第193話
ガデラの街を出発したユイトたち。
2人は途中の町や村にも立ち寄りながら、のんびりとリーンプエル王国に向け進んでいく。
そしてガデラの街を出発してから10日ほどが経った頃。
ユイトたちは、グレア・ネデアとリーンプエル王国の国境沿いに広がる森の中にいた。
「ねぇユイトさん、もうリーンプエルには入ったのかな?」
「うーん、どうだろうな。森の中だとよく分かんないな」
「そっか…やっぱそうだよね。
…でももう少しだよね。もう少ししたら、おじい様やステラさんたちに会える!
すっごく楽しみ!!」
ユイトの方を向いて微笑むティナ。
ユイトはそんなティナの笑顔をしばしの間見つめる。
「………あ、あぁ、そうだな」
「どうかしたの?」
「…い、いや、何でもない」
「???」
その後も森の中をひたすら進んでいくユイトとティナ。
獣や魔獣ともほとんど遭遇せず、旅は順調そのもの。
するとその時、ティナが森に埋もれる何かを発見。
「ユイトさん、見てあそこ。何だろう?あれ」
ティナが指さす方をじっと見るユイト。
「…遺跡…か?」
「どうする?」
「そうだな……、ちょっと行ってみるか」
ティナが見つけた遺跡らしきところへと向かうユイトたち。
「…こりゃ、かなり古そうだな」
はるか昔に造られたのであろうか、随分と風化している。
「あそこが入り口かな?」
「多分そうだな。せっかくだし入ってみるか」
「うん」
ユキがぎりぎり通れるぐらいの狭い入り口から遺跡の中へと入っていく。
”光灯”
森と同化し、外からでは良く分からなかったが、中は思ったよりもかなり広い。
ずいぶんと奥の方まで空間が広がっている。
「結構広いな」
「うん。こんなの一体誰が作ったんだろう…?」
キョロキョロと辺りを見回しながら遺跡の奥へと進んでいく。
そしてしばらく進むと、2人は最奥と思われる部屋へと辿り着いた。
「ここで行き止まりか…」
「ねぇ、ユイトさん。これってなんだろう?」
部屋に設置された立派な台座。
その上に置かれた石のようなものを指さしながら尋ねるティナ。
ユイトもすぐに台座の近くまで行くと、まじまじとそれを眺める。
「………。これは……」
「何か分かったの?」
「おそらく…」
「おそらく?」
「…石だな」
「もうっ!ユイトさんっ!!」
「ははは、ごめんごめん」
「…でも、ほんと何だろう?こんな立派な台座まで作って…」
そう言いながら、台座に置かれた石へと手を伸ばすティナ。
そしてティナの指先がその石に触れた瞬間、突然視界が歪み始めた。
「…えっ!?何っ!?」
「…な、なんだっ!?」
その直後、ユイトとティナは台座の上に置かれた石が放つ光の渦へと飲み込まれていった。
「きゃあぁぁぁーーーっ!!」
「うわぁぁぁーーーっ!!」
そして………
「…えっ」
「まじか……」
そう声を漏らすユイトとティナの眼前に広がるのは、先ほどまでいた遺跡とはまったく異なる見知らぬ景色。
「……ひょっとして……飛ばされたのか?」
あまりに突然の転移に、ユイトは一瞬、あの時のことを思い出す。
「ユキ?ユキっ!?」
キョロキョロと辺りを見渡すティナ。
「どうしよう、ユイトさんっ!?ユキがいないっ!!」
ユイトもすぐに広域感知魔法でユキを探してみるも、ユキの気配を感じない。
「…だめだ。近くにはいないみたいだな」
「どうしよう…」
突然のことに焦るティナ。
「…ひょっとしたらユキは、まだあの遺跡にいるのかもしんないな。
光の渦に飲み込まれたとき、ティナの姿しか見えなかったからな」
「そんな……」
「そう焦んなくてもユキなら大丈夫だって。
今やあいつも立派な神獣だからな」
「そうだけど…」
「とにかく俺たちがすべきことは、少しでも早くあの遺跡に戻ることだ。
そのためには、まずはここがどこなのか調べないとな」
「……戻れるのかな、私たち」
かつてユイトが経験した出来事が頭にちらつくティナ。
そんな不安げな表情を浮かべるティナにユイトが声をかける。
「大丈夫だ、ティナ。
俺も一瞬あの時のことが頭に浮かんだけど、俺の時とは全然違うからな。
俺がハミルガルドに来たときは、ほんと突然だったからな。
でも今回は違う。おそらく遺跡にあったあの石が原因だ。
ハミルガルドの物が引き起こしたこと。
だからきっと俺たちはハミルガルドのどこかにいる」
「うん…。ごめんね。私が石に触れたばっかりに…」
「そんな気にすんなよ。何とかなるさ」
「…うん」
「けど、1人じゃなくて良かったよ。
ティナがいなかったら多分、こんな落ち着いていられなかった。
きっとおろおろしてたぞ、俺」
「ふふ。ユイトさんがおろおろって。ちょっと見てみたいかも」
「はは。この先きっと、いくらでも見れると思うぞ。
……じゃあ、とりあえず行くか。
まずは情報を集めないとな。町や村を探そう」
「うん」
早速、町や村を探すべく、見知らぬ世界へと足を踏み出したユイトとティナ。
だが当然、2人にまったく当てはない。
足の赴くまま見知らぬ地を彷徨っていく。
そして、その途中…
「ねぇユイトさん、この感じって…」
「……あぁ、瘴気だな」
しかしそれは、これまでとはまた違った感覚。
特定の場所に強い瘴気が集まっているというよりは、かすかに瘴気が世界に混じり込み、漂っているような感覚。
「…一体どういうことだ?」
それから何の手掛かりもつかめないまま数日が経過。
そしてその日ついに、当てもなく彷徨い続けたユイトとティナの目に村らしきものが映り込んだ。
「ユイトさんっ!あれって村じゃないっ!?」
「ほんとだっ!急ごうティナ!」
「うんっ!」
ようやく見つけた村へと急ぐユイトとティナ。
しかしその村の入り口で、2人は急に足を止めた。
「何だよ…これ…」
「ひどい…」
ユイトたちが発見した村。それは、無残にも破壊し尽くされた村だった。