第26話
「ねぇ、ユイトさん。まずはどこに向かうの?」
ともに出発はしたものの、まだ行き先を知らないティナ。
「…あっ、ごめん。そういや、まだ言ってなかったな。
最初はさ、東の方にある”ナイチ”って村に行こうと思うんだ」
ユイトが口にしたナイチの村。
そこは、レンチェスト王国が誇る大都市、サザントリムへの中継点。
サザントリムはナイチのはるか南方に位置しており、ナイチから延々と南下すればいずれ辿り着く。
これは、カタルカの服屋の親父さんから仕入れた情報だ。
「ナイチ?」
「そう、ナイチ。ティナはナイチのこと知らないのか?」
「うん。初めて聞いた」
「じゃあ、俺と同じだな。
ほんとはさ、サザントリムっていう大都市に行きたいんだけど、
そのサザントリムってとこが、めちゃくちゃ遠いらしくてさ。
だからまずは、その途中にあるナイチってとこに寄ろうと思ってな」
「なるほど…。
じゃあ、ナイチの次はそのサザントリムってところに行くの?」
「そうだな、そのつもりだ。
…そういえば、前にティナに言ったっけ?
俺さ、この世界のことまったく知らないんだよな。
だからまずは、この世界についてちゃんと知っておきたい。
サザントリムに行きたいってのもそういう理由なんだ。
大都市だったら色んな人がいる。色んな情報が手に入る。
きっとこの国だけじゃなく、他の国のこともさ」
「そっか…だからサザントリムに…」
「ま、そういうことだな。
けどそれはおいおいとして、まずはナイチだ。
よーし、ティナ。張り切ってナイチを目指すぞーっ!」
「はいっ!」
これから始まる新たな生活、これから踏み出す新たな世界に、ティナは大きく胸をふくらます。
と、その時、ティナが思い出したかのようにユイトに尋ねる。
「…あっ、そういえばユイトさん。
ナイチまでは、どれくらいかかるの?」
「んっ?どうだったかな…。服屋のおっちゃん、結構遠いって言ってたよな。
確か、歩きだと1か月ぐらいかかるって言ってたっけ」
「…えっ!?1か月!?」
想像以上に遠い道のりに、目を丸くして驚くティナ。
町から出たことのない少女がいきなり1か月の徒歩の旅。
しかも野宿ときたら、驚くなという方が無理である。
「はは。怖気づいたか?」
「う、ううん。そんなことない。大丈夫、私頑張る!」
「よし、その意気だ。けど無理はすんなよ。疲れたらちゃんと言うんだぞ?」
「はい!」
「じゃあ、時間もたっぷりあるし、のんびり行こう」
こうしてユイトとティナは、新たな世界に向けての第一歩を踏み出した。
………
カタルカの町を出発してから3時間。
今のところ至って順調だ。
きちんと整備された街道というわけではないが、予想していたよりも歩きやすい。
少なからず人の往来があるのだろう。人が通った後が道になっている。
ティナもこれまでの採集で鍛えられているのか、疲れた様子は特にない。
それどころか、初めて通る道や初めて見る景色に興味津々、なんだかとても楽しそうだ。
その年相応の反応を見て、ユイトは少し安心した。
こうやって、少しずつでも傷ついたティナの心が癒されていけばいいと心から思った。
それからさらに2時間ほどが経過。
そこで2人は初めての休憩をとることにした。
「ティナ、ここらで一旦休憩しよう」
「はい!」
「たくさん歩いたし、お腹減ったろ?」
そう言うとユイトは、早速、異空間から昼ご飯を取り出した。
その日の昼ご飯は、”森のほとり亭”で作ってもらった弁当だ。
(中身は何だろ?蓋を開けるのが楽しみだ)
気分はまるで小学生。遠足の弁当のようなワクワク感。
「じゃあ、ティナ。ご飯食べる前にちゃんと手を洗おうな」
「はい」
魔法で生成した水で、ごしごしきれいに手を洗う。
さぁ準備は万端。食事の時間だ。
「ほら、ティナのだぞ!」
2人で仲良く道端の石に腰を掛けると、ユイトはティナに弁当を手渡した。
ティナは目をキラキラさせながら嬉しそうに弁当を受け取ると、早速弁当の蓋を開けてみた。
「わぁっ!」
その瞬間、ティナの顔からとびっきりの笑顔がこぼれた。
「ユイトさんっ!見て見て!すっごくおいしそうだよっ!!」
ティナが満面の笑みでユイトに見せた弁当の中身は、サンドイッチと何品かのおかずたち。
お世辞にも豪華とは言えない、ごくごく普通の弁当だ。
だがそれは、間違いなくティナにとっては、これまでどれだけ願っても手の届かなかったご馳走だった。
「ほんとだな!たくさん食べろよ!」
「うん!」
嬉しそうな表情を浮かべ、おいしそうにサンドイッチを頬張るティナ。
あの今にも消えてしまいそうな顔をしていた少女が見せる、その幸せそうな表情に何だか胸が熱くなる。
「おいしいか?」
「うん!すごくおいしいよ!」
「足りなかったら言うんだぞ。他にも食べ物あるからな」
「うん!」
「…それじゃあ俺もいただくかな」
その後、2人して口いっぱいに弁当を頬張る。
あれよあれよと中身が減っていき、2人の弁当はあっという間に空っぽに。
その後はお待ちかねのデザートタイム。
ユイトが用意したのは、もちろん例の絶品果実。
そのおいしさに、ユイトとティナは再び感動。中々2人の手が止まらない。
2人の旅の記念すべき最初のご飯。
ユイトとティナは、ちょっぴり贅沢な昼ご飯を思う存分楽しんだ。
「ふぅ、食べた食べた。ティナもお腹膨れたか?」
「うん、お腹いっぱい!こんなに食べたのなんて久しぶり!」
「そりゃあ良かった。
これからは、いつでも腹いっぱい食べれるからな」
「うんっ!」
この3年間本当に辛かったのだろう。
ティナは本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「じゃあティナ。腹もいっぱいだし、少し休んでから出発しよう」
「はい!」




