第181話
大興奮の中、終わりを迎えた閉会式。
その後、母への報告を済ませたジークがユイトとティナの元へとやってくる。
「おめでとう、ジーク君!よく頑張ったね!」
「ティナさんのおかげだよ!本当にありがとう!!」
「ううん、ジーク君が頑張ったからだよ!」
「よく頑張ったな、ジーク。
これでもう、お前を馬鹿にする奴なんて誰もいない。
王様も言ってただろ?お前の頑張りが、グレア・ネデアを変えたんだ」
「うん!」
顔いっぱいに喜びの表情を浮かべるジーク。
そんな喜びと嬉しさ溢れる会話を交わす中、突然ティナがふらついた。
「…ティナ?大丈夫か?」
「大丈夫?ティナさん」
「……うん、ごめんね。私、ちょっとだけ疲れてるみたい」
そう言うティナの顔色はかなり悪い。
「おい、ほんとに大丈夫なのか?なんかめちゃくちゃ辛そうだぞ?」
「…うん、大丈夫だよ」
その言葉とは裏腹に、辛そうな表情を浮かべ更にふらつくティナ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。
……ごめん、ユイトさん。やっぱり…無理みたい…」
おそらく限界まで我慢していたのだろう。
ティナはそのまま意識を失うと、ユイトに寄りかかるようにして倒れ込んだ。
「ティナ?ティナっ!?おいっ、ティナっ!?」
「ティナさんっ!?」
思いもよらぬあまりに突然の出来事に、ユイトとジークが大きく焦る。
ユキも不安そうな表情を浮かべティナへと寄り添う。
「ユイトさんっ、ティナさんどうしちゃったのっ!?」
「俺にもまったく分からん。…一体どうしたってんだ?」
意識を失ったティナを前に戸惑うユイト。
「……そういやさっき疲れてるって言ってたよな…。
治癒魔法で何とかなるのか?」
するとユイトは、ティナを抱きかかえたまま、すぐに治癒魔法を発動。
”最上位治癒”
濃密なユイトの魔力が意識のないティナを包み込む。
その魔力がティナを回復させてくれることを期待し、そのまま静かにティナを見守るユイトとジーク。
だが、いくら待ってもティナの意識は回復しない。
それどころか顔色はさらに悪くなり、息づかいもさらに辛そうになっていく。
「…くそっ……治癒魔法じゃダメなのか?
それとも効果が足りてないだけなのか?」
”最上位治癒”
”最上位治癒”
”最上位治癒”
再び何度も何度も、繰り返し治癒魔法を発動するユイト。
だがそれでも結局、辛そうなティナの状態が改善することはなかった。
「…おい…一体どうすりゃいいんだよ」
未だかつて経験したことのないその状況に激しく動揺するユイト。
「…ねぇ、ひょっとしてティナさん、病気なんじゃないの?」
そんなジークの言葉に、ユイトがはっとする。
確かにこれまで治癒魔法で病気を治したこんなんて一度もない。
治癒魔法が病気に効くなんて保証はどこにもない。
すぐさまユイトがジークに問いかける。
「おい、ジーク、この街に医者っていないのかっ!?
もし医者を知ってたら教えてくれっ!!」
「お母さんが見てもらってた医者なら分かるよ」
「頼む、すぐにそこに連れてってくれっ」
「うん、分かった!」
ジークに案内され、すぐに医者の元へと向かったユイト。
もし病気だったとしたらこれで何の病気かは分かるはずだ。
しかし、医者から返ってきたのは想定外の言葉だった。
「済まない。私では何の病気かまったく見当もつかない。
悪いが、私にはどうすることもできない」
「そんな……」
期待を裏切られたユイトが、すぐに外に出る。
そんなユイトの腕の中でティナの苦しそうな息づかいが続く。
「くそっ、まじでどうすりゃいいんだよ…」
激しく焦る中、必死に考えを巡らすユイト。
と、その時、ユイトはリシラで聞いたユーリネスタの言葉を思い出す。
『世界樹から採れる世界樹の雫は、傷を癒し、病を治す薬にもなる』
「そうかっ!!」
すぐさま異空間収納から世界樹の雫を取り出すユイト。
「ユイトさんっ、それは?」
「こいつは世界樹の雫って言って、世界樹の葉に着いた朝露を集めたものだ。
病気だったらこれで治るはずだ!」
ユイトは世界樹の雫が入った小瓶の蓋を開け、すぐにティナの口へと注ぎ込む。
だが意識の無いティナの口からは、注いだ世界樹の雫がそのまま空しく零れ落ちる。
「…くそっ、駄目か。
…………。…ごめん、ティナ」
ユイトは小声でそう発すると、世界樹の雫の入った小瓶を口にする。
そして含んだその世界樹の雫を、口移しでティナへと飲ませた。
「頼む、効いてくれ」
不安を抱えながら、ティナの回復を静かに待つユイトとジーク。
するとそんな2人の前で、ティナの苦しそうな息づかいが少しずつ消えていく。
「ユイトさんっ!」
「あぁ、良かった…。効いたんだな」
そんなティナの様子に、ユイトとジークはほっと胸をなでおろす。
そのまま2人は、ティナが目を覚ますのを静かに待った。
だが、しばらくたってもティナの意識は回復しない。
そしてその後、どれだけ待ってもティナの意識が回復することはなかった。
「…おいっ、どうなってんだよっ!?
世界樹の雫は病気を治すんじゃなかったのかよっ!?」
一向に意識が回復しないティナを前に、再び激しく動揺するユイト。
(苦しそうな息づかいは治ったんだ。世界樹の雫に効果があるのは間違いない)
(けど、それだけじゃ足りない…一体どうすりゃいいんだ……)
必死にあれこれ考えるユイト。
(世界樹の雫……ひょっとして、エルフの里のみんななら…)
「ジーク、悪い。俺はこのままティナを連れてエルフの里に行く」
「…エルフの里?」
「あぁ、あそこなら何か分かるかもしれない」
「うん、分かった。
ユイトさん、お願い。絶対にティナさんを助けてあげてっ!」
「あぁ、もちろんだ。
…ごめんなジーク。ジークを祝うべき日だってのに」
「ううん、気にしないで。それよりも早く行ってあげて!!」
「分かった。ありがとな、ジーク」
そしてティナを抱えたユイトは、すぐにガデラを出発。
ユキとともにリシラへと急いだ。
休むことなくリシラへと走り続けるユイトとユキ。
途中、再びティナが苦しそうな息づかいをし始める。
「世界樹の雫の効果が切れたのか?」
すぐに世界樹の雫を取り出し、再びティナへと与えるユイト。
「ティナ、もう少しの辛抱だからな。もう少しだけ我慢しろよ」
そしてガデラを出発して数日後、ユイトたちはエルフの里リシラへと到着した。