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第197話

その後もアリィの厳しい修行の日々は続いた。


そして更に半年が経過。

この頃には、アリィは見違えるほどの成長を遂げ、腕輪をしたティナと互角に戦えるぐらいにまでなっていた。


そんなある日の午後。


「…魔獣だな」

ユイトの感知魔法が、村に迫りくる魔獣の大群を捉えた。


そんなユイトの言葉に、すぐにアリィが立ち上がる。

「ユイトさん、私にやらせて」

そう言うアリィの顔は自信に満ち溢れていた。


「分かった」


ユイトとティナ、そしてアリィが、迫りくる魔獣の方へと移動する。


開けた平原。

ユイトとティナより数歩先へと足を進めるアリィ。

その手には幸守が握られる。


はるか前方より地響きとともに向かってくる数多の魔獣。

そんな魔獣の群れを見つめ、アリィは静かに立つ。

そして…


”纏風”

アリィの手にする幸守が、凄まじいまでの風の魔力を纏う。


静かに振り上げられる幸守。

そして次の瞬間、迫りくる魔獣の群れに向け、アリィは鋭く、そしてとてつもない速さで幸守を振り下ろした。


”飛閃”


その直後。


スパンっ


先ほどまでの地響きが嘘のように消え、辺りが静寂に包まれる。


幸守を鞘に納め、ユイトとティナの方を向くアリィ。

その顔は晴れやかだ。


「アリィ、強くなったな…ほんとに」

「うん。凄いよ、アリィ」


「ユイトさんとティナさんのおかげだよ。

 2人のおかげで私はここまでこれた。

 ユイトさんとティナさんには、まだまだ全然敵わないけどね」


「アリィならいつか俺たちにだって届くさ」

「うん。私、頑張るね」


と、その時、アリィがいつも身につけていた首飾りの紐が切れ、プレートらしきものが地面へと転がった。

修行中もずっと身につけていたもの。どうやら紐に限界がきたようだ。

ユイトの方へと転がったアリィのプレート。

ユイトはプレートを拾うと、表面についた砂埃を手で払った。


その瞬間…


「えっ…」

静かになった平原にユイトの声が響く。


「…アリアーシェ?」


「えっ!?」

すぐにティナもユイトが手に持つプレートを覗き込む。

「そんな…まさか……」


「なぁ、アリィっ!お前、”アリィ”って名前じゃないのかっ!?」


「”アリィ”は私の呼び名なの。

 私の本当の名前は”アリアーシェ”だよ」


「そんな……こんなことって……」


それは驚愕の事実。

偶然出会い、そして育てた少女が世界を救うことになるアリアーシェ。

あまりの驚きを見せるユイトとティナを前に、不思議そうな表情を浮かべるアリィ。


「どうしたの?ユイトさんもティナさんも。

 そんなに驚いた顔して」

「そりゃ驚くだろ。だってアリィは、」


その時だった。

突然、ユイトとティナの体が透け始めた。


「…えっ?ユイトさん、ティナさん、体が…」

「……どうやら……ついに来ちゃったみたいだな」


その瞬間、アリィの目から涙が溢れ出る。

「……いつか…この日が来るって分かってた。

 覚悟してたのに…笑顔でありがとうって言おうと決めてたのに…」


「…アリィ。これまでほんとにありがとな。

 たった2年だったけど、アリィと出会えて…アリィと過ごせて幸せだった」

「そんなの私もだよっ!!

 ユイトさんと出会えて…ティナさんと出会えて私は幸せだった!

 本当に幸せだったっ!!」


「アリィ。アリィなら大丈夫…大丈夫だから。

 だからお願い。これからも元気でいてね…そして絶対に幸せになってね」

「うんっ。ティナさんも…ティナさんも絶対に幸せになってね」

「うん。約束」


どんどん体が透けていき、その存在が薄くなるユイトとティナ。

アリィは涙を流しながら精一杯の笑顔を作る。


「ユイトさん、ティナさん。

 本当に…本当にありがとうございました。

 私頑張るから…これからも私、頑張るから」


「あぁ。応援してる」

「アリィ。遠い未来から私たちはアリィのことを想ってる。

 だからアリィは決して1人じゃない。

 アリィの隣にはいつも私たちの気持ちがあることを忘れないでね」


「はいっ」


アリィに向けられた優しい笑みとともに、ユイトとティナの姿が完全に消えてなくなった。


ぐすっ

「…私、頑張るから。

 未来に私の名が届くように、

 ユイトさんとティナさんに私の名が届くように、私、絶対に頑張るから」


先ほどまでユイトとティナが立っていた場所を、目に焼き付いた2人の姿をアリィはいつまでも眺め続けた。


……そして翌日。

アリィは村人たちのお墓の前に立っていた。


「それじゃあ、みんな。私、行ってくるね」


守りたかった大切な家族に、旅立ちの別れを告げたアリィ。

この後もアリィは、ユイトとティナの想いと自らの誓いを胸に、どんどんと成長していく。

そしてこの数年後、アリィは古代竜とともに世界を救うことになる。


………


現代へと戻ってきたユイトとティナ。


「ここは…あの遺跡…だよな?」

「うん、そうだと思うけど…」


「ワオォン」

久々に聞いたユキの声。


「あぁ、ユキっ!会いたかったよーっ!

 ごめんね、ずっと1人にして」


「ワオォン?」

ティナの言葉になんだかユキは不思議顔。


「…あっ、そうか!

 俺たち石に触れた時間に戻ってきたんだよ!

 だからユキからみたら、ずっと俺たちはここにいるんだ」

「えっ!?そういうこと!?

 言われてみると、確かにユイトさん少し若いような気がする!」


「そういやティナも…」

じーーーーっとティナの顔を見るユイト。


「……変わんないな」

「…えっ?私、ひょっとして年取ったままなの!?」

ユイトの言葉に焦るティナ。


「違う違う。むしろ、向こうで全然年取ったように見えてなかったんだよ」

「そっかぁ…良かった…。ちょっと焦っちゃった」


「まぁ何はともあれ、ようやく戻ってこれたな」

「…うん。けど…戻ってこれたのは確かに嬉しいんだけど、なんだか複雑な気分」

「まぁな…」

「私はユイトさんと一緒にいるからまだいいけど、アリィは…。

 それにもう二度とアリィには……」


現代に戻ってはこれたものの、心が晴れないユイトとティナ。


「…けど、まさかアリィが”アリアーシェ”だったなんてな」

「うん、ほんとに。さすがにびっくりした」

「だよな。

 …でもそういうことだったんだな」


「どうしたの?」


「いや、前に魔石を採りにグレンドラのとこ行った時、

 あいつ言ってただろ。ティナがアリアーシェに似てるって。

 でも違ったんだ。

 ティナがアリアーシェに似てるんじゃない。

 アリアーシェがティナに似てるんだ」


「………。…ねぇ、ユイトさん。

 今度レンチェストに行ったら、教会に行って祈ろう?」

「あぁ、そうだな」


すると突然、ユイトが体の向きを変え歩き出した。

台座へと向かっていくユイト。

そして再び台座の前に立つと、ユイトは台座の上に置かれた石を手に取った。


「持ってくの?」

「あぁ。俺たちとアリィを繋げてくれた大切なもんだからな。

 それに…必ず何とかしてみせる。いつかまた、アリィに会いに行こう」

「うんっ!!」


「…じゃ、行くか」


部屋を出て遺跡の入り口へと向かうユイトとティナ。

その途中、2人は一度だけ後ろを振り向いた。


「……アリィ。この世界を守ってくれてありがとう」

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