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第194話

「…とりあえず入ってみるか」

そんなユイトの言葉にティナが無言で頷く。


村の中へと足を踏み入れたユイトたち。

そこで2人の目に映ったのは、破壊された家々。そして散乱する衣類や生活用具。

それらはまだ朽ちてはおらず、最近まで使用されていたことがうかがい知れる。

「………」


さらに村の奥へと進んでいくユイトとティナ。

するとそんなユイトたちの目に、膝を抱え、そこに顔をうずめる1人の少女の姿が映った。


「人だっ!」

「行こうっ、ユイトさんっ!」


すぐに少女の元へと駆け寄っていくユイトとティナ。

そして少女の元に着くとすぐにユイトが声をかけた。

「おい、大丈夫か?」


「………。…もう…いいの。

 私のことはほっといてください」

抱えた膝に顔をうずめたまま答える少女。


「………」

そんな少女の言葉に、ユイトとティナは顔を見合わせる。


辺りを見渡してみると、少し先にたくさんの墓らしきものがある。

おそらくこの村に住んでいた人たちのものだろう。


「あのお墓はあなたが?」

そんなティナの問いに少女は無言で頷く。

そしてしばらくの沈黙の後、少女が静かに口を開いた。


「…大切な人たちだった。大好きな人たちだった。

 私を本当の家族のようにかわいがってくれた。

 なのに…私はみんなを守れなかった。

 私は…みんなの期待を裏切ったの…」


ぐすっ


「…なんで私が……なんで私だけ生きてるの?どうして…?」


深く傷つき、絶望する少女。

その言葉には、言い表せない程の悲壮感が漂っていた。


「なぁ、一体何が…」

「ユイトさん」

何があったかを問おうとするユイトに向け、ティナは無言で首を横に振った。


その直後、静かに少女に近付いていくティナ。

そして地面に膝をつけると、ティナはそっと少女を抱きしめ、優しく声をかけた。


「辛かったね。よく1人で頑張ったね」


ぐすっ


「…本当に大切な人たちだったの」

「うん」


「私にとっては本当の家族だったの」

「うん」


「なのに、どうして…」


悲しみに震える少女をティナがぎゅっと抱きしめる。

「…泣いても…いいんだよ」


ぐすっ

「う、うぅ…うあぁぁぁーーーーーーーっ」


ティナのその言葉に、少女は力いっぱいティナにしがみ付き、堰を切ったかのように泣き始めた。

延々と泣き続ける少女。

ティナはそんな少女を優しく、温かく、そして包み込むように抱きしめ続けた。


泣き疲れたのか、いつしか少女は眠りに落ちていた。

先ほどまでは抱え込んだ膝に顔をうずめ分からなかったが、少女は12、3歳ぐらいに見える。


その後、ユイトとティナは少女が目覚めるまで、その場で静かに待った。


……数時間後。

ようやく目を覚ました少女。

少女が目を開けると、そこには見知らぬ2人の姿があった。


「そういえば私……。

 ………。ごめんなさい…」

「ううん。いいのよ」

目を伏せ言葉を発す少女に向け、ティナが優しく微笑みかける。


「少しは落ち着いたか?」

「…はい」


「…なぁ、もしよければ何があったのか教えてくれないか?

 力になってあげれるかもしんないからさ」


そんなユイトの言葉にうつむき黙り込む少女。

するとその少し後、少女がぽつりぽつりと話し始めた。


旅の途中、突然魔獣に襲われ両親を失ったこと。

魔獣から必死に逃げ、この村に辿り着いたこと。

そんな自分を温かく迎え入れ、家族のように育ててくれた村人たちのこと。

皆、少女の持つ不思議な力を本当に頼りにしてくれていたこと。

そして、そんな大切な村人たちを守ることが出来なかったこと。


その内容は、少女がどれだけ深く傷つき、どれだけ深い悲しみの中にいるのかを知るには十分だった。


「…辛かったな」

少女の目に涙が浮かぶ。


「………」

どう言葉をかければいいのかを必死に考えるユイト。

「…なぁ、ここに戻ってきてから、きっと何も食べてないんだろ?」

こくんと頷く少女。


「じゃあ、これからのこと考える前にまずは何か食べないとな。

 食べれないものはあるか?」

少女が首を横に振る。


「そっか。じゃあちょっと待ってろよ。すぐに作るからな」


そういうとユイトは、早速、異空間収納から食材と調理器具を取り出した。

それは、何もないところから物を取り出すという、なんとも不思議な光景。


「私以外にも…不思議な力……」

その後、少女はユイトの行動をじっと眺め続けた。


ほどなくして、辺りにいい香りが立ち込める。

「よし、できたぞ。待たせたな」

料理を盛りつけた皿を少女へと手渡すユイト。


「たくさん食べろよ。

 美味しいもの食べたら元気が出るからな」

「…はい」


差し出された料理を口へと運ぶ少女。

「美味しい…」


そんな少女の言葉にユイトとティナが笑顔を見せる。

「じゃあ、俺たちも食べるか」

「うん」


3人でとる静かな食事。

少女はその後も黙々と食べ続け、ユイトが差し出した料理を全部食べ切った。


「どうだ?お腹ふくれたか?」

「はい。ありがとうございます」

「そっか。良かった」


ユイトとティナもすぐに食べ終え、後片付けまで済ませたユイト。


「そういや、まだ名乗ってなかったな。

 俺はユイトだ。よろしくな」

「私はティナ。よろしくね。

 あなたの名前は?教えてくれるかな?」


「…はい。私はアリィです」


「アリィか。しっくりくるっつーか、ぴったりな名前だな。

 で、アリィ。これからのことを考える前に、

 ちょっと教えて欲しいことがあるんだけどさ。

 実は俺たち、ここがどこなのかまったく分からないんだ」


「…まったく…ですか?」


「あぁ。俺たちさ、全然違う場所にいたのに、

 気が付いたらまったく知らない場所にいたんだ。

 ここって、リーンプエル王国のどこかなのか?」


「…リーンプエル王国?そんな国…聞いたことないです」


「…えっ?」

同時に声を上げるユイトとティナ。


「じゃあクレスティニア王国はどうだ?」

首を横に振るアリィ。

「それも聞いたことありません」


顔を見合わせるユイトとティナ。

ブレサリーツ王国、バーヴァルド帝国を聞いてみるも結果は同じだった。


「そんな…」

アリィの答えに衝撃を受けるユイトとティナ。

「まさか…本当に別の……。

 …じゃあ、レンチェスト王国はどうだ?」


「レンチェスト王国なら聞いたことがあります。

 でもここはレンチェスト王国じゃないです」


「レンチェスト王国はある…」

まだ大きな不安は残るものの、アリィのその答えに、ほんの少しだけ気が軽くなるユイトとティナ。


「…なぁアリィ。

 この世界って”ハミルガルド”で合ってる…よな?」

「はい」


「………。一体どういうことだ…?」

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