第214話
数日間にも及ぶ各国元首たちの会議も終わり、その日の午後はリーンプエル王城にて社交界が開かれた。
ティナもクレスティニア王国の王女ということで社交界に参加。
本人はかなり逃げたそうにしていたが、そんなことは許されるわけもなく、半ば強制的に連れていかれていった。
そしてユキはというと、ドプラニッカで見た光景再び。
ドプラニッカの兵士たちに囲まれ、もの凄い勢いで祀り上げられていた。
「…さてと。みんな忙しそうだし、街でも見に行くかな」
ということでユイトは1人、気の向くまま王都エミリスの街を散策。
久しぶりにのんびりとした1日を過ごした。
そして、その日の夜。
誰もいないリーンプエル王城の屋上から、1人城下を眺めるユイト。
するとそんなユイトの後方から、誰かの足音が聞こえてきた。
カツン、カツン、カツン
ゆっくりと後ろを振り向くユイト。
「ユイトさん、ここにいたんだ」
「あぁ。ティナはやっと解放されたんだな」
「うん。大変だったよ、もう!
色んな人への挨拶回りや、お茶会とか。
慣れてないことばっかりで、疲れちゃった!」
「ははっ。王族ってのも大変だな」
「ほんとだよー」
「…で、その恰好……部屋に寄らずにここに来たのか?」
「うん。せっかくだからユイトさんにも見てもらおうと思って。
変じゃないかな?王城にあるものを貸してもらったんだけど」
「いや、良く似合ってる。どっからどう見てもお姫様だ」
「ふふ。ありがと!
ところでユイトさんはここで何してたの?」
「んー何っていうか、ただぼんやりと城下の明かりを眺めてた。
なんつーか、穏やかだなぁってな」
「…そっか…そうだよね。もう悪魔はいないんだもんね。
私…何だかすごくすっきりした。
また何か起こるかもって、いつも心にひっかかるものがあったから」
「そうだよな。すべての問題が解決されたってわけじゃないけど、
きっとこれまでよりもずっと、世界はいい方向に進んでいくんだと思う」
「うん。私たちの願い、少しは叶ったかな?」
「そうだな。………」
その後、急にユイトが黙り込む。
「どうしたの?」
「…なぁ、ティナ。覚えてるか?
カタルカの町でティナを助けた時、俺はティナの守り手だって言ったこと」
「うん」
ユイトの言葉に静かに頷くティナ。
「理不尽な環境。剝き出しの悪意。
そしてそれらに押しつぶされないよう必死に耐える罪なき少女。
俺はその状況が許せなかった。守らなきゃと思った。
でもティナは、もうあの頃のティナじゃない。本当に強くなった。
悪魔もいなくなったこの世界で、ティナを脅かすものなんて、
きっともう何もない。ティナにはもう、守り手なんて必要ないんだと思う」
ユイトを信じてないわけじゃない。
けれどユイトの言葉に一抹の不安がよぎる。
不安げな表情を浮かべたティナが、少しうつむき、両手を固く組む。
そして、ユイトが続ける。
「けど…もし叶うなら、俺はこれからもティナの守り手のままでいたい。
あの時…リシラでティナを失うかもしれないと思った時、
俺はたまらなく怖かった。
目の前が真っ暗になった。この世の終わりとさえ思った。
ティナがいない世界なんて生きている意味がない、本気でそう思った。
……思い知ったよ。ティナが俺にとってどれだけ大切な存在か」
「ユイトさん…」
「ふぅ…」
小さく息を吐くと、ユイトは真剣な表情でティナの正面に立った。
そして…
「ティナ。俺はティナを愛してる。世界中でティナだけを愛してる。
これからもティナを守りたい。これからもティナにそばにいて欲しい。
だから…俺の家族になってくれないか?」
願い続けてきた夢。待ち続けてきたユイトの言葉。
その言葉がティナの不安を瞬時にかき消し、ティナの目からは涙が溢れた。
そして…
「はいっ!」
ティナは涙を流しながら、勢いよくユイトの胸に飛び込んだ。
そしてユイトの胸に顔をうずめ、強く強くユイトを抱きしめた。
ぐすっ
「嬉しい、嬉しいよ。
私、待ってた。ずっと待ってたの」
嬉し涙が止まらないティナ。
「ごめんなティナ。遅くなっちゃって」
そしてそんなティナを、ユイトは強く強く抱きしめ返した。
お互いの体温が伝わる。
2人は手にしたその幸せを嚙みしめるように、そしてその幸せが逃げていってしまわないように、しばらくの間、お互いの背中へと回した腕をほどくことはなかった。
そして静かに夜が更けていく。