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第29話

夕飯の後片付けを終えたユイトは、本日の簡易宿の準備に取り掛かる。


「…この辺でいいかな」


ユイトはぽつりとそうつぶやくと、両手を地面につけ、大地に魔力を注ぎ込み始めた。

するとその直後、魔力を注がれた土はまるで生き物のように動き出し、

一瞬の内にドーム状の建物を形成。


「あとは空気穴と出入り口を作ってと…。

 …よし、完成だ。

 うん、大きさもいい感じだな」


目の前であっという間に出来上がった簡易宿。

その光景に、ティナは口を開けてポカンとした表情。


「じゃあ、次は中だな」


簡易宿の中に入ったユイトは、電灯代わりに魔法で光球を創り出す。

明る過ぎず、暗過ぎずいい感じだ。


次はお風呂づくり。やはりお風呂には毎日入りたい。

ユイトは慣れた手つきで、ぱぱぱっとお風呂を作成。温かいお湯からは湯気が立ち上る。

そして最後に、お風呂と部屋を分ける衝立(土壁)を作ると即席一軒家の完成だ。


ここで一旦、ユイトが簡易宿の外に出る。


「ティナ、風呂の準備できたぞー!先に入りな」

「………。えっ!?お風呂っ!?」

「そうだぞ」


「お、お風呂って、偉い人やお金持ちの人しか入れないっていう、

 あのお風呂のこと!?」

「それはよく分かんないけど、あったかいお湯に浸かるやつだな。

 まぁ、とりあえず入ってこいよ。

 洗い場もあるから、体洗う時はそっちでな。お湯はこれですくってくれ」


そう言って、ユイトは木で作った桶をティナへと手渡す。


「町の人にもらった服も置いといたからな。

 風呂から出たらそれに着替えるんだぞ」


まさかまさかのお風呂の登場。

思いもよらないお風呂に、またしてもポカンとした表情を浮かべるティナ。


「おっと、そうだそうだ。

 せっかくだからこれ使ってくれ」


ユイトが異空間から取り出したのは地球ではおなじみ、

リンスinシャンプーとボディーソープ。


「この黄色の容器は髪を洗うやつ、白い容器の方は体を洗うやつだ。

 上に飛び出た部分を押すと先端から液体が出てくるから、それで洗うんだ」


使い方の説明しながら、ティナが抱える木の桶にリンスinシャンプーとボディーソープを置くユイト。


「衝立あるけど声は聞こえるから、分かんないことあったら聞いてくれ」

「…は、はい。…じゃ、じゃあ、入ってくるね」


ちょっぴり動揺するティナが、桶を抱えて簡易宿の中へと入っていく。


「それじゃあ俺は、ティナが風呂入ってる間に布団の準備でもしとくかな」


再び簡易宿の中へと戻ったユイトが、風呂の反対側スペースに昼間乾燥させた草を敷き詰める。せっかくなので盛り盛りだ。

そしてその上に、カタルカの町人たちからもらった大きめの布をきれいに被せる。

これで、あっという間になんちゃって布団の完成だ。


(うん、これは中々いい感じ。ティナの反応が楽しみだ)


ティナの反応と言えば、先ほどから「わっ!?わっ!?わっ!?」という声が衝立の向こうから頻繁に聞こえてくる。

おそらく地球の洗礼を浴びているのだろう。

コンビニで売っているシャンプー1つとっても、この世界にとってはオーバーテクノロジー。驚くのも無理はない。


それからしばらくして、ティナが風呂から上がってきた。

そして一言。


「凄かった……」


(はい。期待を裏切らないその反応。ありがとうございます)


「ティナ、布団準備しといたから休んでてくれ。

 俺も風呂入ってくるからさ」


ユイトは念のため建物の入り口を閉じて、風呂へと向かう。


ザブーンッ


「ふぅ、気っ持ちいい♪やっぱ日本人にはお風呂だな♪」


ゆっくりとお風呂を満喫し、部屋に戻ったユイト。

すると、まだティナが起きていた。


「まだ起きてたんだな」

「うん。

 …ユイトさん。このお布団…気持ちいいね。地面で寝るのとは全然違う。


 …このお布団もだけど、今日はほんとにびっくりすることだらけだった。

 まさかこんな日が来るなんて夢にも思わなかった。

 今でもちょっと信じられないくらい……。


 …でも…夢じゃないんだよね?

