんだ。


 さらに普段使ってない経路は、細くなっちゃってる。

 これじゃあ魔法は使えない。

 だからまずは、"魔素取込口"と"魔力放出口"を開放し、

 その後、細くなったそれぞれの経路を拡大してやるんだ」


「なるほど…。

 ちなみに、その経路拡大ってどうやるの?」


「最初のうちは、俺が外部から魔素と魔力を送り込んで

 強制的に経路を拡げる。

 ただ、一気に拡大させると経路が傷んじゃうから、

 何日かかけてゆっくりとな。

 そしてその後は、自分で日々訓練だ」


「うん、分かった。

 …それでユイトさん、

 その"魔素取込経路の拡大"と"魔力放出経路の拡大"って同時にやるの?」

「いや、同時にはやらない。まずは”魔力放出経路”からだ」

「”魔力放出経路”から……あっ、そっか」


ティナが何やら気づいたようだ。


「先に出口側の道をつくっておかないと、中に溜まって破裂しちゃうからだね」


(こ、これは、なんつー賢さ…。あれだけでそこに辿り着くか…)

(いつか、「そんなことも分からないの?」と言われる日が来るかもしれん…)


そしてこの日から、魔法を使うための下地『魔素取込&魔力放出』習得に向けた、ティナの修行が始まった。


…ちなみに、この修行の中で分かったことが1つある。

魔法の素質の中でもっとも重要であり、鍛えることのできない”魔力変換能力”。

驚いたことにティナの”魔力変換能力”は極めて高かった。

いずれ、ティナはもの凄い魔法使いになるかもしれない。

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