第213話
世界の命運をかけた闘いが終結してから数日後。
悪魔たちと死闘を繰り広げた兵士たちの傷もまだ癒えぬ中、リーンプエル王国では早速、戦後処理が始まった。
そこは戦場となったリーンプエル王国南方 国境付近。
「俺さ、未だにあの時のこと、夢だったんじゃないかって
ずっとそんな気分なんだよな」
「お前もか…。俺もさぁ、まだ頭の中が全く整理できてないんだよな。
だって悪魔だろ?そんなのが本当にいるなんて、
これっぽっちも思ってなかったからな」
「ほんとだよな」
「…それにしてもあの時、
あぁ、俺はここで死ぬんだって本気でそう思ったよ」
「そんなの俺だってだよ。
あの時ここにいた全員がそう思ったと思うぞ?」
「まっ、そりゃそうか。
…けどさ、あん時は本当にびびったよな。
悪魔が山ほど出てきたかと思えば、その次はメイリ―ルの女王様が称号者で、
でかい竜が現れて、古代竜様も現れて、
そんでもって極めつけはクレスティニアの王女殿下たちだろ」
「あぁ、凄かった。本当に凄かった。
他になんて言えばいいのか分からないくらい凄かった」
「だよな。とても同じ人間とは思えないよな」
戦場となった地を見て話す兵士たち。
「ここが終末の森だったんだもんな…」
「あぁ…、信じられないよな…」
そう言う兵士たちの目の前に広がるのは、草木1つない見渡す限りの荒野。
あの日、ユイトとティナが放った超極大魔法、そしてグレンドラと魔竜の激しい戦いによって、終末の森の何割かが消失。
今回の戦いにより、世界の地図が大きく塗り替えられた。
その頃、王都エミリスでは、危機が去ったことを伝え聞いた民たちが続々と街へと戻ってきていた。
想像を絶するほどの規模となった今回の戦い。
だが幸いにも、国境付近にて決着がついたこともあり、民や街含め、被害は皆無。
わずか数日で王都エミリスはこれまでと変わらぬ落ち着きを取り戻した。
…それから更に数日後。
戦後処理も一段落し、リーンプエル王城の会議室には再び各国の元首たちが集まっていた。
もちろん議題は、当初予定していたものから大きく変更。今後の世界および各国の在り方、そして相互協力などについて話し合われることとなった。
だが当然、話に出てくるのは先の戦い。
「しかし、悪魔への対策を話し合うはずが、
まさかこんなことになろうとは夢にも思わなかったぞ。
あの時は心底肝を冷やした。
いや、肝を冷やしたどころではないな。私は死を覚悟した」
「私もだ。よもや悪魔があんな危険な存在だったとはな。
ステラ殿があの場にいなかったら、我々は今ここにはいなかったであろう。
心より感謝する。ステラ殿」
「いいえ。私は自分に出来ることをやったまでです。
それに私だけでは皆さんを守り切ることは出来ませんでした。
皆さんを、そしてこの世界を守ったのは、
古代竜様、フェンリルのユキさん、そしてティナさんとユイトさんです。
ティナさんとユイトさんは、メイリ―ルを救った英雄でした。
ですが今や彼らは、この世界を救った英雄です」
そんなステラの言葉に頷く各国元首たち。
「しかし、ティナ殿とユイト殿のあの力は何なのだ?
とても人のそれとは思えん。
百歩…、いや千歩譲ってティナ殿の力は称号者ゆえとしよう。
だが、ユイト殿は一体何者なのだ?
あのような力、自分の目で見たから良いものの、
聞いただけではとてもではないが信じられぬぞ」
「まったくだ。しかも古代竜様の友なのであろう?
ひょっとしてユイト殿は、神がこの世に遣わした使徒なのではないのか?」
ゼルマ王以外は、誰一人としてユイトの過去を知らない。
皆、思い思いのことを口にして盛り上がる。
そんな状況にゼルマ王が口を開く。
「ユイト殿が何者でも良かろう。我々が目にしたことだけが事実。
この世界を救ってくれた心優しき英雄。それで良いではないか」
「……そうだな。ゼルマ殿の言う通りだな」
ゼルマ王の言葉に落ち着きを取り戻す元首たち。
そんな中、ゼルマ王が続ける。
「我々は世界が滅亡するかどうかの瞬間に立ち会い、あの奇跡を目撃した。
我々はこの世界の歴史の証人なのだ。
世界が1つとなって危機に立ち向かい、そして奇跡が起こった。
このことを後世に伝え、決して忘れ去られることのなきよう、確と歴史に刻む。
それが我々の役割だ」
ゼルマ王の言葉に12人の元首たちが頷く。
「では、これからのことを、
我々が未来へと繋げていくべき世界のことを話し合おうではないか」
それから数日間に渡り、リーンプエル王城会議室では、様々なことについて議論がなされ、様々なことが決まっていった。
そして……
「それでは最後の議題、この案に異論のある者は?」
「異議なし」
「では、全会一致でこの案を承認する」
全ての議題が終了し、各国元首たちの数日にも及ぶ会議は幕を閉じた。