第221話(最終話)
そして日が変わり、ついに迎えたユイトとティナの結婚式当日。
ユイトとティナを祝福しようと、2人と繋がりのある者たちが世界中から続々とやってくる。
その中にはもちろん、ジークやルーナ、そしてナイチの村人たちの姿もあった。
結婚式の会場は、世界中立冒険者ギルド”グレンドラ”に建てられた立派な教会。
アリアーシェが祀られたその教会で、もうすぐ2人の結婚式が行われる。
続々と教会の周りに集まってくる人々。
そして教会の中では、各国元首をはじめ、ユイトとティナに近しい者たちが主役の登場を待ちわびる。
「あーまだかなぁ、ユイト君たち」
「もうすぐ時間だし、そろそろ来るんじゃないか?」
「どんな感じなのかな?すっごく楽しみ!」
皆が期待する中、まず最初に登場したのはユイト。
一斉に皆の視線がユイトに注がれる。
ごくり
(やばい…緊張する…)
これまで見たこともないような緊張した面持ちで教会奥へと進んでいくユイト。
見慣れぬ衣装を身に纏い、動きはこれでもかというぐらいぎこちない。
「兄貴…違和感しかねぇ…」
そんなガイルの言葉に、皆がうんうんと首を振る。
その後、聖壇前へと辿り着いたユイトは緊張をほぐすかのように大きく深呼吸。
そして教会入り口の方へ体を向けると、ティナが現れるのを静かに待った。
静まり返る教会内。
心臓の音が聞こえるような気がする。
バクン、バクン、バクン
(やばい…まじで緊張する…)
聖壇前に着いてから、まだそこまで時間は経っていない。
だが、その時間がひどく長く感じる。
そわそわしながらティナを待つユイト。
……そして、そんな体感的にはひどく長い時間を経て、ついにその時が訪れた。
カタッ
静かな教会内に響く小さな音。
教会の扉がかすかに開き、外の光が教会内へと差し込んでくる。
そのまま静かにゆっくりと開かれていく扉。
そしてその扉が完全に開かれると、そこには純白のウェディングドレスに身を包み、天から降り注ぐ眩い光に照らされたティナの姿があった。
それは言葉などでは到底言い尽くすことができないほどの美しさ。
その瞬間、教会内にいる全ての者たちが言葉を失い、そのあまりの美しさに目を奪われた。
呆然ともいえる表情を浮かべる列席者たち。
そんな教会内へと、ティナが足を踏み入れる。
そしてティナはゼルマ王にエスコートされ、ゆっくりと教会内を進んでいく。
一歩進むごとに、ゆらゆらと優雅に揺れるドレス。
その波のような穏やかで優しき揺れが、ティナの美しさに、より一層華を添える。
「ティナさん…綺麗……」
皆の口から漏れるのは、反射的に漏れ出るその言葉のみ。
溜息にも似た列席者たちの声の中、ゆっくりと聖壇に向かって足を進めるティナ。
そんなティナの目に映るのは、聖壇前で待つユイトの姿。
ティナはユイトだけを見つめ、一歩一歩進んでいく。
そして皆が見守る中、聖壇前へと辿り着いたゼルマ王とティナ。
すぐにユイトがゼルマ王の前に立ち、2人は互いにお辞儀。
その後、ティナはゼルマ王の元を離れ、ユイトの元へと移動した。
「ティナ、めちゃくちゃ綺麗だ」
「ふふ、ありがと!ユイトさんもすごくかっこいい」
晴れやかな笑顔の2人。
そして厳かな雰囲気の中、すぐに誓いの儀式が始まった。
ユイトとティナの記憶に刻まれた、これまで2人で歩んできた長い道。
その記憶を胸に、ユイトとティナはお互いの永遠なる愛を誓い合う。
ユイトと見つめ合うティナの目には涙が浮かぶ。
そしてユイトはそんなティナをそっと抱き寄せると、優しくティナに口づけた。
……あの日、俺は突然この世界へとやってきた。
何も分からぬこの世界で、どう生きていくかを迷ってた。
だけどティナが、この世界での目的を俺に与えてくれた。
見知らぬ世界に放り出された俺に帰るべき場所を作ってくれた。
ティナがくれた優しい言葉が、あの優しい笑顔が俺を救ってくれたんだ。
…何でって思うときもあった。でも今は思う。
俺はティナと出会うためにこの世界に来たんだと。
……私は暗く寂しい場所に1人いた。
光も届かない苦しみの底に1人いた。
だけどユイトさんが私を見つけてくれた。
温かく希望に満ちた世界に私を連れ出してくれた。
ユイトさんが喜びと幸せを私に与えてくれたの。
…何でって思うときもあった。でも今は思う。
私はユイトさんと出会うためにあそこにいたんだと。
世界中に祝福されたユイトとティナの結婚。
この感動的な結婚式は、列席者の心と記憶に深く深く刻み込まれた。
それは決して色褪せることがないほどに。
結婚式も終え、晴れて夫婦となったユイトとティナ。
そんな2人の目的は今も変わらない。
”苦しんでる人たちを助けたい”
それは幼きティナが語った言葉。
今なおその想いを胸に、2人はその後も忙しい日々を送っていった。
……そして月日は流れ、ユイトとティナの結婚式から2年後。
世界中立冒険者ギルド”グレンドラ”にあるユイトとティナが暮らす家。
そこには笑顔で子供をあやすユイトの姿があった。
「ふふ。ユイトさんメロメロだね」
「はは、そりゃな。っていうか、ティナもだろ?」
「もちろん!だって私たちの子供だよ!」
そう言いながら、ユイトの側へと歩いていくティナ。
「でもねユイトさん。私はユイトさんにもメロメロだよ!」
「そんなん俺だって」
「ふふ。嬉しい!」
絵に描いたような、温かく、幸せな家庭。
ティナが幼くして失った幸せな家庭がそこにはあった。
「ねぇ、ユイトさん。
あの日…私とユイトさんが初めて会った日のこと覚えてる?」
「もちろん。はっきりと覚えてる」
「森で狼に襲われそうになった私をユイトさんが助けてくれたよね。
それでそのあと2人でパンを半分こにして食べて、
ユイトさんがくれた美味しい果物を食べたよね。
あの時はユイトさんと家族になるなんて夢にも思わなかった。
こんな幸せな日が来るなんて、本当に夢にも思わなかった。
私すっごく幸せだよ。幸せすぎて怖いくらい」
「なんも怖くないさ。
俺はどんなことがあってもティナを守る。
どんなことがあっても絶対にティナを離さない。
なんせ俺は、ティナの守り手だからな!」
「うん」
幸せそうな笑みを浮かべ、ティナがユイトを見つめる。
「…ユイトさん、愛してるよ。
これまでも、今も、これからも、私はユイトさんのこと愛してる。
絶対にユイトさんのそばから離れない。
いつまでも、ずっとずっとずーーーーっと一緒にいてねっ!!!」
Fin.
最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
少しでも面白いと思っていただけましたら幸いです。
また執筆する機会がありましたら、その際はどうぞよろしくお願いいたします!
※感想、誤字報告をくださった皆様。どうもありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。