第219話
レンチェスト王国 サザントリム冒険者ギルド。
その日、2つのSランクパーティーがギルドマスターの元を訪れた。
「お前たちか。どうした?」
「今日はギルドマスターにお願いがあって来ました」
真剣な表情で切り出す”天翔の風”ロイ。
そんな彼らを前に、ギルドマスターがにやりと笑う。
「ふっ。そろそろ来る頃だと思っていた。
行きたいのだろう?世界中立冒険者ギルド”グレンドラ”へ。
構わん。行ってこい」
「いいのかっ!?」
ギルドマスターの言葉に驚くガイル。
「あぁ、心配はいらん。
ここにはお前たちが育てた優秀な冒険者たちがいるだろう?
気にせず行ってこい。
きっとユイトたちも人手が足りなくて困ってるだろうからな」
「やったぁーーーーーーーっ!!!」
その瞬間、こんなにも簡単に許可をもらえるとは思ってもいなかった”天翔の風”と”タイガーファング”の歓喜の声が響き渡る。
「その代わり1つ頼まれごとをしてくれ。
お前たちが世界中立冒険者ギルドに向かうとき、
シノンとミーアも一緒に連れてってくれ」
「シノンとミーアも行くのか?」
「あぁ。シノンにいたっては世界中立冒険者ギルドの話を聞いたその日に
『今までお世話になりました』と言いに来たぞ」
「ははは。さすがシノンだな」
「だがあいつらだけじゃ、行けるわけもないからな。
だからあいつらには言っておいた。
その内、”天翔の風”と”タイガーファング”も行くと言い出すから、
それまで待てとな」
「…見抜かれてたか。さすがギルドマスターだな」
「ふっ。お前らとの付き合いも長いからな。
で、いつサザントリムを発つんだ?」
「そうだな…準備とかもあるし、4、5日後ってとこか」
「そうか。それじゃあ向こうに着いたら
ユイト”様”と、ティナ”様”によろしく言っておいてくれ」
「ははは、ギルドマスターが”様”付けなんて似合わねぇぜ」
「馬鹿言うな。あいつらはもう各国の王と同格だからな。
お前らも不敬罪にならないよう気をつけることだな」
「おうよ。じゃあ兄貴と姐さんにちゃんと伝えとくぜ」
「…お前、ちゃんと話聞いてたか?」
「おぅ、ばっちりだぜ」
「………」
呆れるギルドマスターと”天翔の風”。
「おー、そうだそうだ。伝え忘れるところだった。
さすがにお前たちもこれは知らんと思うが…」
「何?」
「実はな……」
にやにやと笑みを浮かべ焦らすギルドマスター。
「もう、何?もったいぶらないで早く教えてよ!
気になるじゃない!?」
身を乗り出してギルドマスターを急かすセフィー。
「はっはっは、すまんすまん。
お前たち、絶対に驚くぞ。
いいか、よく聞け。ユイトとティナだがな、結婚するそうだ」
「ええぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!」
皆の叫び声がギルド内に響く。
「いつ!?いつ結婚するのっ!?式はっ!?ねぇっ!?」
「おいおい落ち着け、セフィー。
式を挙げるのは、世界中立冒険者ギルドの準備が一段落してからだそうだ。
目途がたったらみんなに案内を出す予定みたいだが、
向こうに行くならお前たちには必要なさそうだな」
「そうか…ついに兄貴と姐さんが…。
こうしちゃいられねぇ。
お前らぁ、宴だーっ!!宴の準備だぁーーーっ!!!」
この日、サザントリムの冒険者ギルドでは昼間からユイトとティナを祝う宴が催され、その宴は翌朝まで続いた。
……場所は変わり、獣人国グレア・ネデアの街ガデラ。
コンコンコン
誰かがジークの家の扉をノックする。
「誰だろ?はーい」
ジークが扉を開けると、そこには騎士団中隊長バーナードが立っていた。
「あれ?バーナードさん、どうしたんですか?」
「ちょっとな。
いずれ連絡があると思うが、ジークには先に伝えておこうと思ってな」
「???」
「実はな、ティナ様がご結婚されるんだ」
「えっ!?ほんとにっ!?」
「あぁ」
「誰!?誰と結婚するのっ!?」
「ユイト様だ」
「あー良かったぁ…。
僕、ユイトさんとティナさん結婚すればいいのにって、ずっと思ってたんだ!
