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第196話

真っすぐユイトの目を見つめるアリィ。

その顔からはアリィの覚悟がひしひしと伝わってくる。


ユイトはそんなアリィに穏やかな表情を向ける。

「分かった。それじゃあ、アリィ。

 さっきも言ったけど、俺たちは後どれだけこの時代にいられるか分からない。

 だから、少しも時間を無駄にしたくない。

 厳しく教えることになると思うけど、それでもいいか?」


「はい、構いません。よろしくお願いします」

頭を下げるアリィ。


「分かった。じゃあ早速始めるか。

 …っとその前に、アリィ、

 アリィが持つ不思議な力ってのを一度見せてもらえるか?」

「私の力…ですか?…はい、分かりました」


すぐに少し広めの場所へと移動していくアリィ。

そしてそこで足を止めると、ユイトとティナが見つめる中、アリィは瞬く間に透明な壁を創り出した。


「出来ました」

「…えっ?もう出来たのか?」


アリィが創り出した壁へと寄っていき、手を押し当ててみるユイト。

「へぇ…固いような柔らかいような…。

 確かにこれは不思議な力だな」

アリィが口にした”不思議”という言葉に納得するユイト。


「なぁ、アリィ。ちょっとこの壁に魔法を撃ってみてもいいか?

 どれぐらいの強度があるか試したいんだ」

「はい。大丈夫です」

「じゃあ危ないからちょっと離れてろよ」


アリィが壁から十分離れたのを確認し、ユイトが壁目がけて魔法を放つ。

ユイトが放ったのは、かなり力を抑えた弱めの魔法。

だがそれでも一般的に見たら、それなりに強い魔法だ。

アリィが創り出した壁は、そんなユイトの魔法をいとも容易くはじき返す。


「へぇ、結構強いな…」


徐々に魔法の威力を上げていくユイト。

そして…


パリンっ


「これぐらいか…」


「私の壁があんな簡単に…」

目の前で砕け散る壁を見て、アリィは自身の力不足を思い知る。


「よし。今のアリィの力は大体分かった。

 じゃあこれからのことを説明するぞ。

 これからアリィには、”敵を討つ力”と”仲間を守る力”、

 その両方を身に着けてもらう。


 敵を討つ力は俺とティナで徹底的に鍛え上げる。

 そして仲間を守る力。それは、アリィが持つ不思議な力を更に磨き上げる。

 けど、それは俺とティナにはどうすることもできないからな。

 だから俺やティナとの修行の時間以外は、全てそれに充ててくれ。

 今みたいに定期的にアリィの創った壁に魔法を撃ちこんで、

 成長具合いを確認する。いいか?」


「はい」


「よし。じゃあ早速始めるか」


どれだけアリィに教えられる時間が残されているかは分からない。

だが、アリィのためにも中途半端なことだけはしたくない。

この日からユイトとティナ指導の下、アリィの厳しい修行が始まった。


最初は、基本的な魔力の扱い、気の扱い、そしてそれらを用いた身体強化から。

弱音を一切吐かず、ひたすら頑張るアリィ。

そんなアリィの懸命な姿は、ユイトとティナの『何とかしてあげたい』という気持ちを更に強くさせた。


そしてアリィの修業が始まってから、しばらくがたった頃。

その頃から、ティナがアリィに修行をつけている間にユイトが何かをやり始めた。

それに気付いたティナが、休憩中にユイトに尋ねてみる。


「ユイトさん、何してるの?」


「んっ、これか?ちょっと、アリィの剣を作ろうと思ってさ。

 いずれアリィにも必要になるだろ?

 ドプラニッカで剣打ち体験したっつっても俺は素人だからな。

 今のままじゃろくな剣も作れない。だから俺も修行しようと思ってさ。


 アリィがあんなにも頑張ってるのに俺が頑張んないなんて、そんなん駄目だろ?

 絶対にアリィにピッタリな凄い剣を作ってやるんだ。

 この時代の素材を使えば、俺たちが元の時代に戻っても剣はここに残るしな」


「そっか…そうだね。

 じゃあ私、ユイトさんの分まで頑張ってアリィに教える。

 だからユイトさんは絶対にアリィにピッタリな剣を作ってあげてっ!!」


「あぁ、任せろっ!!」


その後も、いつ元の時代に戻ってしまうのか、そんな不安を抱えつつ、アリィ、ユイトそれぞれの修業の日々が過ぎていく。


そして、アリィが修業を開始してから1年ほど経った頃。


「ねぇ、ティナさん。ちょっと聞いてもいい?」

「ん?どうしたの?」

「前にティナさん、元々いた時代では色んな人を助けるために

 旅をしてたって言ってたでしょ?

 どうしてそうしようと思ったの?」


アリィは不思議だった。

自分の大切な人を守るための旅なら分かる。自身もそのために日々頑張ってる。

けれどティナは違った。何の繋がりもない人を助けるために旅をする。

一体その違いは何なのか?アリィはそれを知りたかった。


「私が旅をする理由かぁ。

 うーん…どう説明したらいいかな…。


 えーっと、世の中には色んな人がいるでしょ?

 お金持ちだったり貧しかったり、強かったり弱かったり。

 ほんと色んな人が世界にはいる。生活も人それぞれ。


 お金持ちの人は護衛を雇えたり、ちゃんとした家にも住める。

 食事にも困らないし、好きなものだって買える。

 強い人も同じかな。


 でもね、お金を持っている人だけが、

 力のある人だけが幸せっていうのは、私、違うと思うの。

 誰だって、痛いこと、苦しいこと、悲しいことなんて嫌。

 たとえ貧しくても、どんなに弱くても、その人には大切な誰かがいて、

 その人は誰かにとっての大切な人なの。

 不幸であっていいはずなんてない。


 …けど、悲しいけど、

 どれだけ頑張っても苦しみから抜け出せないことだってある。

 どうしようもできないことだってある。

 だから、私はそういう人たちを助けたいの。

 …かつて……私自身がそうしてもらったように」


「…えっ?…ティナさんが?」

アリィの言葉にティナが頷く。


(そっか…だからティナさんは……)


「今話したことが、私が旅を続ける理由よ」


「ありがとう、ティナさん!

 すごく参考になった。私、もっともっと頑張れそうな気がする!」


「ふふ。良かった!」


そして時は流れ、それから半年ほどが経過した。


「よーし、完成だっ!!」


その日、ついにユイトが作っていた剣が完成。

様々な素材を集め、試行錯誤を繰り返し、鍛えに鍛えぬいた剣。

アリィのためだけに作られた特別な剣。


「アリィ、ちょっといいか?」


「どうしたの?ユイトさん」

アリィが小走りでユイトの元へとやってくる。


笑みを浮かべたユイトの手にはアリィの剣が握られる。

「待たせたな。やっとできたぞ。

 ほら、アリィの剣だ」


ユイトから差し出された剣を両手で受け取るアリィ。

「ありがとうっ!!ユイトさんっ!!」

その瞬間、アリィは満面の笑みを浮かべた。


「その剣の名は”幸守こうしゅ”。

 アリィの幸せを守ってくれるように、アリィが大切な人の幸せを守れるように、

 そう願ってティナと一緒に考えた名前だ」


「嬉しい…ほんとに嬉しい…。

 ありがとう、ユイトさんっ!!ティナさんっ!!」


”幸守”を本当に大事そうに抱えるアリィ。

そんなアリィの姿が、その笑顔が、これまでの苦労以上のものをユイトに与えた。

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