第216話
その翌日。
ユイトとティナは、リーンプエル王城 会議室の前に立っていた。
「何だろうね?」
「うーん、何だろうな?」
理由を知らされぬまま、指示に従い会議室へとやってきたユイトとティナ。
「ま、とりあえず入るか」
「うん」
コンコンコン
ノックをした後、ユイトが会議室の扉を開ける。
するとそこには、世界全13カ国の元首たちの姿があった。
何やら思ったよりも大事そうな雰囲気に、しばし入り口で佇むユイトとティナ。
するとそんな2人にゼルマ王が声をかける。
「ユイト殿、ティナ。掛けたらどうだ」
ゼルマ王に促され、用意された席に腰を下ろすユイトとティナ。
「さて、主役も来たことだ。始めるとしよう」
元首たちを代表してリーンプエル王国 国王ノイブリッツが話し出す。
「まずは改めて礼を言わせてくれ。
ユイト殿、ティナ殿。よくぞ、この世界を守ってくれた。
今こうしてこの世界があるのも其方らのおかげだ。
世界を代表して心より感謝する」
ノイブリッツ王がユイトとティナに向かい、深々と頭を下げる。
「其方らは世界を救いし英雄だ。
きっと神が其方らをこの世界へと遣わしてくれたのであろう。
私は本気でそう思っておる。
そんなユイト殿とティナ殿に、今日は報告と頼み事が1つある」
「頼み事…ですか?」
「うむ。だがその前にまずは報告からだ。
其方らのあの戦いと、古代竜様の戦いとあらば当然のことかもしれんが、
此度の戦いで終末の森のかなりの部分が消滅したことが分かった。
そこは終末の森であった場所とはいえ、余りに広大な土地。
放置するのはいささかもったいない。
では、その終末の森跡地をどのように活用すればよいのか?
それについて、ここにいる各国の元首たちと話し合った。
そして議論に議論を重ねた末、ある結論に至った。
それは”世界中立冒険者ギルド”の設立。
我々は終末の森跡地に、世界中立冒険者ギルドを設立することにしたのだ」
「世界中立冒険者ギルド?」
「うむ。その通りだ。
現在も冒険者ギルドはあるにはある。
各冒険者ギルドにおいて共通のルール、共通の仕組みもある。
だがその運営は各国に委ねられている。
それゆえ冒険者もどこかの国のギルドに所属し、
国を跨ぐ依頼でない限り、基本的にはそこでしか活動しない。
何も無いときにはそれでもよいかもしれんが、
今回のように何か起こった場合はそうとも限らん。
その時の国の状況、在籍する冒険者の数や質、
そして発生した事案の大きさによっては、十分な対応が出来ない可能性がある。
そこで我々が考えたのが、世界中立冒険者ギルドだ。
世界中立冒険者ギルドへは各国が支援する。
その代わり、世界中立冒険者ギルドは各国に支部を置き、各国の安全を守る。
そして、どこかの国が窮地に陥れば最優先でそこの国を守る。
つまりは、国を跨いだ組織というわけだな。
これにより、どこかの国だけが危機に陥ったり、
どこかの地域だけが苦しむといった可能性が大きく減るであろう」
「…確かに」
ノイブリッツ王の説明に納得するユイトとティナ。
「今回の出来事で我々は大いに学んだのだ。
互いに協力することの大切さをな。
各国が協力し、一丸となって立ち向かったからこそ、
ユイト殿たちが来るまで持ちこたえることが出来た。
世界中立冒険者ギルドとは、
”各国が手を取り合い、協力して生きていく”、
そんな我々の決意を形にしたもの、いわば象徴だ」
その言葉に元首たちが一斉に頷く。
「それではなぜ、世界中立冒険者ギルドを終末の森跡地に設立するのか。
それには、土地の確保以外にも2つの理由がある。
1つは、各国に救援が必要となった際、
世界のほぼ中央に位置する終末の森跡地を拠点にすれば駆け付けやすい。
これは世界中立冒険者ギルドが担う役割を考えれば非常に重要なこと。
そしてもう1つの理由は、交易路の確保だ。
これまでは、世界の中央に位置する広大な終末の森を
迂回せねば各国と行き来できんかった。
だが今回、その終末の森のかなりの部分が消失した。
そこで皆で考えたのだ。
どうにかしてそこに、安全な交易路を整備できないかとな。
その結果が、終末の森跡地における世界中立冒険者ギルドの設立。
屈強な冒険者たちが集う、世界中立冒険者ギルドの領地がそこにあれば、
そこを経由し、皆が安心して各国と行き来することが出来る。
つまりは、終末の森跡地での世界中立冒険者ギルドの設立は、
交通・流通の面においても非常に重要なことというわけだ。
もしこれが実現できれば、各国の交流は活発になり、
各国の特産品なども流通、食料不足などの問題も大きく改善されるであろう」
「…なるほど」
ふむふむと、ユイトとティナがノイブリッツ王の話に耳を傾ける。
「しかし、当然課題もある。
それは世界中立冒険者ギルドの体制面だ。
消失したとはいえ、元々は終末の森。
近くには今もなお、終末の森が存在する。
つまり、世界中立冒険者ギルドを運営していくためには、
終末の森の魔獣たちと渡り合える人材が必要となってくる。
世界中から多くの冒険者を集めることになるだろう。
だが、其方らも知っての通り、冒険者は一癖も二癖もある者も多い。
ただ集めただけでは、まとまりのない組織となってしまうだろう。
それ故、世界中立冒険者ギルドを成り立たせるためには
そんな冒険者たちが進んでついていくような
人望のある者が上に立つ必要がある」
「…そうかも」
うんうんと首を縦に振るユイトとティナ。
「そこでだ。ここからがユイト殿とティナ殿への頼みだ。
ユイト殿には、世界中立冒険者ギルドのグランドギルドマスターを、
そしてティナ殿には、サブグランドギルドマスターをお願いしたい」