第188話
その翌日。
「ティナ。今回の件さ、実はイーファさんにも協力してもらったんだ」
「…えっ、イーファ様にも?」
「あぁ。この前、フェルミーリアさんに助けを求めるために
精霊界に行ったって言ったろ?
で、精霊界に行くためには、”精霊の棲み処”に行く必要がある。
そん時に協力してもらったんだよ」
「そっか…。
じゃあイーファ様にもお礼を言いに行かなきゃダメだね」
「そうだな。
イーファさんもラナさんも、今もめちゃくちゃ心配してると思うしな」
「えっ!?だったら早く行かないとっ!?
ユイトさん、今から行こうよ?」
「そうだな…その方が良いかもな。
じゃあ、最初はイーファさん、で、その後はジークだな。
ティナはジークの目の前で倒れたからな。
ジークもめちゃくちゃ心配してると思う」
「あーもう、なんか私、すっごく色んな人に迷惑かけてる」
「まぁそう言うなよ。
この前も言ったけど、誰も迷惑なんて思ってないからさ。
ジークに会ったら、ちゃんとこの間の優勝を祝ってやろうぜ」
「うん、そうだね。分かった!」
「じゃあ、みんなに出発の挨拶でもしに行くか」
そうしてユイトとティナは、出発の挨拶をするべく、皆の元へ。
皆、そんなユイトたちの急な出発の知らせに大いに驚くも、すぐに2人の事情を理解してくれた。
その後、ユイトたちはもう一度精霊樹の元へと赴いた。
それはもちろん、精霊樹の実を採るためだ。
当然、ユーリネスタの許可は下りている。
というか、むしろユーリネスタからの提案だ。
精霊樹の枝に飛び乗り、精霊樹の実をもぎ取っていくユイト。
今後も何があるか分からない。ということで、少し多めにもらっておく。
「これくらいで大丈夫かな。
…さてと」
トンッ
精霊樹の枝から飛び降りたユイトが軽やかに着地。
「待たせたなティナ、ユキ。
それじゃあ、行くか」
こうして精霊樹の実を採り終えたユイトたちは、皆との別れを惜しみつつリシラを出発。一路、ブレサリーツへと向かっていった。
…そして、その数日後。
ブレサリーツ王城前へと到着したユイトとティナ。
そんな2人の姿を見た兵士が、すぐさま王城に向かって走り出す。
そして兵士が王城の中へと消えていってから少し後。
王城からイーファとラナが勢いよく飛び出してきた。
城門に向かって全力で駆けてくるイーファとラナ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
そんな2人の目には、ユイトとともに立つティナの姿が映る。
その後すぐ城門へと辿り着いたイーファとラナ。
「ティナ様っ、良かった…本当に良かった」
2人の目に涙が浮かぶ。
「イーファ様、ラナさん、
この度は本当にご心配をおかけしました。
皆様のおかげで、なんとか命を繋ぎとめることが出来ました。
本当に、本当に感謝いたします」
ティナがイーファとラナに向かい頭を下げる。
「イーファさん、ラナさん。
俺からも礼を言わせてくれ。
ティナを救えたのもイーファさんたちのおかげだ。本当に感謝してる」
そんな2人の言葉にイーファは首を横に振る。
「いいえ。
私たちはティナ様のご無事を祈ることしかできませんでした。
ティナ様をお救いになられたのはユイト様です。
ですので、そんなにお気になさらないでください。
とにかく、ティナ様がご無事で本当に良かった。
それではティナ様、ユイト様。
ここでは何ですので王城の中へどうぞ」
イーファの後について王城内へと移動する。
案内されたのは立派な貴賓室。
従者によりすぐに飲み物が準備され、その後、貴賓室の扉が閉じられる。
「…それじゃあ、イーファさん。
まずは、今回、何があったのかを説明するよ」
あの時は時間にも心にも一切の余裕なく、事情を説明できていなかったユイト。
まずは今回起こった出来事、その仔細をイーファとラナへ伝えた。
そして……
「…まさか…そんなことが……」
ティナを死の縁へと追いやり、そしてユイトの力をもってしても、どうすることもできなかった恐ろしき魔毒。
ティナの強さと、ユイトの常識外れな力を知っているからこそ、イーファとラナはその事実に驚きを隠せなかった。
「……それにしても、精霊樹とは凄いものですね。
ユイト様ですら治せない魔毒の症状を治してしまうなんて」
「あぁ、俺もほんとそう思う。
ちなみにその精霊樹ってのはさ、世界樹が進化したものなんだ」
「世界樹が進化…ですか?」
「あぁ。精霊女王のフェルミ―リアさんの話だと、世界樹はもともと、
神が神界にある”神樹”ってのを模して作ったものらしいんだ。
それが進化して、より”神樹”に近づいたものが精霊樹」
「それはなんとも壮大なお話ですね…」
「まったく。ほんとそう思うよ。
つーわけで、一言で言うと、精霊樹はとんでもなく凄い樹ってやつだな」
「ふふっ。その通りですね」
「…で、これがその精霊樹の実だよ」
そう言いながら異空間収納からいくつか精霊樹の実を取り出したユイト。
「これが精霊樹の実…」
「あぁ。もし、今言ったような症状が出た人がいたらこれを使ってくれ」
「よろしいのですか?このような貴重な物を…」
「構わないよ。まぁ、お礼ってことでさ」
「…そうですか。
分かりました。それではありがたく頂戴させていただきます」
するとその時、精霊樹の実を見たティナの頭に、1つの疑問が浮かび上がった。
「…ねぇ、ユイトさん。
そういえば私、ずっと意識がなかったんでしょ?
どうやって精霊樹の実を食べたの?」
「…えっ……そ、それはだな……、
えーっと、ジュース状にして、それで……」
もごもごするユイト。
「まぁとにかく、ティナはジュース状にした精霊樹の実を飲んだんだよ」
そんなユイトの反応から、何をしたかを察したイーファがくすっと笑う。
「ふふっ。
とにかく、ティナ様が無事回復されて安心しました。
今回は空を飛ぶなんていう貴重な経験も出来ましたし」
「…空を飛ぶ?」
ティナの頭に?が浮かぶ。
「この前さ、”精霊の棲み処”に行くとき
イーファさんに協力してもらったって言っただろ?
とにかく少しでも早く”精霊の棲み処”に着きたくてさ。
それで城門までやってきたイーファさんをそのまま抱えて
”精霊の棲み処”まで飛んでったんだよ」
「えっ…?
一国の女王様を抱きかかえて飛んでったの?王城から?」
その姿を想像するティナ。
すると乙女心から、なんだかほんの少しだけ、もやもやっとした気分に。
そんなティナの気持ちを察したのかイーファがティナに声をかける。
「ティナ様。大丈夫…何の心配もいりません。
自信をお持ちください。
ティナ様のことしか見えてませんから」
あのときのユイトの様子がイーファの目に浮かぶ。
「…本当に、ティナ様が羨ましいぐらいです」
「イーファ様…」
「…何の話だ?」
「ふふふ。女同士の話ですよ」
「???」
「…ところでイーファ様。1つお願いがあります」
「お願いですか?」
「はい。…今回のこと、おじい様には、
ゼルマ陛下には内緒にしていただけないでしょうか?」
回復した今となっては、余計な心配をかけるだけ。
家族を想う、そんなティナの優しい気持ちをイーファは汲み取った。
「分かりました。
では今回のことは私の心の中にそっとしまっておきますね」
「どうもありがとうございます。イーファ様」