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第25話

「……俺たち……助かったのか?」

「私たち……助かったの……?」


町の外で起こった一瞬の出来事に、呆然とする町人たち。

だがこの後すぐ見張り台の上から聞こえた、魔獣消滅の声に、町では一斉に歓喜の声が上がった。


「わぁーーーーーーっ!!」


………

そこは町の外側。


ユイトにしがみ付き泣き続けたティナが、ようやく落ち着きを取り戻した。


「……ごめんなさい。私……」

「大丈夫だ。なんも気にすんな」

ユイトがティナの頭を優しく撫でる。


「…ユイトさん、ありがとう……町を守ってくれて」

「それも気にすんな。なっ?」


その後ユイトは、ティナとともに町へと戻る。

するとそんなユイトのもとに、町人たちが集まってきた。


「あんた、ありがとう。ほんとに助かったよ」

口々にユイトに礼を言う町人たち。

だが、そんな町人たちに向けユイトが言い放つ。


「……あんたら、礼を言う相手が違うんじゃないか?

 あんたらが礼を言うべき相手はティナだ。

 俺は聖者でも何でもない。

 ティナがあんたらを守りたいと、この町を守りたいと願ったから

 守っただけだ。ただそれだけだ。

 あんたらは、ティナの両親と、そしてティナに2度命を救われたんだ」


「………」

ユイトのその言葉に町人たちは皆、目を伏せ、誰一人として口を開く者はいなかった。


そして、その数日後。


ユイトはティナとともにいる。

実はあの戦いの後、ティナはユイトにあるお願いをしていた。


……数日前。


「ユイトさん、お願いがあるの。

 どうか私もユイトさんの旅に連れていってください。

 私は弱いし、知識もない。私にできることなんて、ほとんど無いかもしれない。

 でも…それでも私は困っている人たちを助けたい。

 お父さんやお母さんみたいに…、ユイトさんみたいに、私も苦しんでる人たちを

 助けたいのっ!!」


真剣な眼差し。

その顔には強い決意が感じられる。

そんなティナの願いにユイトは笑顔で答えた。


「もちろんだ。だって俺はティナの守り手だからな。

 前にティナ、言ってたろ?

 お父さんとお母さんが俺を呼んでくれたんだって。だろ?」

「うんっ!」


そして、ユイトがカタルカに来て8日目。

その日はユイトとティナがカタルカを離れる日。


町を出発する前、ティナが少しだけ待って欲しいとユイトにお願い。

ティナは家によると、庭の土を掘り返し、そこから小さな木箱を取り出した。

大事そうに木箱を抱え、周りに着いた土をきれいに落とす。

そしてティナが木箱を開けると、中には綺麗なペンダントが入っていた。


「これはね、お母さんがすごく、すごく大切にしていたペンダントなの。

 冒険に出かけるときは、失くしたり傷ついたりするといけないからって、

 いつも外してた。

 お母さんが死んじゃったとき、これだけは絶対に取られたくないと思って

 隠してたの。

 旅にはこのペンダントも一緒に持って行くんだ!」


愛する母のペンダント。

きっとティナにとって、それは何物にも代え難い特別なもの。


「ティナ。悪いんだけど、そのペンダント、少しだけ貸してもらえるか?」

「うん。分かった」


ティナからペンダントを受け取ったユイトは、圧縮した魔力の薄膜でペンダントの表面を念入りに覆った。

これでもう、傷つくことはないだろう。


「ありがとな、ティナ。

 じゃあ、失くさないように、ちゃんと身に着けておくんだぞ!」

「うん!」


ユイトに向け笑顔を見せるティナ。

ティナが再び見せたその笑顔に、ユイトは”本当に良かった”と心からそう思った。


「よし、じゃあ行くか」

「はい!」


町の入口へと向かっていくユイトとティナ。

すると町の入口には、ティナを見送りに来た兵士と町人たちが待っていた。


ティナにどう声をかけたらいいか分からず戸惑う町人たち。

そんな中、あの日真実を語った兵士がティナに向け話しかけた。


「……少しで申し訳ないが、食料と衣類と日用品なんだ。

 持って行ってくれないか?

 こんなんじゃ、少しの罪滅ぼしにもならないことぐらい分かってるんだが…」


ティナはそんな兵士の言葉に首を横に振った。

そして笑顔で、


「ありがとうございます、みなさん。

 それでは、行ってきます」


最後にそう言い残し、少女はカタルカの町を後にした。

そんなティナの後ろ姿を眺める兵士と町人たち。


「………。

 私たちは…一体今までなんてことを……」


自分たちの手により、傷つき、悲しみ、苦しみ続けてきた少女。

その少女が最後に見せた優しい笑顔に、兵士と町人たちは涙を止めることができなかった。


【後日譚】

後日、領主の悪行を知った町人たちからの訴えにより、領主に対する国の調査が入った。

その調査により、3年前の一件が領主により引き起こされたものであることが

正式に判明。領主の悪行が白日の下に晒された。


それ以外にも次々と領主の不正が判明。

領主は捕らえられ、改易、犯罪奴隷落ちとなった。


そしてしばらくして、新たな領主が着任。

新領主が着任するとすぐ、町人たちは1つの嘆願書を領主に提出した。

町人たちの必死の訴えもあり、無事その嘆願は領主に受け入れられ、カタルカの町は"ティーナ"と名を変えた。


もちろんその名は、ティナからとったもの。

少女とその両親から受けた恩を決して忘れぬため、そして自らが犯した罪を決して忘れぬために。

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