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第3話

ユイトが飛び込んだ岩穴の中。

そこは、なぜだかほんのり明るかった。

どうやら周りの壁がわずかに光っているようだ。


外が薄暗かったこともあり、すぐに洞窟内の暗さに目が慣れた。

広いというわけではないが、人が立って歩く分には何の問題もなさそうだ。

耳を澄ましてみるも、洞窟の奥からは特に何も聞こえてこない。


「……ここには何もいないのか?」


洞窟の入り口はかなり狭い。

先ほどのような猛獣も入ってこれないだろう。

その状況にユイトの頬が自然と緩む。

(ここって安全地帯なんじゃないのか!?)


「ひゃっほーーーっ!!!」


ようやく見つけた安全地帯。

先ほどの絶望感と相まってテンションMAX、ユイトが1人で小躍りをし始める。

そしてしばらく踊ったのち、ユイトが正気を取り戻す。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……、疲れた……ふぅぅぅ」

ひんやりとした地面に寝転がる。


「………。

 ……でもやっぱ、もっとちゃんと調べなきゃだめだよな」


そう。まだ完全にこの洞窟が安全と決まったわけではない。

道は、まだ奥へと続いている。

果たして、どれだけ深いのか?本当に何もいないのか?

まだまだ分からないことだらけだ。

完全な安心を得るためには、洞窟の探索は避けては通れない。


「……さてと、怖いけどいっちょ行くかー」


ぐぅ~


ユイトのお腹の音が洞窟内に響く。

少し安心したせいか、お腹が減ってきた。


「そういや、まだ夕飯食べてなかったな…。

 せっかくだし、ここで食べてくか」


地面に腰を下ろしたユイトは、コンビニから持ってきたおにぎりをリュックから取り出した。

これまでの苦難の道のりを物語るかのように、見事に原形を留めていない。

だが、そんなことは気にしない。お腹に入ってしまえば同じこと。


「では、いただきまーす」

いびつな形のおにぎりを勢いよく頬張る。

「うーん、旨い!!おにぎりってこんなに旨かったんだな」


まさにサバイバル。

そんな状況下で食べるおにぎりは、普段では味わうことのできない格別な味だった。


「さてと。腹も膨れたし、今度こそ行くか」


おにぎりを食べ終わったユイトは、もう一度気合いを入れ直し、洞窟の奥に向けて出発。

奥に進むにつれ、目がさらに慣れてきたのか明るさが増してくる。

今のところ、まだ何とも出会わない。


あれから1時間ほど歩いただろうか。

急にユイトの目の前に広い空間が現れた。かなりの広さだ。

そこはこれまでの場所よりも更に明るい。

洞窟の中なのに、薄暗かった森よりも明るいぐらいだ。

そしてその空間の前方には、きらりと光る何かがある。


「…んっ?何だあれ?」


ユイトがその光るものへと近づいてみると、なんとそれは地底湖。


「ぃよっしゃー!」


ユイト渾身のガッツポーズ。

歓喜の声が洞窟内に響き渡る。

と、その時。


「ほぅ、これは珍しい。人間か」


突然、ユイトの耳に誰かの声が聞こえてきた。

一気に血の気が引くユイト。一瞬にして体がこわばる。

恐る恐るあたりを見渡してみるも、岩や洞窟の壁だけで誰もいない。


「ふぅ……空耳か……」

ユイトは、ほっと胸をなでおろす。


「こっちだ。上を見ろ」


再び、ユイトの耳に届く声。


「ひっ……」

その声にビクつき、体全体に力が入る。


そしてユイトは聞こえた声に従い、恐る恐る上を向く。

と、次の瞬間、ユイトの頭の中は恐怖の二文字で埋め尽くされた。

あまりの衝撃に心臓が止まりそうになるユイト。

いや、実際数秒止まっていただろう。


ユイトが見上げた先。

なんとそこにいたのは、先ほどの熊や虎の怪物たちが羽虫と思えるほどの巨大なドラゴン。


「ひぃぃぃぃぃ……」


恐怖のあまり尻もちをつくユイト。

(に、逃げないと……とにかくここから逃げないと……)


ユイトは尻もちをつきながら、まるで蜘蛛のように後ずさる。

まるで何かの映画のようだ。


「がっはっはっは。そう怖がるでない。何も取って食おうとはせん。

 数千年ぶりの来客だ。少し話をしようではないか」

陽気に話しかけるドラゴン。


「……ド、ド、ドラゴンが喋ってる!?

 ……夢か?夢なのか?…そうだ、今度こそ夢に違いない」


「がっはっはっはっは。夢ではないぞ。

 …それよりお主、そろそろ、その面白い動きを止めたらどうだ。

 話が出来ぬではないか」


予期せぬ話し相手の出現に余程嬉しかったのだろうか。

ドラゴンはそわそわして落ち着かない。

その様子を見る限り、どうやら危害を加える気はなさそうだ。


(だ、大丈夫なのか……)


恐怖のあまり気づかなかったが、蜘蛛移動で腕も足もパンパンだ。

どうせ逃げ切ることも不可能。

ユイトは覚悟を決め、奇妙な動作を止めることにした。


「ようやく止まったか。これで話ができる。

 どれ、まずは我から自己紹介をしてやろう」


そう言うと、ドラゴンは意気揚々と話し始めた。

「我は偉大なる古代竜だ」


………。しーん。沈黙が続く。

(……えっ?以上?)


清々しいほどに、新しい情報がない。

(どうする?どうしたらいいんだ?)

(発動すべきなのか…?俺のコミュニケーション能力を…)


「……えーと、お名前は?」

「我に名などないぞ」


………。しーん。

(お、俺のコミュニケーション能力が通用しない……)


「で、では、どうやってお呼びすれば……?」

必死に話を繋げようとがんばるユイト。


「うーむ、これまで名など無くとも困ることはなかったからな。

 そうだな……、ではお主が我の名を考えよ」

「……はい?」


ドラゴンから突然宿題が降ってきた。

まさかドラゴンから宿題が降ってくる日が来ようとは。


これまでペットすら飼ったことのないユイトにとって名付けなど未経験。

これはかなりの難題だ。


(どうする……何か考えないと……)

ユイトは焦る気持ちを抑えながら頭をフル回転。


("偉大な古代竜"を英語にしたらどうなんだ?)

(”グレート エンシェント ドラゴン”。……長い。面白くもない)

(じゃあ、単語の前半だけ使ったらどうだ?)

(”グレ エン ドラ”。うーん……)

いまいち、しっくりこない。


(もう少しなんだよな…。もう1文字どこか削ってみるか…)

(”グレンドラ”。おっ、なんかいい感じじゃない?ちょっとかっこいいし)


「それでは、”グレンドラ”という名はどうでしょうか?」

「”グレンドラ”……。おぉ、中々いい響きではないか!

 気に入ったぞ!今後、我のことはグレンドラと呼ぶがいい!」


どうやら気に入ってもらえたようだ。


「ふぅぅぅー」


無事、宿題の提出完了。ユイトはほっと胸をなでおろした。

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