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第19話

そして翌日。

そこはユイトが泊まる部屋。


「……あーくそ、なんかモヤモヤする」

昨日の光景が頭から離れない。


ユイトにとってティナは恩人。

そして、主観的に見ても、客観的に見ても、あんないい子はそうそういない。

そんなティナに対する町人のあの態度。そしてティナが見せたあの表情。


「………。

 ……あーーダメだ。とりあえず出かけるか……」


部屋にいては、どうにもこうにも気が晴れない。

やはりこんな時は、何か他事をして気を紛らわせるのが一番だ。

ということで、ユイトは早速、買い物へ。


「よし。旅に必要なものを一通り揃えよう」


ひとまず念願叶って町には来たものの、このままこの町に居続ける気なんてさらさらない。これからも色々と旅をすることになるだろう。


コンビニ商品の在庫もそれなりに残ってはいるが、あれはこの世界においてはかなりの高品質。というかスーパーオーバースペックだ。

この世界の物で事足りるなら、コンビニ商品はいざという時のためにとっておきたい。ユイトはそう考えた。

お金もあと銀貨20枚、およそ20万円ほど残っている。

一通り買い揃えたとしても、おつりがくるだろう。


宿屋を出て通りを歩くユイトは、まず最初に服屋に入る。

「下着やシャツはいくらあってもいいからな」


日本のように色んなデザインがあるわけでもない。辺境ならば尚更だ。

ユイトは迷うことなく何枚かの下着とシャツを手に取ると、そのまま会計へ。


「毎度!」


会計を済ませたユイトはせっかくなので、他の町について聞いてみた。

だが、交通手段も情報網も発達していないこの世界。

親父さんが知っているのは、伝え聞く大きな街の情報ぐらいとのこと。


しかし、ユイトが知りたかったのは、まさにその大きな街の情報だ。

なぜなら、大きな街に行けば、この世界の情報がきっと色々と手に入る。

なんとかして大きな街に行きたいユイトにとって、それは願ったり叶ったり。


早速ユイトは大きな街への行き方について、店の親父さんに聞いてみる。

するとどうやら、大きな街まではかなりの距離があるらしい。

行き方はというと、まずこの町を出て東に向かう。

ひたすら東に進むと、かなり行った先にナイチという村があるそうだ。

そして、その村から南へ延々と下っていくと大都市サザントリムがあるとのこと。


「ふむふむ、なるほど…。東に行って、そこにある村から南へと…」

忘れないよう、しっかり記憶に刻み込む。


その後も親父さんが知っている情報を一通り教えてもらって店を出る。

「ありがとう。助かったよ」


服屋を出たユイトは、次は道具屋へ。

店の中に入ってみると、道具類だけでなく調味料なども置いてある。

道具屋というよりは、何でも屋といった感じだ。


ここでは食事関連の物を買い揃える。

なにせこれまでは魔獣の森の中でのワイルド生活。

食事と言えば、色んな魔獣の炙り肉。

調理器具はもちろん、食器の1つも持っていない。

さすがに、たまには調理した他の料理も食べてみたい。

料理人めざして調理師専門学校に通っていたユイトならばなおさらだ。


ということで、食器、調理器具、塩・胡椒などの調味料を一通り購入。

だが残念なことに、醤油や味噌は置いていなかった。

ソウルフードを食すため、いつか必ず作ってやると心に誓うユイト。

(……で、どうやって作るんだ?)

だが、その日が来ることはないだろう。


店を出る際、ユイトは少し気になっていることを店主に聞いてみた。


「この町についてちょっと聞きたいんだけど。いいかな?」

「あぁ、構わんとも」

「悪いな。俺、この町に来たばっかでよく知らないんだけどさ、

 ここって辺境の町なんだよな?

