第23話
「絶対に町には行かせないわっ!」
”地壁”
直後、広範囲にわたって地面から土壁がせり出した。
「オリビア!クィーンにも頼む。
可能な限り、クィーンを足止めしてくれっ!」
「分かったわ、任せて」
そう言うとオリビアは、クィーンに向け一際大きな地壁を放った。
オリビアの魔法が、クリスタルリザードとクィーンの行く手を阻む。
「よし、クィーンと戦う前に出来るだけ数を減らすぞっ!」
「分かったわ!」
凄腕の剣士であるウェイン。
ウェインは、その凄まじい豪剣と剣速でもって次々とクリスタルリザードを沈めていく。
”火炎円陣”
”火炎槍”
対してオリビアは、強固な鱗に包まれたクリスタルリザードを、炎で内部から焼き尽くす。
密集しているクリスタルリザードには火炎円陣を、単独で移動しているものには火炎槍を次々と撃ち込んでいく。
その傍ら、クィーンは行く手を阻む巨大な土壁に体当たりを繰り返す。
徐々に削られていく土壁。
だが必死にクリスタルリザードと戦うウェインとオリビアは、それを気にする余裕など全くない。
その後も土壁に体当たりをし続けるクィーン。
そしてクィーンを抑えるためにオリビアが創った巨大な土壁も残りあとわずか。
ここでようやく、ウェインがそのことに気が付いた。
「まずいっ、このままじゃ土壁がもたない。オリビアっ、もう一度、
……くそっ、駄目か……」
四方から襲い来るクリスタルリザードと必死に戦うオリビア。
そんなオリビアを見て、そんな余裕などないことはすぐに分かった。
そして……
ドゴォン
オリビアが創り出した土壁が崩れ去る。
「…くそっ、削り切れなかったか」
ウェインとオリビアの前に姿を現した巨大なクィーン。
そしてその周りには、なおも数十体のクリスタルリザード。
「……やるしかないか」
ウェインは剣を握る手に、より一層力を込める。
通常のクリスタルリザードの相手もしなければならない中での戦い。
それはまさに死闘だった。
「うおぉぉっ!」
クィーンに向け、渾身の力を込めて剣を振り下ろすウェイン。
しかし……
ガコォン
弾かれるウェインの剣。
「くそったれ、なんて硬さだっ」
通常のクリスタルリザードとは比べ物にならないほどの強固な鱗に、ウェインの豪剣も通らない。
何度も何度も繰り返しクィーンに斬撃を浴びせるも、一向にダメージは通らない。
「くそ…何か手はないのか……」
必死に考えるウェイン。そして、1つの案を思いつく。
「オリビア!クィーンに炎と水の魔法を交互に打ち続けてくれっ!
炎で熱した鱗を急速に冷やせば、脆くなるはずだ。
そこに俺の剣を叩き込むっ」
「分かったわ!」
ウェインの指示通り、オリビアはすぐにクィーンに向け、炎と水の魔法を交互に繰り出し始めた。
”火炎槍”
”水槍”
そしてウェインが、オリビアが攻撃した箇所目がけて全力で剣を振り下ろす。
「うぉぉぉーーーっ!」
ギャーッ
直後、クィーンが悲鳴を上げる。
ウェインの豪剣が初めてクィーンに届いた。
「よし、このまま続けるぞっ!」
オリビアが交互に魔法を放ち、直後ウェインが剛剣を叩き込む。
その後もこれを繰り返し、2人は少しずつだがクィーンにダメージを与え続けた。
想像を絶する激しい戦い。
そんな中、大きなダメージを負ったクィーンの強烈な一撃がウェインを襲う。
「ぐはぁっ」
激しく吹き飛ぶウェイン。
そんなウェインの元に、オリビアがすぐに駆け付ける。
「はぁはぁはぁ。ウェイン、はぁはぁはぁ、すぐに治すわ」
”治癒”
「すまん、オリビア。はぁはぁはぁ」
クィーンとの壮絶な戦いが始まってから既に30分以上が経過していた。
ウェインとオリビアの体力は既に限界を超えていた。
ティナを守りたい、その気持ちだけが2人を支えていた。
そして愛するティナへの想いが、決して2人に諦めを許さなかった。
命を削り、クィーンへ攻撃し続けるウェインとオリビア。
ボロボロになった体。それでも2人は決して攻撃を止めなかった。
……そして、ついに決着の時は訪れた。
平原にクィーンの断末魔が響き渡る。
ギャァーーーーーーーッ
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ウェインとオリビアの目に映る、沈みゆくクィーンの姿。
…どさっ
だが同時に、全身傷だらけになりながら、全てを出し尽くしたウェインとオリビアも地面へと倒れこんだ。
2人にはもう、起き上がる力など残されていなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
視界もかすむ中、懸命に地を這うオリビア。
そしてウェインの元へとたどり着いたオリビアは、最後の力を振り絞り、ウェインに話しかけた。
「……ねぇ、ウェイン。
私たち…ティナを守れたかしら……?」
ウェインもまた、最後の力を振り絞り答えた。
「……あぁ…きっと守れたよ」
「……良かった」
オリビアの目から涙が溢れる。
「……愛してるわ…ティナ」
そして、お互いの手を握り締め、2人は静かに目を閉じた。
ウェインとオリビアによって、クィーンと大半のクリスタルリザードは討伐された。
しかし、仕留めきれなかった一部のクリスタルリザードが領主軍を追って、カタルカの町へと向かった。
カタルカの町を襲うクリスタルリザードの群れ。
突然の魔獣の襲来に逃げ惑う町人たち。
しかし、そこに領主軍は現れない。
それもそのはず。領主と領主軍は町が襲われている間、領主邸に立てこもっていた。
町人を助けることもなく、襲撃が収まるのをただひたすら領主邸で待ち続けた。
しばらくして、カタルカの町を蹂躙し尽くしたクリスタルリザードの群れは姿を消した。
それを確認した後、領主軍は町人に気づかれないよう再び平原へと向かった。
そこで彼らが目にしたもの。
それは、クィーンと大量のクリスタルリザードの死骸。
そして、静かに横たわる傷だらけの2人の冒険者の姿だった。
その夜、領主邸では領主の命令により、兵士が一か所に集められた。
そして集まった兵士たちに向け、領主が話し始めた。
「いいかお前たち。よく聞け。
我々は封印の地などには行っていない。
愚かな2人の冒険者が金に目がくらみ、封印の地へと踏み入った。
そしてクリスタルリザードの怒りを買い、この町が魔獣どもに襲われた。
領主軍が町を守る戦いに参加できなかったのは、隠れていたわけではない。
魔獣どもに殺された愚かな冒険者の代わりに、平原にて魔獣どもを
食い止める戦いをしていたからだ。
今この町があるのも、全て領主と領主軍のおかげだ。
いいか?これが真実だ。
ともに封印の地に行き、領主邸に戻ってきた貴様らも同罪だ。
お前たちにも守るべき家族がいるのだろう?
何が言いたいか分かるな?
話は以上だ」
数日後、領主は町人に向けて、事の経緯を説明した。
おぞましいほどの悪意を持って。
その後、愛する両親を失った少女の生活は一変した。
真実を隠した領主と領主軍、そして領主の話を鵜吞みにした町人たちの手によって。