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第22話

……今から3年前。


そこは、ラーゴルド伯爵領 領主邸。


「ラーゴルド様。封印の地に行くとはどういうことです?

 あの地は、代々立入りを固く禁じられたところではありませんか?」

「うるさい、黙れっ!

 私は、ついに見つけたのだ。この領を発展させる方法をな。

 あれさえ手に入れられれば……」


「”あれ”?。あれとは一体何のことです?」

「クリスタルピラーだ。あれさえ手に入れば、我が領も安泰だ。

 私の陞爵も夢ではない。想像しただけで笑いが込み上げてくるわ」


「ク、クリスタルピラー!?

 ……まさか、あの極めて希少なあの鉱石のことですか!?」

「そうだ。私は古い書物に目を通した折に、偶然見つけたのだ。

 あの封印の地はクリスタルリザードを封印した場所であるとな」


……クリスタルピラー。

それはクリスタルリザードが生み出す非常に珍しい鉱石。


クリスタルリザードは1か所に卵を産み集める習性がある。

それゆえ、当然そこには卵の殻が積み上がる。

その積み上がった殻は、長年の年月を経て変質し、やがて結晶化する。

それがクリスタルピラー。

その希少性、そしてその美しさゆえ、世界中の貴族たちが追い求め、高値で取引されている。


「私が目を通した書物はおよそ200年前のものだ。

 つまりだ。クリスタルリザードが封印されてから少なくとも200年は

 経っているということだ。

 おそらくあの地には大量のクリスタルピラーがあるに違いない。

 くっくっくっくっく」


「…ですが……ですがもし、クリスタルリザードが襲ってきたら

 どうするのです?」

「馬鹿かお前はっ!?少なくとも200年は経っておるのだ。

 クリスタルリザードどもが生きてるはずがないだろう?」

「そ、それはそうかもしれませんが……」


「分かったか。これは命令だっ!お前の意見など聞いておらん。

 いいから兵士たちを集め、すぐに出発の準備を整えろっ!!」


慌ただしく動き出す領主邸。

そして、その30分後。

領主の命令を受け、領主邸の前に集まった数十人の兵士たち。

そんな彼らに向かい、領主が叫ぶ。


「よいか、お前たち!これは輝かしい未来への第一歩だ。

 この栄えある任務に就けること、誇りに思うがいい!

 では、ゆくぞーーーっ!!」


領主の掛け声とともに馬に跨った兵士たちが、封印の地をめざして領主邸を出発。

まるで戦にでも行くかのような兵士の集団が、穏やかな平原を駆けていく。


それから程なくして、領主団一行は封印の地へと到着。

封印の地を前に領主の気分が高揚する。


「くっくっくっく。いよいよだ。

 ついに…ついに私の輝かしい未来への扉が開かれるのだ」


領主団一行はその後すぐ、封印の碑石の一部を破壊。

封印の地へと踏み込んだ。


封印の地 奥へと進む領主団一行。

入り口からは大分奥まで来たが、クリスタルリザードは見当たらない。


「どうだ、見てみろ!私の言った通りではないか!

 私に意見しおってからに、この無能がっ!!」

領主が兵士長に向かって言い放つ。


さらに封印の地の奥へ奥へと進んでいく領主団一行。

そして、しばらく行った先。

そこで彼らは、ついにクリスタルピラーを発見した。


「おぉ!おぉぉ!おぉぉぉ!!

 なんという美しさ!なんという量だ!

 ……やったのだ、我々はついにやったのだっ!!」


大量のクリスタルピラーを前に、領主団一行は歓喜に沸いた。

そしてすぐさま、クリスタルピラーの採掘に取り掛かった。

世紀の大発見を前に兵士たちのやる気は漲り、その表情も明るい。

クリスタルピラーを傷つけないよう慎重に、それでいて、てきぱきと作業を進めていく。


それから小1時間ほどで採掘を完了した領主団一行。

皆、満足げな表情を浮かべ、封印の地、入り口へと向かっていく。

そして彼らが入り口付近まで来たその時、後方より何かが聞こえた。


ガサッ


「…んっ?何だ?何の音だ?」

後方の兵士が後ろを振り返る。

「なっ……」


その兵士の目に映ったもの。

それはクリスタルリザードだった。

クリスタルリザードは死んでなどいなかった。


クリスタルピラーはクリスタルリザードにとって特別な意味を持つ。

非常に強い縄張り意識を持つクリスタルリザード。

そんなクリスタルリザードにとって、クリスタルピラーは、その地が自分たちの縄張りだと主張するためのいわばシンボルのようなもの。

縄張りに踏み込んだだけでなく、その象徴までも奪い去った領主団一行。

その行動は、クリスタルリザードたちの逆鱗に触れた。

クリスタルリザードの群れが、一斉に領主団一行に襲い掛かる。


「ク、クリスタルリザードだぁーーーっ!」

悲鳴にも似た叫び声が封印の地に響き渡る。


領主団一行は、一目散に逃げた。

皆、入り口で待機させている馬を目指して脇目もふらず走った。

だが、重量のあるクリスタルピラーを持ったままでは、とてもじゃないが逃げ切れない。

そう判断した兵士たちは、次々とクリスタルピラーを投げ捨て馬へと向かった。

そして馬に辿り着いた者から順次馬に跨り、カタルカの町に向け走り出した。

クリスタルリザードの群れは、地響きを立てながら、縄張りを荒らした浸食者たちを追いかける。


ちょうどその頃、狩りを終えた2人の冒険者が、封印の地とカタルカの町の間にある平原を歩いていた。

そう、ティナの父ウェインと母オリビアだった。


「今日はいい獲物が獲れたな」

「そうね。今日は腕によりをかけて美味しい料理を作るわ。

 ティナもきっと喜ぶわ」


そして2人は、しばらくして異変に気づく。

「何だ?誰かが何かに追われているのか?」


急いで近づくウェインとオリビア。


「あれはまさか…領主軍!?

 なんで領主軍がクリスタルリザードに追われてるんだ!?」

「…えっ!?クリスタルリザードですって!?

 クリスタルリザードって確か……!?」


「あぁ、このまま領主軍を町に帰らせてはまずい。

 何としても引き止めないと。急ぐぞ、オリビア!」

「えぇ!」


急いで領主軍の方へと向かうウェインとオリビア。

そして近くまで辿り着いた2人は領主軍に向かって全力で叫んだ。


「止まってーーっ!町に戻ってはダメっ!

 このまま町に戻ったら、町が大変なことになるわっ!!」

「止まれっ、止まるんだっ!止まってここで戦えっ!

 クリスタルリザードはどこまでも追いかける!町が襲われるぞっ!!」


懸命に領主軍に呼びかけるオリビアとウェイン。

しかし…


「うるさーいっ!止まるなお前たち!

 急いで町まで戻るんだっ!領主邸に着くまで私を守るんだっ!!」


領主軍は、2人の冒険者の懸命な叫びに聞く耳を持たなかった。

そしてそのまま町の方へと走り去っていった。


「な…なんてことを……。

 ティナが、このままじゃティナが……」

町に残る最愛の娘に降りかからんとする危機に激しく動揺するオリビア。


「落ち着け、オリビア。俺たちで何とかするしかない。

 …できるな?俺たち2人でティナを守るんだっ!」


そんなウェインの言葉にオリビアが頷く。

「……分かったわ。

 絶対に…絶対にティナを守ってみせる!!」


……そして、覚悟を決めた2人の冒険者とクリスタルリザードたちとの壮絶な戦いが始まった。

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