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第21話

ティナに向けて振り下ろされる領主の剣。


と、次の瞬間、何者かが領主とティナの間に割って入った。

そしてその者の左手には、剣を持つ領主の右腕がしっかりと握られていた。


「な、な、な、何だ貴様ぁーっ!何者だぁーーーっ!!」


「俺か?そうだな……俺はこの子の…ティナの守り手だ。

 天国にいるティナの両親に頼まれたからな。ティナを守ってくれって。

 だから、ティナには指1本触れさせないっ!!」


溢れた涙で前が良く見えない。

けれど、見覚えのあるその後ろ姿。


「ユイト…さん……」


「ごめんなティナ。もう少し待っててくれ」

ユイトは振り向きティナに声をかける。


その時、傷ついたティナの顔がユイトの目に映る。

「………。痛かったろ……」


ユイトはティナの頬に優しく触れる。

治癒ヒール

見る見るティナの傷が癒えていく。


「貴っ様ぁーっ!頭がおかしいのかっ!?

 えーい、こいつも同罪だーっ!!2人まとめて処刑しろーーーっ!!」


荒れ狂う領主が兵士たちに命令。一斉に兵士たちが動き出す。

だがその直後、そんな兵士たちをユイトの凄まじいまでの威圧が襲う。

それはこれまで経験したことがないような尋常ではないプレッシャー。

兵士たちは皆、震え上がり、1人残らずその場にへたり込む。


その様子に再び領主の怒声が響き渡る。

「何をやっておるのだっ、貴様らぁーっ!

 早くこいつらを始末しろーーーっ!!」


だが強烈な威圧にあてられた兵士たちは、一向に立ち上がることが出来ない。


「くそーっ、貴様っ、手を放せーーっ!

 この無礼者がぁーーーっ!!」


ティナを手にかけようとした無能な領主。

その無能な領主に怒りがこみ上げ、ついつい握った手に力が入る。


ボキッ


「ぎゃぁーーー、腕がぁ、腕がぁーーー」

領主は剣を落とし、腕を押さえてその場にうずくまる。


その後ユイトは、うずくまる領主から傍観する町人たちへと視線を移す。

そしてその場にいる全ての者たちに向け問いかけた。


「…なぁ、なんでお前らはティナにこんなことする?

 ティナが一体何をしたっ!?」


ユイトの問いに押し黙る町人たち。

誰一人として口を開かない。


「…答えろよ。なぁ、黙ってないで答えろよっ!!」

沈黙する町人たちに対し怒りを露にするユイト。


そしてしばらくの沈黙の後、ようやく1人の町人が口を開いた。


「……3年前、そいつの親のせいで、この町は魔獣に襲われた。

 そいつら一家のせいで、この町のみんなは苦しんだんだっ!」


「魔獣?クリスタルリザードのことか?」


「そうだ。そいつの親は金に目がくらんで、封印されてたクリスタリザードの

 棲み処に立入った。

 そして、それに怒ったクリスタルリザードの群れがこの町を襲った。

 家や店を失った者、怪我を負った者なんて数え切れない。

 中には命を落とした者だっている。

 みんな、そいつの一家が許せないんだよっ。

 ……まぁそいつの親は、真っ先に平原で魔獣たちにやられて

 死んじまったみたいだけどな」


町人の言葉にティナは小さな肩を震わせ、うつむき唇を嚙みしめる。

ユイトはそんなティナを優しく抱き寄せる。


「1つ聞く。お前、今、平原って言ったよな?

 その平原ってのは、クリスタルリザードの縄張りとこの町の間にあるのか?」

「そうだ」

「……なるほどな。そういうことか」


町人のその一言が、ユイトがずっと持っていた疑問に解を与えた。


「これから、お前らの誤った認識をいくつか正してやる」

ユイトが町人たちに向け話し出した。


「まず、この町を襲った魔獣、クリスタルリザードは縄張り意識が非常に強い。

 そして奴らは縄張りを侵食した者に対し、群れ全体で排除にかかる。

 どこに逃げようとも、奴らはどこまでも追いかける。

 ……さっきお前、ティナの両親は平原で命を落としたって言ったよな?」


「あぁ、そうだ」


「もし、ティナの両親がクリスタルリザードの縄張りを侵食したのなら、

 排除対象はティナの両親だ。

 もしそうなら、ティナの両親がいた平原にクリスタルリザードたちは

 集まるはずだ。この町を襲撃することは決してない。

 つまり…この町を襲撃したということは、この町にいたんだよ。

 クリスタルリザードの縄張りを侵食した奴がな。


 じゃあ次だ。

 通常クリスタルリザードは100体前後で群れを作る。

 そして、縄張りを侵食したものに対しては、群れ全体で排除にかかる。

 つまり、本来なら100体前後のクリスタルリザードがこの町を襲撃してた

 はずだ。


 さらに、クリスタルリザードの群れには必ず群れを率いるクィーンがいる。

 そして、襲撃は必ずクィーンが先導する。

 クィーンは15~20メートルほどの大きさだ。

 通常のクリスタルリザードとは比べ物にならない、強さと凶暴さだ。

 もしクィーンがいたら、こんな町、一瞬で滅びただろうよ。


 じゃあなぜ、本来現れるはずのクィーンやクリスタルリザードが

 現れなかったのか。


 考えれば分かるよな?

 クリスタルリザードの縄張りとこの町の間にある平原。

 そこで命を落としたティナの両親。

 どこぞの馬鹿のせいで滅びるはずだったこの町を、十中八九、

 ティナの両親が命を懸けて守ったんだろうよ」


「う、嘘だ…そんなはずはない」


「そんなはずはない?お前、見たのかよ?」


「そ、それは……。

 ……けど……だけど、領主様もお付きの兵士たちも皆そう言ってたんだっ!」


「じゃあ何でこの町が襲われたんだよ?

 なぁ、言ってみろよ。

 誰がクィーンやクリスタルリザードを食い止めたんだよ?

 嘘だと言うなら、何でか言ってみろよっ!!!」


激しく怒るユイトを前に口を開く町人は誰もいない。

そんな中、先ほど領主を止めようと割って入った兵士が重い口を開いた。


「……そうだ。

 全部、今あんたが言った通りだ。

 その少女の両親がクリスタルリザードを食い止め、この町を救ってくれたんだ」


「…き、貴様ぁーっ!

 一体何を話そうとしている!黙らんかぁーっ!!」

兵士の話を遮るかのように領主が叫ぶ。


「お前はそこで黙ってろっ!!」

殺意にも近いユイトの威圧が領主を襲う。

「ひぃぃぃ~」

その瞬間、領主は縮み上がり、ガタガタと震えだす。


「続けてくれ」


兵士に続きを話すよう促すユイト。

兵士はその言葉に無言で首を縦に振ると、続きを語り始めた。


「3年前のあの日……」

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