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第24話

「……これが3年前の……あの時起こったことの真実だ」


ずっと信じてきた。愛する父と母を。

そして今、真実を知った。

大好きだった父と母への想いが溢れる。


「お父さん……お母さん……」

ティナの頬を涙が伝う。


「まさか……そんな……」

初めて知る真実に町人たちは皆、言葉を失う。


兵士は続ける。


「私はこの3年間、罪悪感に苛まれ続けた。


 町を救った英雄である少女の両親を貶め、英雄の子として報われるべき

 少女を皆で虐げ続けた。

 余りに理不尽……余りに不憫……。


 だが私は、我が身可愛さに何もできなかった。

 私がしたことは、とても許されることではない。

 許してもらえるとも思っていない。


 ただ…、真実を話したかった。

 真実をみんなに知ってもらいたかった。

 両親は誰よりも立派な人だったと…、この町を救った英雄なんだと、

 その子に伝えたかった」


兵士の言葉に辺りが静まり返る。


そんな中、威圧の効果が薄れてきた領主の声が響き渡る。

「えーい、貴様ぁーっ!何を言っておるのだーーーっ!

 そんなこと抜かしおって、どうなるか分かっておるのだろうなーーっ!!」


そんな救いようのない領主に、恐ろしいまでのユイトの視線が注がれる。

「ひ、ひぃぃぃ」


と、その時、町の見張り台の鐘がけたたましく鳴り響いた。


「ま、魔獣だーっ!魔獣の群れだーーっ!

 ……す、数百はいるぞーーーっ!!」


その声に辺りは騒然となった。

町人たちの頭にあの日の記憶が蘇る。そして瞬時に悟った。


「……もう…終わりだ……」


そんな中、領主は領主邸に向かって1人走り去っていく。


「……どうしようもないクズだな」

ユイトが切り捨てるように言い放つ。


3年間、隠され続けてきた真実。

そして突然の魔獣の襲来。

自身の腕の中で戸惑うティナにユイトが問いかける。


「ティナ。この町はティナを苦しめてきた。傷つけてきた。

 それでもこの町を守りたいか?」


そんなユイトの問いに、ティナは真っすぐユイトの目を見て答える。


「守りたい。

 私はこの町のみんなを守りたい。

 お父さんお母さんとの思い出が詰まったこの町を、

 お父さんとお母さんが命を懸けて守ったこの町を、私は守りたいっ!!!」

ティナの目から大粒の涙がこぼれる。


いわれなき罪で虐げ続けられてきた少女。

その少女が発した言葉が、町人の心に深く突き刺さる。


「分かった。任せろ」


ユイトはそう一言ティナに告げ、魔獣が向かってくる方へと歩き出した。

1人傷つき苦しみ続けてきたティナの願いを…その優しき願いを叶えるために。


町の前に広がる平原。

魔獣たちが向かってくるその平原に向け、感知魔法を使うユイト。

「手前に数百、さらに奥にでかいのが1つ…劣等竜ワイバーンか。

 手前の奴らは、劣等竜ワイバーンから逃げてきたってとこか…」


その時、突然ユイトが後ろを振り向いた。

そのユイトの目に映るのは、町の入口まで出てきたティナの姿。

きっと自分も町を守りたいのだろう。

愛する父と母がそうしたように。


「………。

 ……よし、やるか。まずは手前の魔獣どもだ」


町の近くまで迫ってきている魔獣の群れ。

町への影響を考えると、炎や爆発系の魔法は避けた方がいい。


「じゃあ、あれで行くか」


直後、辺り一帯の魔素が猛烈な勢いでユイトに収束。

その膨大な魔素は瞬時に魔力へと変換され、ユイトの右腕に宿っていく。

そして次の瞬間、超高密度の魔力を纏ったユイトの右腕から、凄まじい魔法が放たれた。


絶対凍結領域アイスエイジ


それは、ティナにとって一生忘れられない光景となった。

目の前に広がる広大な平原は一瞬にして白銀の世界へと変貌。

そして襲い来る数百の魔獣は、その瞬間、全て凍てつき絶命した。


「……な、なんだ?何が起こったんだ?」

町人たちは目の前で起こった出来事を全く理解できていない。


「あとは、あいつか」

ユイトは剣を抜くと、刀身に”気”を纏わせる。


劣等竜ワイバーンまでは、まだかなりの距離がある。

だが、ユイトはかまわず剣を振り上げると、劣等竜ワイバーンめがけて振り上げた剣を一気に振り下ろした。

直後、真っ二つになり地上へと落下していく劣等竜ワイバーン


「よし、終わりだな」


キンッ


剣を鞘に納めたユイトは、念のため感知魔法で辺りを確認。

町に向かってくる魔獣はもういない。


「じゃあ、戻るか」


町に戻るため、くるりと向きを変えたユイト。

そんなユイトの元へティナが勢いよく飛び込んできた。

そしてそのままユイトにしがみつき涙を流すティナ。


これまで、この小さな体で想像を絶する苦しみを耐えてきたのだろう。

父と母が命を懸けて守った町が失われるのではないかと、不安で一杯だったのだろう。

ユイトにしがみついたティナは、堰を切ったように大声で泣き続けた。

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