 にしては、やけに新しい建物が多いと思ってさ。

 辺境って聞いてたから、もっと古い建物ばっかかなって思ってたんだけど」


それはユイトが町に入ってからずっと思っていた疑問だった。


「……あぁ、そのことかね。それには理由があるんだよ」

ユイトの疑問に答えるべく、店主が話し始めた。


「今から3年ほど前のことだ。

 ある日突然、魔獣の群れがこの町を襲ったんだ。

 襲い来る魔獣を前に我々は為す術がなかった。

 町は破壊し尽くされ、町人たちにも大きな被害が出た。

 その際破壊された建物は、修理程度では直らなくてね。

 ほぼすべての建物が作り直されたんだ。

 その結果が、今あんたが言った、辺境の町に似つかわしくない

 新しい建物ってわけさ」


「なるほど……そういうことか……。

 ちなみにだけど、町を襲った魔獣ってどんな魔獣だったんだ?」

「……確か…クリスタルリザードとかいったか。

 体長3メートルほどもある奴らが20~30体一気に押し寄せてきたんだ」

「クリスタルリザード?……確か、あいつらって……」


少し考えこむユイト。


「なぁ、この町を襲ったその魔獣の中に一際大きい、

 そうだな…体長15~20メートルほどの奴はいなかったか?」

「いや、そんな大きな奴はいなかったよ。

 もしそんな奴がいたら、この町は滅んでるよ」


「そっか……。

 もう一度聞くけど、この町を襲ったクリスタルリザードは

 20~30体で間違いないんだな?」

「あぁ、確かにそのくらいだったよ」

「分かった。色々教えてくれてありがとな。助かったよ」

「いや、こっちこそたくさん買ってくれてありがとう。

 それでは、またのお越しを」


道具屋を出たユイトは再び考える。

(20~30体のクリスタルリザードがこの町を襲った?)

さっきの話、どうにも腑に落ちない。


引っかかる点はいくつもある。

まず、町を襲ったのが20~30体というのが少な過ぎる。


通常クリスタルリザードは100体前後で群れを作る。

そして縄張り意識が非常に強いクリスタルリザードは、縄張りを侵食したものに対し、群れ全体で排除にかかる。

反面、狩りをする場合には群れることはない。

つまり、この町を20~30体で襲ったとなれば、それは狩りではなく、縄張りを侵食したものに対する報復だ。

通常ならば100体前後のクリスタルリザードが押し寄せるはずだ。

それがわずか20~30体。


そして何より、群れのボスであるクリスタルリザードクィーンがこの町に現れてないことがおかしい。

縄張りを侵食したものに対する報復は、必ずクィーンが先導するからだ。


(ここから考えられることは……)


このあとユイトは、立ち並ぶ露店で野菜や果物などを買い漁る。

ユイトが買ったのは、日本では見たこともないような野菜や果物たち。

当然味は分からない。

だがそれも一興。食べるときのお楽しみだ。


そして時刻は夕方。

一通り買い物を終えたユイトは、宿屋へと向かう。


その途中、ユイトは昨日に続き、偶然にもティナを見かけた。

その手には採集かごを持っている。

おそらく採集が終わって、家へと帰る途中なのだろう。


(……どうすっかな)


昨日見たことがずっと気になっているユイト。

ユイトはティナの近くまで行くと、静かにティナの様子をうかがった。


しばらく歩いたのち、ティナが民家の敷地へと入っていく。

扉の前に立ったティナが家のドアをノックする。

そこがティナの家なのだろう。


しばらくすると家の扉が開かれた。

中から出てきたのは1人の女性。ティナが言っていた叔母さんだろうか。

と、次の瞬間、その女性はティナから採集かごを奪い取り、何かを言ってティナの頬を激しくぶった。


「なっ……」

ユイトは言葉を失った。


ぶたれた衝撃で地面に倒れこむティナ。

そんなティナに向け、その叔母らしき人物はパンを1つ投げつける。

そしてすぐに、家の扉は閉じられた。

ティナは地面に転がるパンを拾うと立ち上がり、うつむきながら家の外にある小さな小屋へと入っていった。


その時、ユイトはティナの言葉を思い出していた。


  『…ううん。お父さんとお母さんは3年前に死んじゃったんだ』

  『いいの。きっとお父さんとお母さんは天国から私を見守ってくれてる』


「…まさか…両親を失ってから、ずっとこんな扱いを受けてきたのか……?

 こんな扱いを受けながら、それでもあんな笑顔を見せてくれたのか……?」


(………)


言葉にならない感情が、心の奥底から沸き起こる。

爪が食い込むほど強く握ったユイトの拳からは、血が流れ落ちていた。

そして、町に来た日に町人から向けられた嫌悪の視線は、ユイトではなく、ティナに向けられたものだったとようやく理解した。

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