第27話
お腹も膨れ、かすかな眠気が訪れる。
だがその眠気も、ティナの質問により、すぐに吹き飛ぶことになる。
「ねぇユイトさん。
ユイトさんはずっと森の中で暮らしてたって言ってたでしょ?
どうして森の中に住んでたの?」
いつかは聞かれると思っていたその質問。
だがユイトは、その答えをまだ準備してはいなかった。
本当のことを言うべきかユイトは迷った。
本当のことを言ったとしても信じてもらえるかどうか分からない。
あまりに荒唐無稽、何を言っているのだと気味悪がられるかもしれない。
けれども自分を信じて付いてきてくれたティナに嘘はつきたくない。
真っすぐ接してくれるティナに、自分は真っすぐ向き合いたい。
ユイトはそう思った。
そして…
「…ティナ。俺が森で暮らしてた理由…絶対に驚くと思う。
信じてもらえないかもしれない。…でも聞いてくれ」
急にユイトが見せた真剣な表情。
その表情にティナは無言で頷いた。
「…実はさ…俺、…この世界の人間じゃないんだ。
こことは別の世界からやってきたんだ」
「…えっ?」
「…そりゃ、驚くよな。逆の立場だったら俺も絶対に驚くもんな。
………。続けても…いいか?」
ティナは小さく頷く。
「俺はさ、こことは別の世界、
”地球”っていう星にある”日本”って国に住んでたんだ。
家族は俺以外に、両親と兄貴。
実家は定食屋をやっていた。まぁ、いわゆる食堂だな。
俺は実家の定食屋を継ぐために昼は料理の学校に通ってた。
夜はお金を稼ぐため、コンビニ…って言っても分かんないか…
えーっと、雑貨屋で働いてた。
それでさ、雑貨屋の仕事が終わって家に帰ろうとした時、
いきなり目の前が揺らぎだしたんだ。
そしてその揺らぎが収まって、気づいた時にはもうこの世界にいた。
…で、俺がいたその場所ってのが、
獰猛な魔獣が跋扈する大森林の中心だったってわけさ。
当然、ごく普通の一般人だった俺に魔獣なんて倒せない。
俺は必死に逃げた。
けどそんな中、奇跡的な出会いがあった。
俺は偶然、その森の中で古代竜に会ったんだ。
その後、俺は古代竜から生きる術を色々と教わった。
そして3年間、森の中でそれを磨き続けた。
そうして生きる術を身に着けた俺は、大森林を抜けることを決意した。
この世界で生きる目的を探そうと思ってな。
で、大森林を無事抜けた俺は、その先にある森を彷徨ってた。
そしてそこで、俺はティナと出会ったんだ。
……これが俺がずっと森で暮らしてきた理由。
そしてこの世界のことを何も知らない理由なんだ」
「………」
想像すらできない、あまりに常識とかけ離れたユイトの話にティナは言葉を失った。
「…いきなりこんな話…信じられないよな。ははは」
ユイトは力なく笑った。
「ううん、そんなことないっ!」
ティナが真剣な表情で首を横に振る。
「信じる…私はユイトさんの言ったこと信じる!
確かにびっくりしたけど、私は私を救ってくれたユイトさんのこと信じてる!」
「………。ありがとな、ティナ」
そんなティナの言葉に救われるユイト。
「まぁそんなこんなで、これから俺はこの世界で生きていかなきゃなんない。
だからまずは、何も知らないこの世界のことを知りたかったんだ」
「ひょっとして…元の世界には…」
「…あぁ、もう戻れない」
「それじゃあ、家族にも…」
「そうだな。もう会えない。
一言ぐらい最後に何か言っときたかったけどな…」
少しだけ寂しそうな表情を見せるユイト。
ぎゅっ
「私がいるよっ。だからユイトさんは1人じゃないっ。
私はどこにも行かないっ!!」
愛する家族を突然失う悲しみを誰よりも知っているティナ。
自分の境遇と重ね、いてもたってもいられなかったのだろう。
だが、そんなティナの優しさがユイトは素直に嬉しかった。
「…ありがとな、ティナ。
でもほんとにもう大丈夫なんだ。だからティナもそんなに気にしないでくれ。
それに…この世界で生きる目的も、もう見つかったしな」
「目的?」
「あぁ。さっき、この世界で生きる目的を探すため大森林を出たって言ったろ?
でも、もう見つかったんだ。それも2つも」
ユイトがティナに笑顔を向ける。
「1つはティナを守ること」
「…私を?」
「あぁ、そうだ。なんたって俺はティナの守り手だからな。
…で、もう1つは、俺の手が届く範囲で困っている人たちを助けることだ」
「それって…私と…同じ?」
「そういうことになるな。
…きっとこの世界には、いろんな理由で苦しんでる人たちがいる。
その全てを救うなんて、きっと俺には無理だ。
けど、俺の手の届く人たちだけでも助けられたらいいなってな。
ティナを見ていてそう思ったんだ」
「ユイトさん…」
「ま、そんなわけで、同じ目的を持つ俺たちは仲間ってやつだな」
「仲間…?私がユイトさんの…?」
「そうだ。どんな時もお互いを信じ、助け合う仲間だ。
そんなわけだからさ、ティナ。これからもよろしく頼むな!」
そんなユイトの言葉に一気にティナの顔が明るくなる。
「はいっ!ユイトさん!」
「よしっ。じゃあ、そろそろ出発するか」
秘密と目的を共有し、晴れて”仲間”となったユイトとティナ。
2人は同じ夢を胸に、ナイチに向け再び歩き始めた。