そっかぁ、ユイトさんとティナさん結婚するんだ」
嬉しそうに笑みを浮かべるジーク。
パタパタパタパタ
何やら興奮したジークの声を聞き、ジークの母も玄関までやってくる。
「あっお母さん、聞いてよ!ユイトさんとティナさんが結婚するんだって!」
「まぁ!本当なのジーク!?」
「うん、本当だよ!」
「じゃあ、今度お会いすることがあったらお祝いしなくちゃ」
「そうだね!」
ここでジークがふと、バーナードの言葉を思い出す。
「…あれ?」
『実はな、ティナ様がご結婚されるんだ』
『ユイト様だ』
「ねぇ、バーナードさん。
さっき、ティナさんじゃなくて”ティナ様”って言ってなかった?
それに”ユイト様”って」
不思議そうな顔でジークがバーナードに問いかける。
「あーそうか。ジークはそのこともまだ知らなかったんだな」
「???」
「…ところでジークは、クレスティニア王国という国は知ってるか?」
「うん、南の方にある大きな国だよね?
お母さんも知ってるでしょ?」
「えぇ、もちろん知ってるわ」
「それで、それがどうかしたの?」
「実はな、ジークを鍛えてくれたティナさんは、そのクレスティニア王国の王女、
ティナ・レフィール・クレスティニア王女殿下だったんだ」
「………。ええぇぇぇーーーーーーっ!!!」
目が飛び出そうなほど驚くジークとジークの母。
「ティナさんが王女様っ!!?
えっ?えっ?えっ?僕、そんな凄い人に教わってたの!?
えっ?どうしよう!?えっ!?どうしたらいいの!?
じゃ、じゃあ、ユイトさんは?ユイトさんはどうなの?
ユイトさんは王子様だったりするのっ!?」
「いや、ユイト様はなんと、伝説の神獣 古代竜様のご友人だったんだ。
噂では、神の使徒様という話だ」
「…か、か、か、神の使徒様ぁぁーーーーーーっ!!?」
再び親子そろって目が飛び出るほどの驚きを見せる。
「お、王女殿下と神の使徒様が我が家で食事を…あ、あぁ……」
驚きのあまり、そのまま気を失うジークの母。
「えっ!?お母さん!?ちょっと!?
僕だってめちゃくちゃ驚いてるんだから、起きてよ、お母さーーーんっ!!」
……再び場所は変わり、エルフの国リシラ。
心から慕うティナのように強くなろうと、毎日鍛錬に励むルーナ。
そんなルーナの元にユーリネスタとヤニスがやってくる。
「ルーナ。ちょっとこちらにいらっしゃい」
「あっ!ユーリネスタ様!」
鍛錬を中断し、すぐにユーリネスタの元へと向かうルーナ。
「今日はルーナに嬉しい知らせを持って来ました」
「嬉しい知らせ?」
「そうです」
ルーナの喜ぶ顔を想像し、笑みを浮かべるユーリネスタ。
「ティナ様とユイト殿のことです。
実は、お2人がもうすぐご結婚されます」
「ほ、本当ですかっ!?」
「はい」
その瞬間、ルーナの頭にあの時の記憶が蘇る。
『夢なんだ。ユイトさんと家族になって、一緒に人生を歩んでいくのが』
ルーナの記憶に刻まれたティナが語った夢。
一時はその命とともに失われかけたその夢が現実に。
「良かった…ほんとに良かった……」
ルーナの目に涙が浮かぶ。
「ルーナ。お2人の結婚式にはルーナもともに行きましょう」
「はいっ!」
そして、それからしばらくして、”天翔の風”、”タイガーファング”、そしてシノンとミーアが世界中立冒険者ギルドへと到着。
彼らはすぐに、街の奥にある真新しいギルドハウスへと入っていく。
「よぉ、兄貴ぃ、姐さんっ!」
「…えっ!?みんなっ!?」
突然やってきた彼らにめちゃくちゃ驚くユイトとティナ。
そして彼らがサザントリムの冒険者ギルドを辞め、自分たちの元にやってきたことを知り、さらに仰天。
ユイトとティナは、そんな彼らの気持ちに心から感謝するとともに、再び仲間としてやっていけることを心の底から喜んだ。
その後も、ユイトたちと繋がりのある者や、噂を聞き付けた有志が自然とユイトたちの元へと集まってくる。
そして、世界中立冒険者ギルド”グレンドラ”の街も順調に仕上がっていき、その終わりも見えてきた。
「じゃあ、ティナ。そろそろみんなに結婚式の案内を出そうか?」
「うん!」
早速、各国元首や近しい者たちへ結婚式の案内を送ったユイトとティナ。
結婚式に向けた準備もすぐに始まった。
街づくりにギルドの仕事、そして結婚式の準備とやること盛りだくさんのユイトとティナ。
その後も2人は、忙しくも楽しい、充実した毎日を過ごしていった。