 本当のことなんだよね?覚めたりなんかしないよね?」


不安そうな表情を浮かべるティナ。


「大丈夫だ、ティナ。夢なんかじゃない。

 全部ほんとのことだ。覚めたりなんかしない」


「…うれしい…うれしいよ…。うれしいよ、ユイトさん……」


これまで置かれていた境遇とは比べようもないくらい満たされた環境。

目の前にあるその現実に、ティナは胸が一杯になり泣き始めた。

ユイトはそんなティナの頭を優しく撫でる。


「…本当にありがとう…ユイトさん」

「気にすんな。俺が好きでやってるだけだからさ。な?」


しばらくして、少し落ち着きを取り戻したティナ。


「少し落ち着いたか?」

「うん。…ごめんなさい。なんかすごくうれしくて。

 うれし過ぎて我慢できなくなっちゃって…」

「大丈夫。気にすんな」


それからしばらくの間、ユイトはティナの気を紛らわせるため、地球のことについて色々と話してあげた。

電車や飛行機、テレビにパソコン、そしてタブレットやスマートフォン。

そんな地球の話が功を奏したのか、徐々にいつものティナへと戻っていった。


「…やっぱりユイトさんがいた世界って凄いんだね。

 それじゃあ、ユイトさんがカタルカの町を救ってくれた時に使ったあの魔法。

 あの白色?銀色?の魔法もユイトさんの世界の魔法なの?」

「いや違う違う。俺がいた世界には、魔法ってもんがそもそもないんだ」

「…えっ?」


おそらくティナは、地球はこの世界のすべてを網羅し、その全てにおいて、この世界のはるか上を行く世界だと思っていたのだろう。


「ははは。驚いたか?

 でも冗談じゃなくて、俺がいた世界には本当に魔法がないんだ。

 だからあの時俺が使った魔法は、俺がいた世界の魔法なんかじゃない。

 …けど全く関係ないってわけでもないけどな」

「???」


「あの魔法はさ、俺の世界にある”氷”ってものをイメージして作ったんだ。

 つまり、”この世界”と”俺がいた世界”をかけ合わせて作った

 俺のオリジナルの魔法ってわけだな」


「氷?」

「そう、氷だ。氷ってのはさ、水をうんっと冷やすと出来るんだ」


すると突然、異空間からコップを取り出し、そこに水を注ぎ始めたユイト。


「よし。ティナ、ちょっと見てろよ。

 ここに水があるだろ?これからこの周りをうんっと冷やすからな」


そう言うとユイトは、水の入ったコップの周りを氷魔法で冷やし始めた。


パキパキパキッ

見る見る水が凍っていく。


「…す、凄い…固まっちゃった。これが氷?」

「そう、それが氷さ」

「…触ってみてもいい?」

「いいぞ。ただ、すごく冷たいから、きっとびっくりするぞ」


恐る恐るコップの中の氷に触れるティナ。


「わっ!ほんとだっ!すっごく冷たいっ!」

「だろ?俺があの時カタルカで使った魔法は、その氷よりも、

 もっともっと冷たい、全ての動きが止まるくらい冷たくした魔法なんだ」


「動きが止まるくらい…冷たい魔法……」


「そうだ。

 …そういえばさ、ティナは雪も見たことないんだろ?」

「雪?」

「そう、雪だ。さすがに雨は知ってるよな?

 空気が冷えるとさ、雨が雪ってのに変わるんだ。

 せっかくだし見てみるか?」

「うん!」

「よし。でもこの中じゃちょっとできないから、外に出よう」


早速、簡易宿の外に出たユイトとティナ。

するとユイトはまず、少し離れた場所に水魔法で雨を降らし始めた。


月が照らす中、しとしとと降る優しい雨。


「じゃあ、ティナ。

 これからあの周りをうんっと冷やすからな。よく見てろよ」


そう言うとユイトは雨の降る空間の周りだけを急速に冷却。

雨は見る見る雪へと変わっていく。


「…凄い……あれが雪?」

「そうだ。あれが雪だ。白くてきれいだろ?」

「うん…すごくきれい…」


「俺のいた世界じゃさ、寒くなると雪が降るんだ。

 もちろん場所にもよるけど、たくさん降ったときなんて、

 辺り一面真っ白になってすっごくきれいだぞ」


「…いいなぁ、私も見てみたい」

「連れてけるもんなら、ティナにも見せてやりたいんだけどな。

 ま、できないもんはしょうがないな。

 …よしっ。じゃあそろそろ中に戻るか」


「…もう少しだけ見てていい?」

「あぁ、いいぞ」


ゆらゆらと空から舞い落ちる真っ白な雪。

ティナは、その幻想的な光景をしばらくの間眺めていた。


「…ごめんなさい。すごくきれいで見惚れちゃった」

「いや、大丈夫だ。じゃあ中に入ろう」

「うん」


簡易宿の中に入り、入り口を閉じると、ユイトはホットミルクを作りティナへ差し出した。


「少し冷えたろ?ほら。あったまるぞ。

 体冷えてると良く眠れないからな」


ティナはユイトからホットミルクを受け取ると、ゆっくりと口へと持って行く。

「あったかい…」


そしてホットミルクを飲み終えると、ティナは瞬く間に眠りに落ちた。

その寝顔はまるで天使のようだった。

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