第195話
その日の夜。アリィが眠りについた後。
「どうしようユイトさん。私たち、本当に帰れないんじゃ…」
不安な表情を浮かべ、どうにも落ち着かないティナ。
「…俺さ、あれから色々考えたんだ。
アリィの話からするとここはハミルガルドで間違いない。
レンチェストもあるって言ってたしな。
けど事実、俺たちは知らない世界にいる。
そしてここには俺たちの知っている国はない。
で、そこから考えられることは1つ。
ここは俺たちがいた世界とは時代が異なる世界」
「えっ!?」
「きっと俺たちは未来のハミルガルドか過去のハミルガルドに来てる。
けど未来だったら、そのときに無い国でも名前ぐらいは記録に残ってるだろ?
けどアリィは、クレスティニアもブレサリーツもその他の国も知らなかった。
つまり、俺たちは過去のハミルガルドに来てる可能性が高い」
「そんな……。じゃあやっぱり私たち…元の世界には……」
極度の不安の襲われ、青ざめるティナ。
「ティナ、これから言うことはあくまで俺の予想だけどさ、
でもその可能性は高いと思ってる。
遺跡でティナが触った石あるだろ?
あれは多分、古代宝具だ。時を遡る力を封じ込められたな。
俺たちは俺たちがいた時代から、その力で強制的にこの時代に連れてこられた。
でも俺たちは本来この時代にいる人間じゃない。
俺たちが今、この時代にいるのも、俺たちに古代宝具の力が
働き続けてるからだと思う」
「…じゃあ、古代宝具に封じ込められた力が尽きれば……」
「ま、そう言うことだな。
だから俺たちはその時を待つしかない。
ということで、不安になっててもしょうがないってことだな。
今、俺たちに出来ることをやる。ただそれだけだ」
「……やっぱりユイトさんは凄いね。
ユイトさんと一緒でほんと良かった…」
「ま、俺はティナの守り手だからな」
「うん、頼りにしてます!
それで、これからどうするの?
この辺りの魔獣を討伐する?それとも瘴気の原因を調査する?」
「そうだな…それでもいいけど…」
何だか歯切れの悪いユイト。
「…?なんか気になることでもあるの?」
「いやさ、この当たり前かのように瘴気が溶け込んだ世界。
間違いなく悪魔がいると思う。
で、仮に俺たちが奴らを探して潰しに行くとする。
でもさっき言ったように、俺たちがこの時代にいられるのは、
古代宝具に封じ込められた力が続く間だけだ。
いつ元の時代に戻されるか分からない。
悪魔を殲滅し切ってからかもしれないし、その途中かもしれない。
もし、道半ばで元の時代に戻ったら、
この世界は……アリィはどうなるのかなってな」
「それは……」
「おい、そんな難しい顔すんなよ。
それでさ、俺、思ったんだ。
だったら俺たちが元の世界に戻っても、
この時代で奴らと戦える奴を育てればいいんじゃないのかなってな」
「…確かにそうかもしれないけど、一体誰を?」
「アリィだ」
「…えっ?アリィ?」
「あぁ。昼間言ってただろ?アリィには不思議な力があるって。
あの歳で普通の魔獣を防げるんなら、鍛えればきっとアリィは強くなる。
俺とティナが鍛えればなおさらだ。
それに…アリィに大切な人を守れる力を付けさせてあげたいからな」
「…うん。そうだね」
「じゃあ決まりだな。明日から早速始めよう。
もちろん、アリィの気持ちを確かめてからだけどな」
そして翌朝。
朝食を終えた後、ユイトはアリィに昨晩の話を切り出した。
「アリィ、ちょっといいか?アリィに少し話があるんだ」
「私に話…ですか?」
「あぁ。聞いてくれるか?」
「はい」
アリィの返事にユイトが小さく頷く。
「まずはアリィ、俺とティナのことなんだけど、
実は俺たち…この時代の人間じゃないんだ」
「…えっ?」
あまりに唐突な、まったく予想もしていなかったユイトの言葉に固まるアリィ。
「まぁ、”多分”だけどな。
けどおそらく間違いない。俺たちははるか未来からやってきた。
昨日アリィにいろんな国の名前聞いただろ?
でもアリィはそんな国、聞いたこともないって言ってた。
でも俺たちがいたところには、確かにその国があるんだ。
俺たちはさ、住んでた世界の遺跡にあった不思議な石に触ったんだ。
で、その石に触れた瞬間、見知らぬ世界に飛ばされた。それがここだ。
おそらく、その不思議な石の力で俺たちはこの時代に連れてこられた。
でも、その石が持つ力が尽きた時、俺たちは元の時代に戻る。推測だけどな」
アリィが小さく頷く。
「俺とティナは、はっきり言って強い。
どんな魔獣からでも、どんな奴らからでもアリィを守ってやれる。
でも、それが永遠に続くわけじゃない。
いつかは分かんないけど、俺たちは元の時代に戻っちゃうからな。
だから俺たちがこの時代にいるうちに、アリィに伝えたいんだ。強くなる術を。
強くなってもらいたんだ。アリィに。
俺たちがいなくなっても、自分を守れるように、
そしてアリィの大切な人たちを守れるように」
幼さの残る少女が、少し大人びた真剣な表情を浮かべる。
「でもこれは強制じゃない。
アリィが嫌だったら遠慮なくそう言ってもらって構わない。
いきなりこんなこと言われて、すぐには決めれないと思うけど、
少し考えてみてくれよ」
「やります。私、やります」
ユイトの言葉に即座に答えるアリィ。
「アリィ…」
「私は強くなりたい。
大切な人を守れるように……もう二度と、大切な人を失わないように」