第205話
ステラが創り出した結界の中で息を吹き返す世界連合軍。
彼らはここぞとばかりに、弱体化した悪魔たちを次々と葬っていく。
「…これは……一体何が起こったのだっ?」
突如現れた巨大な結界に驚く元首たち。
「これはステラ殿が創り出した結界だ。
ステラ殿が我々を守ってくれているのだ」
「…こ、これが称号者の力……信じられん……」
「ステラ殿のこの結界は害意を持つ者だけをはじき、
我々は自由に出入りできる。
ステラ殿が結界を張ってくれている間に、出来るだけ悪魔どもを討ち、
負傷した者たちの手当てを急ぐのだっ!」
「そうだっ!ゼルマ殿の言う通りだ。皆の者、急げーーっ!!」
慌ただしく動き始める世界連合軍。
戦える者はヒット&アウェイ方式で結界を出入りしつつ、悪魔たちにダメージを与えていく。
そしてその間に、手分けして負傷者を結界内へと運び込み手当てを急ぐ。
一方、突如現れた結界を前に動揺するレイドス。
「ぐっ…、な、何だこれは…。これはまさか結界かっ!?
ち、力が入らん…。まずい…早くここから出ねば…」
急ぎ上位悪魔とともに結界の外へと逃げ出したレイドス。
「な、何なんだ、あの結界はっ!?
あれほどの規模のものを一体どうやって創り出したのだっ!?
くそっ、忌々しい奴らめ…。
おいっ、お前たち、早くあの結界を打ち破らんかぁーーっ!!」
レイドスの指示を受け、上位悪魔が一斉に結界に向けて攻撃をし始める。
結界に向けて繰り返し放たれる上位悪魔の容赦ない攻撃。
「ファーガス、いつまで私の力が持つか分かりません。
準備してきた結界石を全て使いなさい」
「承知いたしました」
ステラの指示を受け、すぐにファーガスが動き出す。
ファーガスとともにメイリ―ルの兵士たちが、手分けして結界石を配置する。
結界内、その外縁に沿って等間隔に配置された結界石。
その結界石が、ただでさえ強固なステラの結界を、より一層強固なものへと昇華させた。
「ステラ殿、結界石とは一体?」
「私の結界の力を封じた石のことです。
私の不在時に、結界が必要となるほどの事態が
生じたときの備えとして準備していました。
まさか、私の結界と同時に使うことになるとは夢にも思いませんでしたが…」
その後も、ステラの結界の中で次々と息を吹き返す、兵士、そして冒険者たち。
「ステラ様が守ってくださっている間に、できるだけ数を減らすぞっ!」
「おぉぉーーーーーっ!」
上位悪魔がいる面を避けて飛び出しては、下位悪魔へ攻撃を繰り出す世界連合軍。
そして、未だ結界を破れない上位悪魔たち。
その様子にレイドスが苛立つ。
「上位悪魔でも破れんだとっ!?
一体何なのだっ、あの結界はっ!?
くそぉーーっ、お前ら何をやっているっ!!
早くその結界を打ち破らんかぁーーーっ!!」
その後も、上位悪魔の攻撃に耐え続けるステラの結界。
待てども待てども、その結界が破れる気配はない。
「この、役立たずどもがぁっ!!」
そしてついにレイドスがしびれを切らした。
レイドスの体から一際禍々しい瘴気が溢れ出す。
「深淵に潜みし偉大なる魔竜よ。
我との盟約に従い、今こそ顕現せよ」
”召喚っ!!”
その直後、先ほどのゲートとは比べ物にならないほどの巨大なゲートが開かれる。
そしてそこから現れたのは、凄まじい瘴気を纏った巨大な生物。
そう、そこに現れたのは、かつてグレンドラと死闘を繰り広げた、あの忌まわしき魔竜。
「…竜…だと……そんな…馬鹿な……」
「…あんなのと…どうやって戦えば……」
目を疑うような巨大な体躯、そして経験したこともないような強烈な威圧感。
そのおぞましい程の禍々しさを放つ魔竜を前に、世界連合軍の士気が再び下がる。
「よくぞ来た、魔竜よ。
さぁ、あの忌々しい結界をさっさと破壊しろっ!」
「黙れ、小僧。我に命令をするな。我は貴様の下僕ではない」
「…そうか…そうであったな。お主は私と対等、いわば同志だ。
言い直そう。あの忌々しい結界を破壊してくれ」
「ふっ。いいだろう」
「だがあの結界は相当厄介だ。
上位悪魔どもの攻撃でもびくともせん」
「貴様、我を誰だと思っている?
お前はそこで黙って見ていろ」
魔竜の出現により、先ほどまで繰り広げられていた激しい戦いが一転。
辺りは極限の緊張と静寂に包まれる。
皆が注視する中、魔竜の口へどんどん集まっていく凄まじい瘴気。
そして……
「来るっ!!」
魔竜の攻撃に備え、ステラがより一層結界に力を込める。
その直後、魔竜の口からステラの結界に向けて凄まじい咆哮が放たれた。
ドゴォォーーーーーーッ!!
その禍々しき巨大な咆哮はステラが創り出す結界を直撃。
上位悪魔の攻撃でもびくともしなかったステラの結界が大きく歪む。
その衝撃はステラの腕にも伝わっていた。
「…くっ、なんて力……」
魔竜の咆哮が生み出す凄まじい圧に、まっすぐ伸びたステラの腕が折れ曲がる。
「…こんなのが直撃すれば、終わってしまう。
守らなきゃ…、私がみんなを守らなきゃ…」
限界まで力を振り絞り、魔竜の咆哮に耐えるステラ。
「くっ…、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「ステラ様っ!」
「ステラ殿っ!」
魔竜が出てきた今、周りの者たちに出来ることは1つのみ。
結界が魔竜の咆哮に耐えてくれることを祈る、ただそれしかできなかった。
「ほぅ、我の咆哮に耐えるか。生意気な。
だが我の力はこんなものではないぞ」
直後、魔竜がステラの結界に向け一際大きな咆哮を放つ。
「くっ…」
折れ曲がる腕を必死に伸ばすステラ。
「負けない……絶対に負けないっ!
あなたたちの好きなようになんて絶対にさせるもんですかっ!!」
皆の希望を一身に受けたステラの結界と魔竜の咆哮がせめぎ合う。
「くっ…、くぅぅ…」
「ステラ様っ!」
「ステラ殿っ!」
そんな中、さらに大きな魔竜の咆哮が、ステラの結界を襲った。
そして…
パリンッ…
ステラの結界が粉々に砕け散る。
「そん…な…」
皆の願いむなしく、ステラの結界が魔竜の咆哮を前に消滅した。
そして、限界を超え全ての力を使い果たしたステラは、糸が切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。
どさっ
「ステラ様っ!」
すぐにステラへと駆け寄るファーガス。
必死に呼びかけるもステラは意識が朦朧、起き上がることすらままならない。
「………。
もはや…これまでか……」
最後の希望だったステラの結界が消え去り、目の前にはなおも強大な敵。
一縷の望みも抱けない程の絶望が、世界連合軍を覆いつくす。